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15話 情緒はないけど十分に

 チャコがガウンを届けてくれたのは、翌日のことだった。さすがに仕事が速い。彼女に任せて正解だったと、仕上がってきたガウンを見てフタミは満足げに頷く。 (あとは返却だけど……。さすがにディオルフのクラスに近づくのはな。他の攻略者もいるし)  寮に届けるのは、なんとなく人目がある気がする。今日の届け物はクッキーではなくナイトガウンなのだ。袋も大きいし、目立っても良いことはない。 (なによりイチルに見つかりそうだし)  あまり関わるなと言われているのに、正直、結構関わっている。今のところ『知り合い』以上ではないので、影響はないと思っているが。 (調理室行ったら、会えたりして)    ◆   ◆   ◆  周囲が寝静まったのを確認して、フタミはベッドを抜け出した。イチルは身体を丸めて眠っているし、ミツハは静かに寝息を立てている。ヨツギは分厚い本を抱き抱えたまま、眉間にシワを寄せていた。  なんとなくヨツギの眉間のシワを伸ばし、本を引き抜いて代わりにフタミの枕と交換する。柔らかい枕を抱きしめ、ヨツギの表情が和らいだ。 (これでヨシ)  窓を音を立てないよう慎重に開け、階下を覗き込む。見回りなどの姿はない。紐に括った袋を慎重に地面に下ろし、無事に荷物が下ろせたのを確認してから、フタミは木を伝って地面に降り立った。 「よし、成功」  二度目の脱走も、無事に成功である。ガウンの入った袋を肩に掛け、調理室に足を向ける。  と、不意に耳に人の声が飛び込んで来た。 「んぅ……っ」  その声にドキリとして、慌てて物陰に隠れる。だが、周囲に人影はなかった。 (……なんだ?)  警戒しながら周囲を確認していると、再び声が聞こえてくる。 「ばか、静かにしろって……」 「んぅ、う……」  どこからか聞こえてきた少年の声に、音のした方へと視線を向ければ、建物の陰に隠れて少年らが何かをしているのが見えた。暗がりでよく見えないが、密着して何かを言い合っている。 「や……っ」 「うるせぇ、黙ってろ……」  どうやら、生徒ではないようだ。気になったが、ディオルフに会えなくなると困るので、フタミはその場を後にして、調理室へと向かう。  近くまで行くと、窓から明かりが漏れているのが見えた。 (お。居る)  きっと、ディオルフだろうと思いながら、扉に手を掛けた。 「やっほー、ディオルフ、いる?」 「―――フタミ……」  ディオルフが振り返り、目を見開く。そして、フタミの相変わらずの薄着姿に、大きく顔を顰めた。 「やっぱ居たか。これ、この前借りちゃったガウン」 「ああ――というか、その格好を何とかしろ!」 「へ?」 「何故ガウンを貸したのか覚えてないのか!?」  顔を赤くして怒るディオルフに、フタミは目を瞬かせる。  フタミにとって、この格好はただの寝間着だ。現代日本の感覚で過ごすフタミには、実家のお手伝いくらいしかお小言を言わなかったので、あまり身に付いていない。 「いや、だって、ただの寝間着よ?」  先日は押しきられてガウンを羽織っていたが、フタミにとっては必要ないものだ。ディオルフがなにを気にしているのか、正直まったく解っていない。 「お前、はっ……!」  額を押さえてあきれた顔をするディオルフに、首を傾げる。ディオルフは、ハァと溜め息を吐いて、それからフタミに詰め寄った。 「お前、想像出来ないのか? お前くらい見目が良ければ、|そういう《・・・・》誘いもあるだろう」 「は? いや、イケメンがなんか言ってるわとしか……」  本気で解っていないフタミの様子に、ディオルフの額に青筋が浮かんだ。 「解るだろうがっ……! 子供じゃあるまいに……!」  そういって、ディオルフが伸ばした手が、フタミの剥き出しの肩に触れた。肩の紐を引っ張り、そのまま胸元をはだけられる。 「っ、ちょ……!」 「こうやってチラチラさせていたら、誘ってると誤解されかねんからな!」 「ひゃんっ!」  ディオルフの長い指が、乳首の先端を引っ掻いた。甘い声が自分の口から飛び出て、驚いてとっさに手で口を覆う。  ディオルフとすれば、言っても解らないフタミに、身体に教えてやろうという親切心からだったに違いない。カッとなった様子のディオルフが、無防備にさらされた乳首を摘まみ、押し潰す。 「んぁ、んんっ……!」 「ほらみろ、こんなに簡単に良いようにされてっ……」  ディオルフが荒い息を吐く。フタミはビクンと肩を揺らし、声を押さえるのに必死で、ディオルフを突き飛ばす発想が出てこなかった。 (やば、いっ……コレっ……)  甘い痺れに、腰が疼く。  正直に言えば、寮生活で自分で慰めるということもしてこなかったところに、この刺激は辛かった。 (ああ、さっきの……アイツら……)  暗がりで密着していた二人の生徒が、何をしていたのか、ようやく察しがつく。思春期の青年たちを押し込めているのだ。そりゃあ、そういうこともあるだろう。  フタミ自身、実家にいた頃のように、処理は出来ていない。なにしろ同室はイチル、ミツハ、ヨツギと三人もいるし、寮にはプライバシーなんかないからだ。 「あ、あ、ディオルフっ……」 「だから、出歩くときはこんな格好で、歩くんじゃないっ……!」  実際、フタミは気づいていないが、新入生を中心に、狙われるし、襲われる。フタミのような黒髪の美しい少年ならば、なおのことだ。  ディオルフは苛立ちを吐き出すようにして、指を離した。それから、はだけた服を直してやる。  乳首はまだジンジンとしていて、フタミは荒い息を吐き出す。 「分かったか」と吐き出したディオルフの目元が、赤い。 (ヤバ。どうしよ……)  反応の悪いフタミに、ディオルフは目を細めた。 「どうした? フタミ。……やりすぎたか?」  ボソリと呟きながら、ディオルフの手がフタミの髪に触れる。ビクンと肩を揺らして、フタミはハァと甘く息を吐き出した。 「やっべ。勃起した」 「―――」 「あー、もー……分かったけどさあ……」  荒い息を吐き出しながら、フタミはウエストを縛っている紐をほどく。 「おい。お前な……。何をしている?」  ディオルフが怪訝な顔をしているのは分かっていたが、どうしようもない。  ショートパンツのウエストを緩め、下着をずらす。 「ちょっと抜くから。あっち向いてて」 「―――」 「って思ったけど、あは。お前も勃ってんじゃん」  はは、と空笑いするフタミを、ディオルフはものすごい顔でじっと見ていた。

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