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【番外編】静寂の宿で、君という傑作を読み解く34
「このドライブインから見る景色は圧巻だぞ。谷底を文字通り「のぞき込む」ようなスリルある地形からその名がついた展望台だからな」
「え?そうなの?」
「ああ。ここの駐車場の名前は「のぞき駐車場」まんまだろ」
「なんか勘違いするような名前だね…」
あ。また頭を小突かれる。俺ってやっぱりバカなのか。バカなんだろうな。何回も柊一さんに突っ込まれるんだから。だけど、「のぞき駐車場」って勘違い起こしちゃう名前だよなあ…。
「バカなこと言ってないで、歩け。ロックシェードの横まで行くぞ」
「わかったから先行かないで―!」
俺は柊一さんを追いかけた。
「ちょっと、柊一さん待ってってば!」
大股で先を行く背中に追いつき、横からひょいっと手を出してその指先をかすめると、柊一さんはため息をつきながらも素直に手を握り直してくれた。
「……たく、走るな。転んだらどうする」
「柊一さんが置いてくからでしょー」
文句を言いながらも握りしめてくれる手は相変わらず優しくて、俺はへへっと笑ってしまう。
ドライブインの脇から伸びる道を少し進むと、道路を覆う頑丈な洞門――ロックシェードが見えてきた。その脇に立ち、ふと眼下に視線を落とした瞬間、思わず息をのむ。
「うわ……!すごっ……!」
足元から一気に切れ落ちた崖の先には、どこまでも広がる青々とした志賀高原のパノラマと、深々と落ち込む谷。まさに文字通り「のぞき」込むようなスリル満点の絶景が、どこまでも広がっていた。
「どうだ。バカな名前じゃなかっただろ」
得意げに、でもどこか嬉しそうに柊一さんが隣で微笑む。
「うん……!めっちゃ綺麗……!谷底まで丸見えで、ちょっとゾクゾクするけどすごく気持ちいい!」
「だろ。……景色に見とれてると、車道に飛び出さないようにしないとな」
身を乗り出しそうになった俺の腰に、柊一さんの手がそっと回される。しっかりと引き寄せられた身体から伝わる温もりに、絶景のスリルとはまた違うドキドキで、俺の胸は一気にいっぱいになった。
「ここから見る夕日は「信州のサンセットポイント100選」に選ばれてて、額縁に収まった絵画のような美しい景色らしい…残念ながら、今回はそこまで長く滞在は出来ないが」
「じゃ、今度連れてきてよ。夕日見ようよ、一緒に」
「――そうだな」
今度来たときはここの夕日を見る、柊一さんと。俺はいつか来る日に想いを馳せながら、壮大な景色を眺めていた。
「後はこの駐車場の周辺を歩く。間違ってもゲレンデの方には行くなよ。まあ、俺が連れて行かないけどな」
「ゲレンデ方面はスニーカーだとダメなの?」
「ああ。草地や砂利、大きな石がゴロゴロしているし、傾斜も急だ。スニーカーじゃとても危なくて連れていけない」
「でもさ、この周りをぐるぐる回るだけしかないじゃん。景色は申し分ないんだけど歩きとしては物足りない感じ…俺が悪いのはわかってるけど…」
俺は俯く。柊一さんは短くため息をつくと、
「じゃ、もう一回スカイレーターとリフトに乗るか?さっきは行かなかった横手山神社って神社がある」
「え?神社があるの?行く行く!」
「山の神様が祀られてて、「開運」「心身の浄化」「旅の安全」にご利益があるらしいぞ」
俺がぱあっと明るく笑うと、それにつられて柊一さんも柔らかく微笑んだ。
「行こ、行こ。神社にお参りに行こう!」
「元気だな、七瀬。腹いっぱいで歩けないとかほざいてたのに」
「それはそれ。行く目的地もできたし!」
「七瀬らしい」
柊一さんはまた笑っていた。
またスカイレーターの乗り場にやってきた。柊一さんは、新たにチケットを売店で購入している。申し訳ないな。俺のわがままに突き合わせちゃって。
「さあ乗るぞ、七瀬」
「うん!」
「ごめんね、柊一さん。俺の我がままにつきあわせちゃって……」
スカイレーターに足を乗せ、隣に並んだ柊一さんに小さく声をかけると、柊一さんは呆れたように、でも目元を緩めて俺を見下ろした。
「今さら何を言ってるんだ。言い出したのは俺だし、お前が楽しそうならそれでいいと言っただろう」
「……うん。ありがとう」
素直にお礼を言うと、柊一さんは「ほら」とまた当たり前のように手を差し出してくれる。
俺はその手に自分の手を重ね、ぎゅっと握りしめた。
ゆったりと動くスカイレーターから見上げる空はどこまでも青く、吹き抜ける風がとても爽快だ。さっき降りてきたばかりの景色なのに、二人でこうして手を繋いでまた登っていると思うと、それだけで特別で特別なワクワク感がこみ上げてくる。
スカイレーターからリフトへと乗り継ぎ、再び標高2307メートルの横手山頂へ。
リフトを降りると、柊一さんは慣れた足取りで山頂の奥へと案内してくれた。
「あっちだ。鳥居が見えるだろ」
「あ!本当だ、小っちゃくて可愛い神社がある!」
木々の緑に映える朱色の鳥居の向こうに、ひっそりと佇む横手山神社。
周囲の静けさと相まって、本当に神聖な空気が漂っている気がする。
「『旅の安全』か……。柊一さん、一緒にお参りしよ!」
「ああ。……これからも、いろんな場所に無事で行けますように、ってな」
ボソッと呟かれた柊一さんの言葉に、俺の胸は一気に熱くなる。
“これからも”――その言葉が嬉しくて、俺は満面の笑みで大きく頷いた。
…あ、後できたらサマージャンボ宝くじ当たりますように。一等、前後賞合わせて12億円…一等じゃなくてもいいから、そこそこの金額をゲットできますように。
「…やけに長いな、七瀬。お前悩み事とかあるのか?」
心配してくれてる柊一さんに、サマージャンボ宝くじの話なんかできない。俺は何でもないよと笑ってごまかした。――ごまかしきれてるかな。
「…お前の事だ、金の成る木はないですかとかじゃないだろうな?」
「ギクッ……!」
図星を突かれて思わず肩が跳ねる。柊一さんの洞察力は、いつだって容赦がない。
「な、なんでそれを……!いや、違うって!俺がそんな露骨なお願い事するわけないじゃないじゃん!」
慌てて手を横に振って否定してみせるものの、柊一さんの前では自分の挙動不審さが余計に際立ってしまう。横目で見下ろしてくる彼の目は、「お前はそういうやつだ」と言いたげに半信半疑だ。
「……ふん。ならいいが」
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