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14話 寂れた孤児院

 その週末、フタミたちは久し振りに学園の外へ繰り出した。フタミはイチルとともに商会へ。ミツハは孤児院に。ヨツギは本屋だ。 「おー、みんな元気かー」  商会の扉をくぐると、店のみんなが顔を上げて出迎えてくる。 「イチルさん、フタミさん! お帰りなさい。学園はどうですか?」 「まあまあだよ。店は変わりない?」  イチルの言葉に、嬉しそうに従業員たちが駆け寄ってくる。この店の従業員の多くが孤児院出身で、みんな年若いものばかりだ。 「相変わらず、クッキー缶が人気です。それと、ドライヤーが売れ始めましたよ」 「お。良かった。今度はトースター作ろうと思ってさ。これ設計図」 「フタミ、お前いつの間にそんなもの書いたんだよ……」 「え? 欲しいだろ? トースター。この前焼きおにぎり作ったとき、欲しくなってさ」 「まあ、分かるけど……」  図面を担当の従業員に手渡しながら、説明する。フタミが今日、商会に顔を出した目的の一つである。 「ああ、これならそれほど難しくないですね」 「だろ? で、ここの安全装置で高温になりすぎるのを防いで……出来れば素材は燃えにくいやつで……」 「ふむふむ」  試作品ができたら連絡すると言いながら、話を終える。そんな間に、イチルの方は帳簿の確認を始めたらしく、奥の部屋へと行ってしまっていた。 「あ、そうだ。チャコいる?」 「チャコならこの時間は倉庫じゃないですかね」 「解った。ありがとう」  礼を言い、店の裏手にある倉庫に行くと、ソバカス顔の三つ編みの少女が二人作業で在庫の確認を行っていた。フタミの姿に気付き、手を止める。 「お疲れー。ちょっとチャコに用があってさ」 「フタミさん、お帰りなさい。私に用事ですか?」 「うん。これなんだけど」  そういって、フタミは抱えていた袋からガウンを取り出す。チャコの目の色が変わった。 「まあ。素晴らしい……でもずいぶん、傷んでますね」 「うん。これ、借り物でさ。アユハラの実の石鹸なら洗えるって聞いたんだ」 「ああ、南方の洗浄剤ですね。解ります。手に入ると思います」 「頼めるかな。えっと、なるはやで」 「解りました。『なるはや』ですね。お任せください」 「サンキュ。助かる」    ◆   ◆   ◆  商会での用事を終えると、フタミは孤児院の方へと向かった。イチルはまだ細かい話があるようなので、単独で移動する。  王都の裏通りにある孤児院は、古い大きな建物である。土地だけは広く、孤児院の庭ではささやかな家庭菜園と、子供たちが駆け回る場所がある。その庭に、ミツハとヨツギがいた。ミツハは腕を捲って畑の手伝いをしており、ヨツギは庭の片隅で本を広げて読んでいる。ヨツギの周囲には子供たちが集まって来ており、横から興味深そうな顔で本を覗き込んでいた。ヨツギとしては相手をしているつもりではないのだろうが、それでも本を指差して「これは何て読むの?」という質問にはちゃんと答えている。 「おー、久し振りー」 「あ! フタミだー!」 「フタミにーちゃん!」  子供たちが気づくと、ミツハたちも気づいて顔を上げる。フタミは商会から持ってきたお菓子の箱を広げて、子供たちに見せてやった。 「ほい、お土産だぞー。おやつにしよーぜ。手洗ってこいよ」 「商会の方は終わったのか?」 「イチルはまだ残ってる。クッキー缶が好評だってよ」 「お、おやつ、食べに行こう」  ヨツギも本を閉じて、子供たちを促す。 「良い本あったか? ヨツ」 「ん、こ、これ」 「えーと、『魔術大全~よく分かる! 黒魔術の歴史~』って、大丈夫か? それ」 「お、おもしろい」 「そ、そうか……」  なんて本を子供に読ませているんだと、若干顔を引きつらせながら、フタミは苦笑いする。子供たちが建物のなかに入ったのを見送って、フタミはミツハの方を見た。 「それで、孤児院のほうは?」 「まあ、なんとか。商会組が給与を大分、孤児院に入れてくれているみたいで、なんとかなっている。だが、芳しくはないな。生活は出来ているが、新しい設備を買う余裕まではない」 「そうか……」  通常、孤児院の運営は寄付で成り立っているが、ここ数年、その寄付がずっと途絶えている。そのため、『日の本商会異世界出張所』からの支援や、孤児院出身者からの支援で賄っているが、現実的ではない。  孤児院出身者たちは現在、共同で『日の本商会異世界出張所』の押さえているアパートを寮扱いにして暮らしているが、自立のためには働いて得たお金は自分たちの為に使うべきだが、それが出来ていない。商会の支援をもっと厚くすることは可能だが、一つの孤児院に肩入れすることのデメリットや、貴族との兼ね合いもある。  孤児院というのは、本来、貴族が管理するものらしい――というのを、フタミは最近知った。もっと支援すれば良いのでは? というフタミの言葉に、イチルは良い顔をしなかった。イチルは男爵家の嫡男であるため、フタミよりも貴族というものを解っている。  正常に運営されている場合、孤児院はそもそも、貴族によって設立される。定期的に貴族が設立した孤児院に出資し、運営していくのだ。孤児たちはそれゆえ、貴族を尊敬し、貴族の下請けとして産業などを下で支えていく。これがうまくいかないと、孤児院出身者の犯罪率が上がり、ひいては貴族の評判が下がる。  イチルたちと合流するまでの孤児院運営は酷いもので、ミツハは同世代の孤児たちと協力して、なんとか孤児院を立て直そうと奔走していたが、当時は借金もあり、暴力沙汰も相応にあったらしい。恐らく、合流が遅ければミツハはもっと極端な手段に手を染めていたかもしれないし、見目の良いミツハを狙っていたヤクザに連れ去られていたかもしれない。なんというか、間一髪だったのだ。 「おれも、早く働きたい……」  グッと拳を握るミツハに、フタミは無言を返す。前世の記憶があり、精神的に成熟しているミツハにとって、今の学園生活は、あまり好ましくはないのかもしれない。商会の出資金と、イチルが『ミツハが学園に行けば、他の孤児たちも学園を目指すようになる』という言葉がなければ、たぶん働きに出ていただろう。 「まあまあ。商会の売り上げ、もっと伸ばすからよ。もっと儲けて、みんなに稼がせてやるからな」  ポンポンと肩を叩くフタミに、ミツハが表情を緩めた。 「フタミの目標は、早期引退、スローライフだもんな」 「そうよ。ファイアー一択。そのための玉の輿。そのための商会運営。オレは商人だからね」  ミツハが笑ったので、それで良いとフタミは思った。

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