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【番外編】静寂の宿で、君という傑作を読み解く42
俺と柊一さんはスタバを後にし、パン屋へ向かう。その道沿いにソフトクリームがあったのを俺は見逃さない。
「柊一さん、ソフトクリームだって!牧場のソフトクリームとか美味しそうじゃね?」
「…七瀬、お前ケーキ食ったばかりだろ」
「それはそれ!もったいないじゃん、こういうの食べとかなきゃ!」
柊一さんは呆れたような顔を浮かべて、「ハイ、ハイ」と言う。俺は目をきらきらと輝かせて、その店のメニューを見る。
「焼きまんじゅうみそソフトだって!美味しそう~ね、ね、柊一さんもなんか食べていこうよ」
「俺はいい」
「ええー!?なんでぇー?!」
「まだ腹に蕎麦が残ってるからな。当分大丈夫だ」
俺は柊一さんにせがむ。
「甘いものは別腹っていうじゃん!ね、ね、一緒に食べよ」
「七瀬が食いたいんだろ、お前だけでいいだろ」
俺は口を尖らせる。
「柊一さんも一緒じゃなきゃヤダ!」
「こんなとこで、わがまま言うなよ……はぁ。まったく、お前は……」
柊一さんは盛大に溜め息をつき、手を伸ばすと、俺の額を指先で軽く小突いた。言葉とは裏腹に、その手つきは驚くほど優しい。
「そんなに俺を太らせたいのか?」
「太るわけないじゃん!柊一さん、毎日トレーニングしてるんだから!それに……せっかくのドライブなんだから、同じもの食べて『美味しいね』って言いたいじゃん」
必死に訴えかける俺の言葉に、柊一さんは一瞬だけ不意をつかれたような顔をした。それから「……そういう理由かよ」と小さく呟き、手で口元を覆ってしまう。わずかに耳の裏が赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。
「……負けた。わかったよ」
「ほんと!?やったー!」
俺がパッと表情を輝かせると、柊一さんは困ったような、でもどこか愛おしそうな目で俺を見つめ、ポケットから財布を取り出した。
「ただし、焼きまんじゅうみそソフトとかいう怪しいのは、お前が半分以上責任持てよ」
「怪しくないって!絶対美味しいから!ほら、早く並ぼ!」
俺は嬉しさのあまり、思わず柊一さんのジャケットの袖をぐいっと引っ張った。
人目が気になってすぐ手を離そうとしたけれど、柊一さんは逃がすどころか、自分の大きな手で俺の指先を優しく包み込む。
「さっき『わがまま言うな』って言った傍から、また手ぇ引っ張るか?」
「あ……ごめ、ここ外だし……っ」
焦って手を引こうとする俺を、柊一さんは少しだけ力を込めて引き留め、ニッといたずらっぽく笑った。
「いいだろ。指のチーズ舐められたよりは、ただの手繋ぎの方が健全だ」
「〜〜〜〜っ!それ、もう言わないでってば!!」
顔が火が出るほど熱くなる俺を見て、満足そうにフッと笑う柊一さん。
やっぱりこの人には、一生かかってもかないそうにない。
「長門牧場のソフトクリームにするか…」
柊一さんは焼きまんじゅうみそソフトと長門牧場のソフトクリームをオーダーした。
「わー焼きまんじゅうみそソフトなんか美味しそうじゃね?柊一さんも食べてよー」
「俺はこっちの牧場のソフトクリームだけで十分だ」
「照れなくていいし~!」
「照れの問題じゃねえ!いいから、ほら。溶ける前に一口食ってみろ」
呆れ半分、諦め半分といった顔で、柊一さんは先に渡された『焼きまんじゅうみそソフト』を俺の手へと押し付けた。
受け取ったコーンはズシリと重く、ソフトクリームの上には濃厚そうな甘味噌だれがとろりとかかっている。芳ばしい香りが鼻腔をくすぐって、一気に口の中に唾液が広がった。
「うわ……!香ばしくてめっちゃ美味そう……!いただきまーす」
大きく口を開けてパクリと食いつく。
口の中に広がったのは、ミルクの濃厚なコクと、味噌の甘じょっぱさ、そして香ばしい風味。絶妙な甘辛さが後を引く美味しさだ。
「……っ、うまっ!柊一さん、これマジで当たり!ほら、絶対一口食べた方がいいって!」
「……本当か?」
うさんくさそうに眉をひそめる柊一さんに、俺はスプーンですくったソフトクリームを「あーん」の体勢で鼻先に差し出す。
「騙されたと思って!ほら、あーん!」
「……おい、人目があるだろ」
「さっき『ただの手繋ぎの方が健全だ』って堂々としてたの誰だっけ~?」
ニシシと意地悪く笑ってみせると、柊一さんはぐっと言葉を詰まらせた。
観念したように軽く溜め息をつくと、俺の手首を片手で軽く固定し、そのままスプーンを唇へと運ぶ。
「……ん」
一瞬、柊一さんの眉間にシワが寄る。
俺はドキドキしながらその顔を見つめた。
「……どう?変?」
「……いや」
柊一さんはゆっくりと味わうように噛み締めると、ふっと力みの抜けた顔で目元を緩めた。
「……悪くない。甘じょっぱくて、案外クセになる味だな」
「でしょー!?だから言ったじゃん!」
自分の目利きが当たったのが嬉しくて、俺がドヤ顔を決めると、柊一さんはニヤリと口角を上げた。
「んじゃ、お返しだ」
言うや否や、柊一さんは自分の『長門牧場ソフトクリーム』をすくうと、すばやい動作で俺の唇にそのまま押し当ててきた。
「んむっ!?」
「ほら、食いたがってた『同じもの』だ。美味いんだろ?」
突然の不意打ちに目を白黒させながら味わうと、これまた驚くほど濃密でピュアなミルクの風味が広がっていく。
「……ん、めっちゃミルク……美味しい……っ」
「そうか。そりゃよかった」
満足そうに鼻で笑う柊一さん。
唇の端についたソフトクリームを、俺は慌てて舌で舐めとった。
「もう……!予告なしでやるの反則だってば!」
「お前が『照れてる』なんてからかうからだろ。自業自得だ」
やっぱり、この人と一緒にいると心臓がいくらあっても足りない。
真っ赤になった顔を誤魔化すように、俺は逃げるように次のひとくちを口に放り込んだ。
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