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第13話

 今日は朝日が眩しい。  俺の部屋は一階でここは地上八階。普通眺める太陽より空に近い。  洗い物も終わり、食器乾燥機に洗った皿などを入れ終わると、時刻は7時15分。  俺と柊一さんはリビングに移り、お互いそれぞれの準備をしている。  朝の5分はデイタイムの1時間に等しい。1分経つごとにどんどん出勤しないとならない時間が近づいてくる。  出勤時間が来れば俺はこの家を去らなければならない。会社に出向き、ただの一般人となり、いつ柊一さんに会えるかわからない不安な毎日を俺は送ることになる。  会えない時間が愛育てるとかいうけれど、愛にもなんにもなってないこの関係はどうなんだ。俺の一方通行の可能性も強い。  柊一さん、本の中では同性愛も愛の一種だと述べていたけど。それは一般論の話であって、 自分とは関係ない上での話かもしれない。  完全な俺の一人相撲。願わくば、そうじゃない事を祈るけれど。 「柊一さん、次空いてるのっていつぐらい?」  不安にならないよう布石を打つ。 「まだいつになるかわかんねえな」  彼からの俺の不安を煽る返答。俺はめげない。 「今書いてるコラムの締め切りはまだあるって言ったよね?」 「他にも抱えてる案件があるからな。美也子さんと調整してみないと」 「来週会いに来たいって言ったら空けてくれる?」 「何だよ急に」  俺の猛攻に珍しく柊一さんが怯む。 「だって今週も一回しか会ってないよ。前まで一週間に二回は逢ってくれてたのに」  柊一さんは頭をポリポリとかいて、 「仕事だ、仕方ねえだろ」  それを言われたら何も言えなくなる。  俺も柊一さんも社会人。社会人である以上は仕事は常についてまわる。俺の会社も繁忙期には休日出勤もあるくらいだ。柊一さんは俺より自由がきく仕事ではあるけれど、締め切りという縛りがある以上、放り出すことは許されない。  それでなくとも、今は些細な事で騒がれ、炎上という状態になり、仕事に支障をきたすこともある。今まで築き上げてきた地位も名誉も一気に失ってしまう。有名税とはいうけれど、あまりにもハイリスクだ。これ以上柊一さんに詰め寄るのは出来ないか。 「そんなに会いたいなら家じゃなくて、美也子さんのライブに来いよ。酒は無しだけど」  まさかの急展開。俺は目を見開く。 「来週の末にあるンだよな。多分、昨日美也子さんが帰ったのもそれの打合せだと思う」  美也子さんはどこまでも俺と柊一さんを繋げてくれる女神だ。今度会ったら肩でも揉んでおこう。 「…で、七瀬は来れるか?」 「うん」  即答。  俺の週末なんてジムにトレーニングに行くか、家で動画見てるかのどちらかだ。最近は自分の買い物すらしてない。スケジュールを確認するまでもない。 「美也子さんのライブに柊一さんが出るの?」  一番聞きたいポイントだ。柊一さんが出ることになればそこで念願の柊一さんのピアノが聴ける。 「いや。俺はただ誘われてるだけ。出はしねーよ」 「なんだ、残念…」 「七瀬、そんなに俺のピアノが聴きたいのか」 「うん。当然じゃん」 「ふうん」  手を唇に当て、意味深な笑みを浮かべる彼。何を考えているんだろう。俺的に嫌な話じゃなければいいけれど。 「美也子さんのライブ、何時くらい?俺何処(どこ)に行けばいい?」 「十九時半から。新宿のジャズバーだから、七瀬は十八時前後に西新宿の三井ビルにあるスタバで待っててくれればいい」 「西新宿っていうと、柊一さんと待ち合わせ?」 「そうなるな」  初めての柊一さんと待ち合わせだ。そしてジャズバーで美也子さんを見るために二人で出かける。これって、立派なデートじゃないか。否が応でも胸が高鳴る。俺の様子を見ている柊一さんは俺の心の中を知ってか知らずか、またも意味深に笑んでる。 「すげー楽しみになってきた!美也子さんのライブ!」 「飲食代は払ってやるけど、酒は飲むな、また行きにくいバーができるぞ七瀬」  …う。  そうだった。三年前雨の夜で俺と柊一さんが会ったあの日。話をよくよく柊一さんから聞かされて、次の日ジャズバーに謝りに行ったんだった。「初めての事ですからね…」って優しくしてくれたけど、申し訳ないし情けないから二度と行かなくなった。俺の上司の顔も潰したし。あれ以来怖くてアルコールは家でしか飲まなくなった。 「今は家飲みだけにしてるよ。柊一さんの家でも一切飲んでないじゃん、俺」 「まあそうだけどな。七瀬の事だからわかんねえんだよ。美味そうな酒出てきたら飲むんじゃねえかって」 「俺そんなに信頼無いの?」 「三年前が三年前だしな」 「俺だって学習するよ」 「だってお前バカだし」 「そこまでバカじゃないよ!」  三年前は三年前。いくら脳筋な俺だって学ぶ。人よりは遅いかもだけど…。 「美也子さんの顔に泥塗るなよな。美也子さんの歌楽しみに来る人も居るんだからな」 「わかってるよ。俺、絶対酒飲まない。それならいい?」  柊一さんは何も言わず、一度だけ首を縦に振る。 「来週の末ね、楽しみになってきたー!」  三年かかったけど、初のデートだ。来週までわくわくとした気持ちが止まらない。ドーパミン大放出だ。 「来週の末って土曜でいいんだよね?」 「ああ」  土曜日は俺の会社は休み。だらだらと過ごす休日がまさかの初デートの日になるなんて!神様なんてロクに信じてない俺だけど、神様ありがとうと言いたくなる。これも美也子さんという女神が居たおかげか?  三年かかった。何度もこの部屋から見た朝日だが、今日の朝日は特別だ。眩しいだけじゃなく温かさも運んでくれるような朝日。俺は破顔一笑し、心躍らせる。 「ホント、わかりやすいヤツ」  柊一さんもそう言いつつ、微笑んでる。  笑う門には福来る。今日はいい事起こりそう。

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