18 / 18
17話 そのキスは違う
(思春期こええええぇぇぇ………)
互いに射精して、急に冷静になった頭で、フタミは気恥ずかしさに頭を抱えた。性の暴走というやつか、衝動的に二人で触り合って、一度じゃ満足できずにまた触り合ってしまった。
結局、フタミは三回もイかされたし、ディオルフも二回射精した。何というか、三回目は脚に挟まれてしてしまったし、挿入こそなかったが、ほぼセックスだったと言って良い。
(そんで、嫌ではなかったんだよな……)
そもそも、嫌だったなら蹴り飛ばして逃げている。そうしなかったのは、フタミ自身がディオルフのことを気に入っているからだ。
ハァと溜め息を吐いて、ディオルフを見る。澄ました顔をしているが、耳が真っ赤だ。
(ああ、マジで、これもう『関わってない』とか言えないよな……)
以前からギリギリだと思ってはいたが、同じ授業を受けるのだし許容内だと思っていた。だが、これはさすがにまずいかもしれない。
(シナリオの展開どうなる……? いうてオレたちの店があっても大きく未来変わってないよな……?)
どこまでなら運命が収束するのか、見えないパラメーターのことはわからない。そもそも、この世界はゲームではないのだ。
「おい」
頭を抱えていると、ディオルフが服を直しながら呆れた顔でフタミを見る。
「いつまで尻を出してるんだ。そろそろ仕舞え」
「あ、うん。そね」
ベタついた脚を拭って、服を直す。なんとなく今すぐ洗濯機に放り込みたい。
(次は洗濯機作ろう……)
自分で洗濯をしたためしがないため、開発が遅れ気味だったが、洗濯機は需要があると確信して頷く。
と、ディオルフがフタミが持ってきた袋からガウンを取り出した。
「――これは……」
「あ、そうそう。さっき説明し忘れたんだけど、どう?」
綺麗に洗われたガウンは、くすんでいたのが見違えるほど綺麗になっている。チャコが刺繍を直したらしく、解れていた部分は消え、新品のようだ。
「素晴らしい出来だ……。済まない。なんと言えば良いか……」
「なんだよ。貴族って面倒なのな。オレの方が御礼なんだから、受け取りゃ良いんだよ」
「……お前は、いつもそうだな」
フッとディオルフが微笑む。美しい笑みに、フタミの心臓がずきゅんと音を立てた。
「っ……!?」
思わず赤面したフタミは、慌てて目をそらす。ディオルフは見事な腕で修復された刺繍を、隅から隅まで確認している。
(イヤイヤ……。なにドキドキしてんの、オレ。エッチなことしたとはいえ、相手は女の子でもないんだぞ……)
ドクドクと鳴り響く心臓に、動揺して唇をキュッと結ぶ。
(くそ。さすがは『攻略対象』だな……)
頬の熱さを誤魔化すようにパンパンと頬を打つ。ディオルフは美しい刺繍をなぞりながら、眉を寄せた。
「本来なら、あんな状態にしておかないのだが……」
「ん? なんか事情あるのか?」
失言だったのか、ディオルフはハッとした顔をして黙り込んだが、やがてゆっくりと息を吐き出した。
「――お前相手に、今さら隠す必要もないか……」
「?」
どういう意味だろうかと首を傾げつつ、ディオルフの言葉を待つ。
「この刺繍も、本来ならうちの侍女が直せば良いだけだった。そもそも、このガウンは乳母が仕立てたものだからな」
「あ、そうなんだ。へえー。スゲーじゃん」
「ああ。刺繍の腕が見事でな。……我が家で一番、刺繍が上手い侍女に暇を出したのだ。グラジオラス家は使用人を何人も雇える状態じゃない。技術のある侍女なら、他でも引く手がある」
「――それって……」
貧乏ってこと? という言葉を、フタミは呑み込んだ。
(そう言えば、ロビンも元使用人の子だって言ってたっけ)
何か察したフタミの雰囲気に、ディオルフが苦笑する。
「お前は、時々、妙に大人だな」
「え? ああ、まあ……」
生きた年月で言えば、前世で二十二年、今世で十六年だ。だが大人になったかと聞かれれば、正直よく分からない。歳を取れば大人になると思っていたが、その具体的な境界線は、見つけたことがない。
過去を振り返って、「昔はこうだったよな」と懐かしみ始めたら、大人になったと言えるのかも知れない。だが、フタミにはまだその瞬間は来ていない。
「オレからすると、ディオルフの方が大人びてる」
「まあ、環境がそうさせる。うちは、名ばかりの貴族だ。領地は貧しいが、公爵という肩書きは相応の品位を求める。付き合いのある商人は相場より高く値を付けるが、長く付き合いのある商人を簡単には変えられない」
ディオルフが吐き捨てるように言う。馬鹿馬鹿しいと、思っているのかもしれない。けれど、その発言は、『公爵家』のものとして言うことは出来ないのだろう。
「俺は、商人というのは、だから嫌いだ」
「……うん」
「けど、お前は……」
ディオルフの顔が、自然と近づいた。唇に、優しく触れ、そっと離れていく。
「――」
フタミは反応できずに、目を見開いた。ディオルフの指が、フタミの髪を弄ぶ。
遅れて、フタミは真っ赤になって顔を上げた。
「おっ、オレ、そろそろ帰るっ!」
「あっ、そんな格好で……!」
言いかけたディオルフの声を置き去りにして、フタミは調理室を逃げるように飛び出す。
鼓動が速いのを見ないふりしながら、夜の学園を走る。
(なんで、待って)
頭の中は、パニック状態だった。思考がぐるぐるして、気づけばディオルフの柔らかい唇を思い出す。
何となく触り合ってしまったのは、生理現象も大きかった。抵抗しなかったのは、彼が嫌いじゃないからだ。
でも。
(今のキスは、違うじゃんっ……!)
何となくの流れじゃなかった。
明確な意図をもって触れられたことに、激しく動揺する。
どうして良いか分からない。
(だって)
嫌じゃなかった。
ともだちにシェアしよう!

