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21話 選びたくなった選択肢
デルフィニウム公爵家のことを調べたい気持ちはあったが、それをするとイチルにバレそうだ。あまりディオルフと関わってはいけないと、理屈では分かっていたが、苦しむディオルフを放っておく選択肢の方が、フタミにはあり得なかった。
「よし」
イチルたちが寝静まったのを確認して、鞄を背負い窓に脚を掛ける。夜の空気が肌を撫でた。
今日のフタミは完璧なスタイルだ。上着を羽織ったし、ディオルフに怒られることもないはずである。ずしりと重い鞄を背負い直して、足早に調理室へと向かう。
いつも通り、ディオルフは先に居た。フタミの来訪に、驚きながらもホッとした顔をする。
「フタミ……」
「よ。お前、ナイフの扱いもイマイチ? 果物が残骸になってんじゃん」
「……別に、下手じゃない。慣れていないだけだ」
「それを世間では下手と言うのよ。まあ良いや」
鞄をテーブルに下ろし、中から食材を取り出す。塊のハム。チーズ、野菜。それに丸太のようなパンだ。
「これは?」
「サンドイッチってパンに挟むだけなんだけどさ。意外に奥深いわけ。なんなら科学。パンの切り込みを入れる箇所にも黄金比ってのがあるし」
「何の話だ?」
「特製サンドイッチの極意をちょっと披露したくなって話」
本当なら、食べていないことをあれこれ言いたかったが、ディオルフにもプライドがあるだろう。フタミは勝手に話を進めていく。
サンドイッチを選んだのは、具材を挟めば食べられるからだ。初心者にはある程度易しい。何より、料理初心者のフタミでも作れる。
「お前は急なヤツだな」
「思い付いたら作るのが技術者、ってね」
ディオルフは呆れた顔をしながらも、フタミのやることには興味を示したらしく、「それで?」と促す。
「パンは横にカット。6対4くらいの比率でカットすると食いやすい。外周をなぞるようにしてガイドを入れたら、一気に切る。パンは潰すなよ」
「ふむ」
フタミがパンを切り分けるのを見て、ディオルフも真似してみることにしたようだ。隣にカッティングボードを置いて、パンを切り始める。
「む。なかなか難しいな。斜めになってしまう」
「まあ、慣れもある。次はバターを塗る。本当はパンは少し放置して表面を乾かした方が良いらしいけど。とにかく、バター。それとマスタード。バターはパンに水分が移るのを防ぐ」
「なるほど……。そんな理由が」
「水分の多い野菜は扱いに気を付ける。レタスは意外に揮発するけど、トマトとキュウリは水分が多い。レタスは折るように。キュウリは塩で揉んで先に水分を抜いても良い」
「塩で?」
「浸透圧の問題。水分が抜ける。キューカンバーサンドはそうやって作るらしい。まあ、イチルの受け売り」
野菜を手際よくカットしながら、説明していく。サンドイッチは水分管理の料理である。理系のフタミにはよくあっている。
「イチルというのは――どういう関係なんだ?」
ディオルフが聞きにくそうに問いかける。
「んー、ダチで、共同経営者で、兄貴って感じ」
「兄?」
「ほら」
フタミは笑って、自分の黒髪を指した。
「オレら、黒髪だろ。四兄弟ってね」
「確かに。兄弟に見えなくもない」
「だろ?」
「で、具材を挟む。何を挟んでも許される。サンドイッチは懐が広い。料理下手でもそれなりだ」
完成したサンドイッチは、不格好で見てくれは悪かったが、ディオルフは初めて自分で作ったサンドイッチに、感激しているようだった。
崩れないように押さえながらそれぞれのサンドイッチをカットして、一つ交換する。
「交換。味見しようぜ」
「あ、ああ……」
ディオルフの戸惑いを無視して、サンドイッチを押し付ける。彼の作ったサンドイッチは、齧ると具材がバラけてしまったが、味は美味しかった。
「……美味いな……」
「良いだろ。手軽だし、手頃だし。何しろ、料理が出来る男はちょっとモテる」
ディオルフは呆れた顔をして、それからフッと笑った。
「フタミ」
食べかけのサンドイッチを皿に置いて、ディオルフが身体を寄せる。
「っ、……何だよ」
無言で、ディオルフはフタミの手からサンドイッチを奪い、皿に戻す。顔が近づく。鼻先が触れた。
「待っ……」
ディオルフの胸を、押し返す。びくともしなかったが、ディオルフは鼻先を擦り合わせたところで動きを止めてくれた。
「――どういう意味で、やってんの?」
吐息を吐き出しながら聞いた言葉に、ディオルフが笑う。鼓膜が、くすぐったい気がした。
「お前こそ。どういう意味で、やってるんだ?」
「――それは」
唇が重なる。
今度は、止めてくれなかった。
「っ、ん」
舌が、唇を割って侵入してくる。ディオルフの手が肩を撫でて、そのまま上着を剥がし落とした。
「ディオ……っ」
「フタミ……」
舌を絡めあい、肌をまさぐる。ディオルフの指が、腰に触れる。
フタミはディオルフの背に腕を回して、彼のガウンを脱がせた。
ぱさり。布が落ちる音が、やけに響く。
「っあ、ん……」
「触って……」
促されるように、ディオルフの中心に触れる。ドクドクと脈打つ肉棒は、既に昂りを見せていた。
「なんでこんななってんだよ……」
「お前こそ」
「っ、バカ、先っぽ、触んなっ……」
「ここが好きか」
亀頭部分を丹念に擦られ、ビクビクと肩を揺らす。互いの熱を擦り合わせて、敏感な部分をまさぐった。
「あ、あっ……、ん……」
「フタミ……、口」
「っ、あの、なあ……」
良いからこっちを向け、という顔をされ、そのままキスをされる。何度目かわからない口づけをしながら、互いに擦り合っている。
処理。といえば、処理なのだろう。
『どういう意味で、やってるんだ?』
ゾクゾクと、背筋が粟立つ。
(そんなの……)
考え事のせいで集中を欠いていると、ディオルフの手がいつの間にかフタミの服を取り払い、肌をさらさせる。急に心もとない気分になって、視線をさ迷わせたフタミに、ディオルフは彼の脚を左右に割り開いた。
無防備に股間をさらされ、ビクンと身体が跳ねる。
「ちょ……」
「嫌なら、逃げても良い」
窄まりを、指先が撫でる。どこに隠し持っていたのか、ジェルを塗りつけ、ゆっくりと指が侵入してくる。
「あ、あっ……」
フタミは、少しだけ不安になる。こんなことを、して良いんだろうか。男同士で、ディオルフは貴族で。
――攻略対象で。
不安に揺れるグリーンアメジストの瞳を、ディオルフの金眼が射貫く。逃げても良いと言ったはずの男からは、逃がさないという意思しか感じなかった。
内部をほぐされ、指が引き抜かれる。ディオルフが先端を押し当てた。
「―――あ」
狭窄を割って、ディオルフが入ってくる。身体のなかに穿たれる楔の熱さに、頭がクラクラした。
ダメかもしれない。
多分、ダメだ。
(でも)
どうしても、ディオルフと繋がりたくなってしまった。
ディオルフの額から、汗が溢れる。繋がった箇所が、燃えるように熱い。
フタミはディオルフの背に腕を回し、彼の肩に噛みつく。
(ゴメン、イチル)
こんなことをして、ゴメン。
こんなことになって、ゴメン。
進む未来が、変わってしまったとしても。
フタミはこの選択を、選びたくなってしまった。
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