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第10話
「あれ…」
俺が目を覚ますとリビングの灯りは全部消えていた。いつの間に俺寝てしまったんだろ。見ると、俺の体の上に薄い毛布が掛けられていた。柊一さんが掛けてくれたんだろうな。
三年前と同じだ。三年前と違うのは俺が半裸じゃない事と、酒をあおってない事。それとここが何処だかわかる事だ。
あの時と同じなら、柊一さんがスポーツドリンクを持ってリビングに来るんだけど、今回もそれはあるんだろうか。…というか柊一さんは何処にいる?
俺は起き上がり、LEDライトをつけてくれと命じる。それに反応してLEDライトがついた。
ーー誰も居ない。
柊一さんの仕事部屋かな、それとも寝室かな。主の居ないリビングは広くて少しだけ寒い。
この家は二階があり、その二階に寝室と仕事部屋がある。俺は短い階段を上って、まずは寝室に行く。一応ノックして入る。
「柊一さん、居るの」
反応はなし。施錠する鍵もないし、これは開けていいんだよな。俺はドアを開ける。
「ここにも居ない」
キングサイズのダブルベッドがあるだけで他は何もない部屋。俺が通されたことは一度としてない。美也子さんや女性たちはここで…。考えるの止めよう。精神的にもよろしくない。
ここにも居ないってことは仕事部屋か。有名作家でコラムリストの「関根柊一」はよく働くね。俺はそそくさと寝室を後に、仕事部屋のドアをノックする。
「柊一さん、居るの」
鍵もかかってないし、開けてもいいか。俺は先程と同じようにドアを開ける。
「やっとお目覚めか、七瀬」
柊一さんはパソコンに向かっていたようだった。俺の声でデスクチェアを180度回転させる。
「また仕事してンの?そんなに忙しいの?」
「誰かさんがリビングで寝たから、ここに引き上げてきただけ。仕事はしてねえよ」
「起こせばよかったのに。俺寝に来たんじゃないし」
「じゃ七瀬は何しにここに来た?」
「・・・・・」
俺は何も言えなくなり、下を向く。
「お土産まで持って何しに七瀬君はここに来たのかな?」
子供に接するような優し気な声色で柊一さんは俺に尋ねてくる。
わかってるクセに。俺が来る理由なんて柊一さんが一番わかっているんじゃないか。わざわざそれを問いただすようなことじゃないのに。俺はうつむきながら答える。
「柊一さんに会いたかったから」
「え?声が小さくて聞こえないな」
どこまでも意地悪だ。俺はうつむき加減のまま顔を赤く染め、声を張り上げる。
「柊一さんに会いたかったから!」
カカカと声を出して笑う柊一さん。底意地が悪い。
「でももう夜中の十一時なんだよな。どうする?七瀬。気持ちよく寝てただろ」
十一時?!俺は慌てて自分の腕にはめている時計を見る。確かに柊一さんの言う通りの時刻を指していた。俺は二時間以上寝ていたのか。起こしてくれればいいのに…。
「それより面白いもの発見した、七瀬も見てみろよ」
デスクチェアを回転させて19インチあるパソコン画面を指さす。俺は部屋に入り、柊一さんが指し示した画面を覘く。
「ーーー!なんでこんなの見てんだよ!!」
そこに映し出されていたのは、俺の高校二年の冬、全国高校サッカー選手権の時の写真だ。二年で副キャプテンを任されていた頃の懐かしくも恥ずかしい過去の栄光写真。
「七瀬なんて珍しい名前だからすぐわかった。おもしれーよな、ネットってすぐ人の過去探せンだから」
柊一さんの口角は上がりっぱなしだ。
「俺の過去見て何が楽しいンだよ!柊一さんには関係ないだろ!」
「七瀬君にもこういう輝いてた時があったんだなってさ。まさか数年後ジャズバーで大泣きして俺の家に転がり込むとは思ってねーよな~この頃」
…ああ、また言うのか。三年前の雨の日を。
俺は柊一さんを睨もうとしたが、あまりに顔が近距離過ぎて睨めない。ここまで近づくのって無かったから、偶然とはいえその距離にたじろぐ。
本当に綺麗に整ってるんだよな、柊一さんの顔。ややつり目で眉毛も細くなく、太くなく丁度いい太さで調整されてて、鼻筋も通ってて。少しだけ浅黒い肌で、髪はブラウンに染めていて軽くパーマをかけてて。そんな感じなのにチャラそうに見えず、どちらかというと何かを極めている芸術家ぽく見える。
対して俺は、二重瞼で目が大きいだけの筋肉バカ。昔よりはそんなに鍛えてないから、筋肉はかなり落ちた。今は筋肉バカと言えるほどの筋肉もないか。じゃ俺ただのバカってこと?
「インタビューにも丁寧に応じる、優等生の副キャプテンだってさ」
柊一さんは過去の俺の記事に夢中だ。俺の視線に気づいているのかいないのか。
すぐ手を伸ばせば彼は居る。すぐ横に彼は居るのに、つい気後れしてしまい何もできないでいる。
もしも俺が手を伸ばしたら、柊一さんは応えてくれる?触れてもいいのかな、彼に。それこそ偶然を装って触れてもいいのかな、彼に。
胸の鼓動が聞こえる。今にも飛び出しそうな位に。
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