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【番外編】静寂の宿で、君という傑作を読み解く47

 俺はもう自分の足で立っていられなくなり、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すこともできず、すがるように彼の身体へとしがみついた。俺と変わらない体躯を持つ彼のしなやかな背中にしがみつき、浅い呼吸とともに何度も甘く切ない声を漏らす。  それを見下ろす柊一さんの瞳には、獲物を追い詰めた獣のような獰猛な光が宿っていた。彼は何事かを満足そうに目を細めると、俺の中を満たしている数本の指を、さらに深く容赦なく掻き回してくる。 「あ……あ、……う、ああ……ん、あ……、ん……っ!」  壁に反射して高らかに響く己の熱い喘ぎに、恥ずかしさで身がよじれる。そんな俺の耳元へ、彼は痺れるような低い声を吹きかけた。 「もっとその可愛い声聞かせろ、七瀬。ここには俺とお前しかいない」  湯気に包まれた密室で逃げ場を塞がれ、激しい甘美な刺激に翻弄されながら、俺はただ彼がもたらす熱の波に身を委ね、落ちていくしかなかった。 「い……い……いや……、は……ず……っかしい……っ」 「そういうこと言うと、本当に抜くぞ?いいのか?」  俺は涙を零しながら、必死に首を横に振った。 「い、いや……っ!ぬか……ない……で……っ」  俺は情けなさも捨てて彼にしがみつき、もっと熱をくれと全身で請う。理性を焼き尽くされた頭では、もう己の欲望を止めることなんてできなかった。 「七瀬の声、もっと聞かせろ。お前の鳴き声がたまらないんだ」  耳元で囁く声とともに、柊一さんの指が中を強烈に掻き回す。それと同時に、もう片方の手が正面へ滑り落ち、熱く昂った下肢を逃さず揉みしだいてきた。前と後ろから同時に襲いかかる猛烈な快楽の波。 「今、お前を気持ちよくさせてるのは誰だ?」 「しゅ……しゅう……い、……ちさ……んっ!」 「よく言えた。可愛いな、七瀬」  褒めるような低い声とともに、彼の指と手の動きが容赦なく速度を増していく。視界が白く明滅し、思考がひとつずつ弾けて消えていく。 「あ……あ……あ……ん、あん、んん……っ! ……い、いっちゃ……う、……いっちゃうっ!」 「いけ、七瀬。俺の中で好きにいけ」  さらに深みへと追い詰められるような強烈な刺激。俺は彼の腕の中で激しく身体を悶えさせ、圧倒的な絶頂へと引きずり込まれていった。 「あ……あ……ん、ああ……っん、うああ……ん、あっっ……!」  弾けた快楽の果てに高らかな鳴き声を響かせ、俺は彼の胸の中で激しく果てた。  彼は俺を一度達させて満足したのか、ふっと身体を離すと、肌に散った白濁を滑らかな手つきで拭い始めていた。 「柊一さん、全然真面目に洗ってくれてないじゃん……。無駄に汗かいちゃったし」 「お前が散々煽り散らかすのが悪い。車を運転している間、どれだけ押し倒したくて堪らなかったか、お前には分からないだろうな」  予想外の言葉に、俺は目を丸くした。 「そんなの、言われなきゃ分かんないもん……っ」 「そういうところだ、七瀬。その無自覚で無防備なところが、余計に煽られるんだよ」  納得がいかなくて不満げに頬を膨らませると、柊一さんは可笑しそうに目を細めた。 「またそんな顔をする。本気でまた抱かれたいのか?」  その眼光の熱さに跳ね上がり、俺は慌てて首をぶんぶんと横に振った。 「……まあ、車の中での『約束』はまだ果たしてないがな」 「え!?今ので終わりじゃないの!?」 「お前だけがいって、俺はまだ何もしていないだろう。今のただ、お前に気持ち良くなってもらっただけだ」 「そ、そう言われれば……そうだけど……っ」  俺はおそるおそる、彼に問いかけた。 「じゃあ、今のは……」 「序章だ。物語は、まだ始まったばかりだろう」  妖しく笑う彼の瞳が、暗闇の中で深々と光った。その眼光は、まるで獲物を追いつめた獰猛な肉食獣そのものだ。対する俺は、逃げ場を失った仔ウサギのようなものだろう。  あんなに激しいものが、まだほんの序章に過ぎないなんて。  俺は今夜、どこまで壊されてしまうのだろう。 「七瀬、お前は俺の中で好きなだけ鳴いていればいい」 「…手加減はしてよね。明日会社だから」 「どうだかな」 「もうっっ!!俺会社クビになっちゃうじゃん!」 「そしたら、俺が雇ってやるよ。俺専用の営業事務としてな」  もともと大きい目が、驚きでさらに見開かれる。あまりに大胆な柊一さんのプランに、俺はただ圧倒されるしかなかった。 「俺を雇うって……冗談でしょ~?やだな、柊一さん」 「半分は本気だ。七瀬は5年営業事務やってるんだしな。美也子さんと二人で切り盛りする姿を見るのも悪くない」 「ええええ~っ!?何それぇ!?」  感情を読み取らせない表情のまま、彼は淡々とシャワーヘッドを握った。 「七瀬、洗ってやるからもう少し近くに来い」 「……変なことしないでよ?」 「お前が煽らなきゃな」 「煽ってないもん!」 「七瀬。お前は無自覚に煽る」  そんなこと言われたって、分かるわけないだろ——! 「俺にとっては、お前の存在そのものが甘い煽りなんだよ」  そう言うと、柊一さんは自分で服を脱ぎ始めた。  目に映るしなやかな浅黒い肌に均整の取れた身体。俺はまたこの人に抱かれるのか…。  低く囁く声とともにシャワーがひねられ、温かな湯の雨が二人の身体を包み込んでいく。  温水が肌を伝い落ちるたび、先ほどまで身体に付着していた熱い残り香と白濁が綺麗に洗い 流されていった。けれど、表面が綺麗に流されるのとは裏腹に、柊一さんの大きな手のひらが俺の腰や背中を撫で上げるたび、肌の奥に潜む熱が再び疼き出す。 「あっ……ん、……柊一さん、くすぐったい……っ」 「動くな。せっかく綺麗にしてやってるんだからな」  口ではそんなことを言いながらも、その指先は巧みに俺の弱点を撫で回し、逃げ場を塞ぐように壁際へと追い詰めてくる。シャワーの落ちる水音が、二人の荒くなっていく呼吸を覆い隠すようにリズミカルに響いていた。  濡れた髪から滴を滴らせながら、柊一さんが俺の顔を覗き込む。濡れて光る瞳、水滴が伝う首筋、引き締まった胸板——そのすべてがあまりにも色っぽくて、俺は思わず息を呑んだ。 「……なぁ、七瀬」 「な、なに……?」 「明日、本当に会社行けると思ってるのか?」 「っ!行くよ!行かなきゃダメだもん……っ」  強がる俺の言葉を嘲笑うかのように、彼の濡れた唇が俺の首筋へと寄せられ、甘く鋭い歯立てで肌を噛み留めた。 「ひぁっ……!?」 「痕、消えない場所にしっかり残しておいたからな。……会社に行っても、一日中俺のことを考えていろ」 「……っ、意地悪……っ」  涙目で睨みつける俺を、柊一さんは愛おしくてたまらないというように強く抱きしめ直した。湯気で白く煙るバスルームの中、俺たちの体温はどこまでも高く跳ね上がっていく。 「さぁ、綺麗になったことだし……本番をはじめようか」  シャワーが止められ、一瞬にして静寂が戻った浴室で、彼の獰猛な瞳が俺を捕えて離さなかった。 「え…まさかバスルームでするの?」 「ここならすぐに流せるしな」 「せっかくベッドルームあるんだからそっち使おうよお」 「あっちは二回目だ」  さり気なく凄い事を言う、柊一さん。俺、明日大丈夫かな…。

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