20 / 21
19話 バグってない?
教室に戻り、なにか聞きたげなクラスメイトの視線を振り切って、フタミは席に突っ伏した。ミツハが心配そうに声を掛けてくる。
「フタミ、どうかしたか?」
「……何でもない」
ミツハは眉を寄せたが、それ以上は聞いてこなかった。その事が、少しだけ救いだ。
(なんかおかしくない? ディオルフの親密度、60くらいない?)
乙女ゲーム『星降る夜のファンタジア』において、好感度はイベントに影響する。攻略キャラクターの初期好感度は20に設定されており、主人公のパラメーターに依存して、イベントが発生し好感度が上がり、好感度が上がることで恋愛イベントが発生する仕組みだ。
恋愛イベントが発生するのは、好感度55以上である。全年齢のゲームであるため、エッチなシーンはないが、キスシーンはある。キスシーンは好感度80以上が条件である。
(いや、80はない。キスはしたけど、80は絶対にない。はず)
なんなら、ゲームではあんな際どいシーンはなかったわけで。ディオルフのディオルフを見ることになったのは、生身の相手だからだ。
「どうなってんだよ、もう……」
フタミは深い溜め息を吐いて、窓の外に視線を向けた。
◆ ◆ ◆
「二人で話したいとか、どうしたんだ?」
学園にあるカフェの一角に、フタミはイチルを呼び出した。テラス席のあるカフェは、ゲームでもヒロインと攻略対象キャラがデートをする場所である。そのせいか、オタク気質のイチルはどことなく楽しそうだ。
「いやさー……。ほら、オレってゲームのこと中途半端にしか知らないじゃん? そういえば、ディオルフの攻略って、どんな感じだったっけ? って思ってさ」
「ディオルフ? なんでディオルフなんだ?」
もっともな疑問に、ギクリと心臓が鳴る。ディオルフを攻略しちゃってるかも、なんて言った日には、イチルからのお小言が待っている。誤魔化しながら、フタミは曖昧に濁す。
「いやさ、大学時代に片思いしてた子がディオルフ推しだったから、ディオルフはぜってー攻略しねえと思って、触ってもいねえのよ。レヴァンのルートは王子にクッキー渡さないとルート入らないとかは知ってんだけどさ」
「ああ。なるほど。お前、その場合はディオルフを攻略して話し合わせた方が相手の女の子喜んだだろ」
「確かに。次の人生ではそうするわ」
「三週目やめろ?」
イチルは呆れながら、紅茶を啜る。女性向けゲームの世界だからか、この世界は紅茶文化だ。コーヒーが飲みたいと思いながら、フタミもミルクティーを啜る。
「ディオルフ……ディオルフ様なぁ、攻略に癖あるんだよねえ」
「そうなの?」
内心、イチルが『様』付けで呼んだのが気になったが、オタクはそんなものかと流して話を促す。
「序盤は好感度上がりにくい。で、後半は下がりにくい。話術のステータスが高くないと会話にもならなかったはずだけど」
「うわ、ウザ。そういえばパラメーターあったなあ……」
「そうそう。レヴァン様だと学業、美容、品性、モラルが高くないとルート入れないやつ。何故か話術は要らないレヴァン様」
「あー、それで最初詰んだんだよな……。レヴァン落としてたのにフロスト落ちてた」
「それはモラル値が高かったんだな。普通にやってると初回プレイは大体フロスト様だ」
話を聞きながら、フタミはなんとなくディオルフのことを思い出す。
(オレって、話術高いのかな? ステータス見えねえんだもんな……。ゲームでは寮のテーブルをタップすると出たのに……)
「ディオルフ様ルートの鉄板攻略方法は、まずは話術磨きだな。で、受け答えしてくれるようになったらひたすら会話。いちばん単調でダルい」
「散々な言われようだな……」
「いやでも、イベントスチルが神だから! 美麗ディオルフ様に壁ドンキスされるヒロイン、最高かよ」
キス。の言葉に、心臓がキュッと鳴る。昨夜の生々しい舌の感触と、ディオルフの体温が、脳内にフラッシュバックした。
口内を這う、生々しい舌の感触。伏せられた瞼、長い睫毛。何もかもが、鮮明に思い出される。
「っ……」
頬に朱を走らせるフタミに、イチルはカップを口に運ぶ手を止めて、首を傾げる。
「どうした、フタミ?」
「いっ、いや、何でも……」
頬の熱さを誤魔化すように咳払いして、紅茶を啜る。
「まあ、警戒するに越したことはないよね。しかし、ヒロインは誰か攻略してるのかな」
「そう言えば……。イチルって、オリシア見かけた? 俺は全然見てないんだけど」
「僕も見てないなあ。攻略対象とは関わらないようにしてるから、彼らの周りにいても気づかないのかな?」
「……」
イチルの言葉に、フタミは内心、
(ディオルフの周りでは見てないから、ディオルフルートじゃないんだな……)
と溜め息を吐く。お陰で、自分の方がディオルフとフラグが立ちそうである。
「まさかの隠しキャラだったりして」
「それはまさか過ぎる。ゲームでは1キャラ攻略後じゃないと解放されなかったけど、現実ではどうかな」
「とはいえ、ソイツも見かけないけど。あの厨二病の……」
「リトオンな。お前、本当に色々曖昧だな……。あんまシナリオも読んでないんだろ、どうせ」
「まー、スキップ?」
「そうだと思った」
呆れたようなイチルを前に、フタミは苦笑して、誤魔化すように笑みを作った。
ともだちにシェアしよう!

