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【番外編】静寂の宿で、君という傑作を読み解く9
「……はぁ、はぁ、……柊一さん、もう、無理、のぼせる……っ」
「……仕方ねえな」
限界を迎えてお湯の中でふにゃふにゃになった俺を、柊一さんは呆れ顔で抱き上げ、脱衣所へと運んでくれた。
バスタオルで乱暴に、だけどどこか優しく身体を拭かれ、着てきた服に着替えさせられる。俺はもう頭が真っ白で、されるがままの操り人形状態だった。
部屋に戻ると、すでにお布団が二つ並べて敷かれている。
和室に映える上品な光沢を放つ見た目からして上級なお布団。
「わ、お布団……」
俺がふらふらと吸い寄せられるように、自分の分の布団へダイブしようとした瞬間。
「こっち」
ガシッと後ろから脇の下に手を差し込まれ、俺の身体は柊一さん側の布団へとずるずると引きずり込まれた。
「え、あ、柊一さん?俺の布団はこっち――」
「静かにしろ。のぼせてる奴がうるさい」
有無を言わせぬ力で押し倒され、柊一さんが上から覆いかぶさってくる。濡れたままの彼の黒髪から、冷たい水滴が俺の頬にぽたりと落ちた。それなのに、押し付けられる彼の胸元や、俺の太ももを挟み込んでくる足は、お風呂上がりだからか驚くほど熱い。
「……え、えっと……さっきお風呂でも、いっぱい、したから……」
「まだ足りねぇよ。お前、温泉旅行がどういうものか分かってて付いてきたんだろ」
柊一さんが低く笑いながら、俺の浴衣の襟元に手をかけ、ゆっくりと胸元をはだけさせていく。その指先が、さっきお湯の中で触れられた場所をなぞるように動くだけで、身体がピクッと跳ねてしまう。
三年前、柊一さんとジャズバーで出会ってから、ようやくここまでの関係になれた。…けど、そこまでだ。俺たちの関係は決まっている。俺は柊一さんにとって、ただの都合のいいセフレみたいなもんだ。
本命の女の人が他にいるくせに、俺を抱くときは、まるで世界に俺しかいないみたいに激しく貪ってくる。そんなの、ただの身体の相性がいいだけ。
言葉が巧みな人気作家にとって、俺みたいな都合のいい男のセフレをからかって、ベッドの中で泣かせるなんて、ちょっとしたお遊びに過ぎないんだ。
セフレの分際で、恋人ぶって面倒くさい奴だと思われたら、この関係すら終わってしまう。
「……あの、柊一さん。俺、セフレとして、ベッドの上で全力で頑張るから……っ」
俺が健気に(バカなりに)関係のラインを守ろうと宣言した瞬間。柊一さんの動きが、ピタリと止まった。
「……は?」
押し殺したような、地を這うような低い声。
見上げると、柊一さんはこれ以上ないくらい不機嫌に眉を寄せ、俺を睨みつけていた。
「お前、今なんて言った?」
「え……?だから、セフレとして……」
「誰がセフレだ、バカ」
柊一さんの大きな手が、俺の濡れた髪を容赦なく掴み、無理やり顔を上向かせる。月明かりに照らされた彼の瞳は、怒りで爛々と輝いていた。
「うちに来る女たちのこと、まだ気にしてんのか?バカだな、七瀬。……俺がわざわざ、自分の修羅場削ってまで、こんな遠くの温泉に連れてきて、朝から晩まで構い倒してるセフレがこの世界のどこにいる?」
「え……?」
「いない。お前だけだ」
耳元で、甘く、だけど逃げ道を塞ぐような確信に満ちた声で囁かれる。言葉のプロが放つそのセリフは、いつもの「身体だけの関係」にしては、あまりにも重くて、熱がこもりすぎている。
「セフレなんて生温い真似、させるかよ。……今夜は朝まで、俺の男として、俺の名前しか呼べなくしてやるからな」
「しゅう、いち、さ……っ」
言葉を遮るように降ってきたキスは、お風呂のときよりもずっと執拗で、深かった。はだけた浴衣の隙間から滑り込んでくる柊一さんの手のひらが、俺の肌をじりじりと焦がしていく。
(やっぱり、意味が解らない。セフレじゃないなら、俺たち何なの……!?)
だけど、俺の腰を抱きしめる彼の腕の強さだけは、不思議と「俺を離したくない」と言っているように感じられて、俺は熱い快感の渦に溺れながら、ただ必死に彼の背中にしがみつくことしかできなかった。
柊一さんの手によって胸元が甘く疼き始める。そこから逃れる術もなく、俺はただ翻弄されるままに背を向け、身体を反らすことしかできない。
俺の顔を覗き込む柊一さんの瞳が、いたずらに細められる。じれったいほどに焦らされながら、熱を持った下半身を的確に責め立てられ、それだけで俺は頭が真っ白になりそうだった。
「あ、あんまり見ないで……俺、バカだから、今どんな顔してるか分かんない、恥ずかしい……」
「今更だろ。……力抜け。お前のその顔も声も、どんな本よりそそる。今夜は朝まで、隅々まで全部暴いてやるからな」
逃げ場を塞ぐように、彼の指がピンポイントで快楽に弱い部分を突いてくる。最近関係を持ったとはいえ、柊一さんは俺の弱いところを熟知している。あまりの快感に脳が痺れ、まともな声にならない悲鳴が口から溢れた。
「……っ、ぁあ!そこ、だめ……っ!」
「……ここが弱いんだろ?まだ始まったばかりなのに、もうそんな顔するな。……お前の一番ヤバいところまで、じっくり暴いてやるからな」
柊一さんは嬉しそうな声音でつぶやいた。俺は抵抗することもできず、彼の与える欲に感じているままだ。シーツを掴んで、ただ耐えている。
…声を出しちゃダメだ。ここは旅館。隣に聞こえてしまう。それだけは避けたい。
「ん、ぅ……っ」
必死に唇を噛み締め、溢れそうになる声を喉の奥で押し殺す。
けれど、そんな俺のささやかな抵抗をあざ笑うかのように、布団の中で蠢く柊一さんの指先が、容赦なく俺の敏感な場所を抉り、乱暴にかき乱していく。
「……声を我慢する余裕があるなら、もっと奥まで触ってほしいか?」
耳元で、濡れた吐息とともに、意地の悪いバリトンボイスが響く。
背中に回された大きな手がぐっと強まり、柊一さんの熱い体温がダイレクトに肌へ伝わってきた。
耐えようとすればするほど、身体の奥がじんじんと熱を帯びて痺れていく。
掴む場所を求めて泳いだ俺の指先は、縋るように彼の濡れた肩をぎゅっと強く掴んでいた。
「……っ、ふ、あ……ッ」
必死に首を振って拒絶を示すものの、柊一さんはそんな俺の弱々しい抵抗を意に介する様子もなく、 濡れた指先を容赦なく俺の奥へと滑り込ませてきた。
「……っあ!?は、……ひゅう、いち、さん……っ!」
いきなりシーツの上で剥き出しにされた内側を占拠した、異物の熱さ。背筋を強烈な電流が駆け抜け、目の前がチカチカと明滅する。布団の沈み込みとともに、容赦なく蠢く指は、ただでさえ彼の熱に浮かされて敏感になっている粘膜をじわじわと押し広げ、逃げ場を奪うように乱暴にかき乱していく。
「あ、う……っ、ん、はぁ……」
寝具に深く沈み込む俺の身体を、上から覆いかぶさる彼の強靭な体躯がガチリと組み伏せる。中から抉られるような刺激の強さに息が詰まり、俺はただ、乱れた枕を掴むか、彼の背中に指を立てて縋りつくことしかできなくなっていた。
「っく、あ……っ!」
シーツに爪を立てる代わりに、俺はぐしゃぐしゃになった枕を必死に掴み、身体の奥から突き上げてくる狂おしい刺激に耐えようと歯を食いしばる。
けれど、そんな俺の必死の辛抱を愉しむかのように、柊一さんの行為はますます容赦のないものへとエスカレートしていった。
「何に耐えてる?七瀬 ……ほら、ここ、もっときつくなってるぞ」
耳元でわざと低く囁きながら、容赦なく最奥を抉るように掻き回される。あまりの快感の強さに、耐えようとする理性なんてとうに吹き飛んで、視界が涙でじわじわと滲んでいく。
「ひゅう、いち、さん……っ、も、むり……あぁっ!」
なんで俺なんかに、熱い執着を向けるのか。そんな疑問を考える余裕すら奪うように、彼はさらに深く、激しく、俺の身体の芯まで暴くように貪り続けていた。
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