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心拍数2 嫉妬と欲と
「こんばんはー」
俺はコンビニで買ったちょっとよさげなプリンを持って柊一さんの家を訪ねる。インターフォン越しに俺は元気アピールする。俺の取り柄って元気な事ぐらいしか思い当たらないし。
「七瀬…そんなでけえ声出さなくても聞こえる」
文句をたれながら、柊一さんがドアを開けてくれた。浅黒い肌に華のある端正な顔。ウエーブのかかった髪は少し乱れていた。
「柊一さん、仕事終わったっていうけど、忙しいの?」
「ああ、シャワー浴びたてだからな。まだ髪もろくに乾かしてない」
「まだ七時半だよ?もう浴びたの?」
「野暮用で色々あったからな…とりあえず中に入れよ」
野暮用?何だろ。まあ色々謎多い人だから、柊一さん。聞いても教えてくれる確率は低そうだ。…知りたいけれど。
「メシまだだろ、今日は豪華だぞ。レストランのシェフが作ってくれたからな」
「え?!マジ?!」
「マジだ。俺はその女性 と食べたけど、七瀬の分は残してある」
「なにそれ…」
喜んでいいのか悲しむべきなのか、悩むな。
「柊一さんはもう食べたんだ…」
「ああ、もう食べた」
当然のように柊一さんは答える。凄い残酷なんですけど、それ。俺が少し不貞腐れていると、柊一さんは手を引っ張って、俺をダイニングに連れていく。
ダイニングのテーブルに料理がずらっと並んでいた。それぞれラップはしてあるが、確かに品数も多いし豪華と言えば豪華だ。
「食べなくてもいいから、柊一さん一緒に居てよ。プリンも買ってきたし」
このまま一人で食べるのはいくら豪華でも淋しい。豪華なだけに余計孤独になる。
「いいけど?お前、何怒ってンだよ」
「だって、一緒に食べると思うじゃん!そしたら、『もう他の女性 と食べましたー』って酷くね?」
柊一さんはフッと笑いを浮かべる。
「なんだ、七瀬、嫉妬か?」
「そ、そんなんじゃないけど!ふ、普通そう思うだろうって話!」
「はい、はい。そういうことにしとく。顔赤くして何言ってる」
「べ、べ、別にっ!し、嫉妬とかじゃねーし!」
柊一さんは更に笑う。俺、絶対嘘とかつけるタイプじゃないよな。
「ほら、七瀬席に着けよ。美味いメシ食うだろ?」
俺は口をへの字に曲げる。
「そんな顔するな、美味いメシなのは確かだから」
「じゃ、食う―――」
俺は柊一さんに言われ、席に座る。柊一さんは向かい合わせの席に座った。
「一時間たってるから、レンチンするか?」
「いい…このまま食う」
俺は皿に包まっているラップを剝がしていく。剥がしていくと、その皿に乗った料理がいかに美味そうなのかよく解る。魚介類のリゾットとシーザーサラダ、それにいくつかの名前のわからない色彩豊かな料理が並んでいる。
「イタリア料理のシェフだからな、美味いぞ」
「ふーん、そう…」
作った料理人の話なんて聞きたくない。どうせ柊一さんの女の一人だ。解っているけど、腹が立つものは仕方がない。俺はサラダをほおばりつつも静かに怒りを込める。
…解っているんだ、嫉妬しているってことは。俺より先に女性が居て、それに早い時間に柊一さんがシャワーを浴びた理由を考えると、一つの大変精神的によろしくない仮説が成り立つ。
「柊一さんも元気だね。まだ夜はこれからって前にやるだけやっちゃうんだから」
「何、七瀬考えてる」
「なーんにも」
「まぁ、七瀬のことだから」
ここでその台詞を言われるとカチンと来る。
「俺だから、何?何が言いたいわけ?」
「よからぬこと考えてるんじゃねえかなと、さ」
「よからぬことって何?俺、何にも考えてないって言ったよね」
柊一さんはまた口角を上げる。何がそんなに楽しいのか、意味が解らない。
「お前勝手に想像して怒ってさ。これだから七瀬は可愛いんだよ」
「い、い、意味わかんねーし!」
彼は頬杖をつきながら、俺の目を見る。
「相当、お前のことベッドで可愛がってやらないとダメみたいだな」
「そ、そ、そういう、こ、こと言ってるわけじゃ…」
反則だ。夜のことをいきなり持ち出すなんて、ずるい。俺がそういうことに免疫がないことを知ってて言うのだから、質が悪い。俺は持っていたフォークを落としそうになる。
「ゆっくり食えよ、ベッドでは可愛がってやるから」
俺は顔を真っ赤にして言葉をなくしてしまった。
ジャズのフレーズが鳴る。これはもしかして…「太一」?
柊一さんは面倒くさそうにスマホを取る。
「七瀬、悪い。席外す」
「え?別にいいのに…」
そんなに聞かれちゃまずい話をしているんだろうか。俺は柊一さんを目で追う。彼は廊下に出て行ってしまった。俺は一旦席を離れ、廊下の柊一さんの電話が聞ける位置まで移動し、聞き耳を立てる。
「――だから、断ったよな。しつこいなお前。もう無理だって言ってる」
柊一さんの苛立ってる声が聞こえてきた。
「壊したお前が良く言う。今更何言っても無駄だ」
柊一さんどんな顔して話しているんだろう。冷静な柊一さんではないよな。俺の前では見せたことがないような顔しているのかな。
「そういう話なら無駄だ、切るぞ」
あ、話し終わったみたいだ。やばい、ここにいたら聞いてたことがバレる。おれはそそくさとテーブル席に戻り、食事を始めた。
「…悪かったな、席外して」
良かった。聞いてたことバレてない。俺は取り繕った笑顔を見せる。
「あの…まさか、『太一』って人からじゃないよね?」
柊一さんの手の動きが一瞬止まった。
「お前、聞いてたのか?」
俺は首をぶんぶん横に振る。
「まあたいした話じゃない、気にするな」
彼は少しだけ疲労の色を見せた。冷静な柊一さんを狂わせる、やはりあの電話の相手は「太一」だ。
昼間美也子さんから聞いた情報を思い出す。太一は柊一さんと一緒に住んでた相手で、ヘッドハンティングで別のバンドに行ったベーシスト。柊一さんと深い仲だったのかは気になるところだけど、聞いても教えてくれないだろうな。
「柊一さん、疲れてる?」
「そんなことはないけど」
「電話終わったら、疲れてる感じがする」
柊一さんは平然を装い、
「たいした話じゃないっていったろ。七瀬が気にするな」
また彼はラインを引いてくる。ここから先は進入禁止のライン。それが凄く俺としてはつらいのにな。
俺の気持ちを知らない彼は頬杖をつき、俺の顔を見る。
「七瀬のことはたっぷり可愛がってやるから、安心しろ」
「そ、そ、そういうことじゃない…」
また俺は頬を赤く染める。本当に慣れない。さらりと言えてしまうのが大人だから?柊一さんは場慣れしすぎてる感もある。俺が単に子供なのかもしれないけど。
柊一さんの手のひらで転がされてるな、俺は。
食事が終わって、俺と柊一さんはリビングに移動。リビングについてすぐに柊一さんは、
「七瀬、シャワー浴びて来いよ。明日早いだろ」
こんなこと言い出す。まだ柊一さんの家に来て、メシしか食っていない。リビングにはゲーム機もAV機器も揃っているのに。
「そうだけど…別にまだ八時まわった位だよ?そんな急がなくても」
意味深に笑う柊一さん。
「たっぷり可愛がってやるって言ったら?」
「……シャワー浴びてくる」
俺はしゃがんで、着替えをバックから出そうとすると、それを制して柊一さんが額にキスを落とす。軽いキスの筈なのに、俺の身体は反応し始めていた。柊一さんの身体に手を回す。
「七瀬、まだ早い」
俺は懇願するような目で彼を見る。
「好きだな、お前も」
彼は短いため息をつき、俺をその場で組み敷く。
もし俺の予想が当たっていて、シェフの女性と官能的な関係になっていたのなら、俺がそれを上書きしてやる。俺は彼の背中に手を回して彼がいつでも来てもいいように備える。彼の身体からはふんわりと石鹸の香りがした。
お互いの舌を絡め、柊一さんは俺の敏感なところを欲を促すように触る。
「ん…ん、んん…」
お互いの吐息が漏れる。
「電気、少し暗くして」
「だめ。お前の可愛い顔が見れねえだろ」
「…こ、こんな電灯のついたとこでやるの恥ずかしい…」
「恥ずかしい事してる自覚はあるんだな」
「あ、あるよ…」
俺が囁く。刹那、彼は立ち上がり、近くのスタンドミラーで俺を映す。
「これが今の七瀬、いやらしい顔してるだろ」
「や、やめてよ…」
「これからもっといいことするから、じっくり鏡見てろ」
柊一さんは俺の後ろに周り、俺を膝で立たせ、羽交い絞めにして、俺の胸…乳首まわりを撫でまわす。
「や…み、見たくない…っ」
俺は目を瞑りながら、鏡から顔をそむける。
「可愛い顔なんだから、見てみろよ。大きな七瀬の目で」
柊一さんの声は低くて通る声だ。その声が今はわずかに上ずっている。この状況を楽しんでいる声に違いない。
「や…や…や…やめ…」
彼は俺の首筋を愛撫する。俺は欲を注がれ、上気した顔を作る。自分のそんな痴態見たくなんかない。なのに彼は俺をそこから逃がさない。ボタンを器用にいくつか外し、そこから手を入れてくる。下にTシャツを着ているからまだ素肌には届かないが、Tシャツは薄く密着すれば素肌とおなじような感覚だ。
俺は膝立ちがつらくなり、彼の手をすり抜けて床にへたり込む。
「なんだ、七瀬もう終わりか?」
「柊一さんが変な事するから!」
鏡は最初の一度だけ見ただけ。恥の上塗りは止めてほしい。
「可愛かったのに…残念」
俺はムキになって立ち上がる。
「シャワー行ってくる!」
バッグを漁り、着替えの下着を携えて俺は浴室に向かった。
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