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虹のつづき9

 タクシーに乗れるとは凄い。車は有無を言わさず、うちの会社と提携している総合病院へ向かう。  病院についた。  俺は領収書をもらい、タクシーを降りる。経費で落ちることを祈る。  病院に入り、これまでの病状を言い受付する。 「あれ…この絵…柊平さんの絵だ…」  白い壁に飾られた大きな空に風船が飛んでいく油絵。彼の性格を表すかのように、繊細なタッチで優しく描かれていた。見ているだけで、心が温かくなるような絵。  俺はスマホを弄る。  待合室はそこそこ混んでいて、俺は少し待つようだ。  柊一さんからのラインはないかと探すが、なかった。俺は彼へラインを送る。 「俺は今日、倒れて病院に来てるよ…」  心配させるつもりはないけど、少しでも俺の事をわかってほしかった。彼に会いたくて仕方がない気持ちが悪さをした。  ラインはすぐに返ってきた。 「七瀬、病院はどこだ。そこまで車で迎えに行く」  まさかそんな返事が来るとは思わなかった。俺は今いる病院の名前を書き、だいたいの今いる住所もGPSを使って調べて送る。 「柊一さんに悪いことしたな…」  俺はスマホを見ながら一人ごちる。 (これじゃ、俺、質の悪いかまってちゃんじゃないか…) 「七瀬さん」  名前を呼ばれ、診察室に行く。  俺が今日の昼間に起こったことを説明すると、念のため脳検査をしてくださいとなった。そのまま、CT検査する。俺はドーナツ型の大きな機械に横たわり、ぼうっとしていた。  数分で検査は終わり、俺は検査室を出る。  検査の結果を聞くため、俺は再び待合室で待っていた。  スマホを弄りながら、柊一さんのことを考える。 (柊一さん、どこまで来てるのかな)  「七瀬さん」  名前を呼ばれ、俺は再び診察室へ入った。 「どうやら、特に異常はないようですね」  医師からそう告げられる。 「そうですか……」  俺はひとまず安堵した。  しかし、医師は続ける。 「ただし、強い頭痛やめまいが続く場合は、CTでは捉えきれなかった病変がある可能性もあります。その場合は、頭部MRI検査ができる脳神経外科への受診を検討してください」  俺が病気……?  頭部MRIなんて受けたことはない。  俺は勝手に、精神的なものだと思っていたけれど……違うのかな?  どっちにしても、あまり良い状態じゃないことは確かだ。 「お大事にしてください」  看護師にそう言われ、俺は診察室を出た。  特に薬が処方されることもなかった。  スマホを見る。  柊一さんのメッセージを受け取ってから一時間。まだこの辺りには着いていないのかもしれない。  俺は待合室で会計の順番を待ちながら、柊一さんからの連絡を待っていた。  ほどなくして名前が呼ばれ、俺は会計を済ませる。 「柊一さん、どこまで来たのかな……」  混んでいたら、西新宿からここまで一時間では微妙なところだろう。  外は暑いので、俺はそのまま待合室でスマホを弄る。  柊一さんは締め切り前で忙しい。  そんな中、俺のために時間を割いてくれた。それだけでありがたい。  あとで豪勢なプリンをプレゼントしよう。 (それとも、柊平さんの奥さんの手作りプリンをあげた方が喜ぶかな……)  ブルルル……。  スマホが震えた。  俺は慌てて画面を見る。 「柊一さんからだ!」  柊一さんからのラインだった。 『今、駐車場に着いた』  俺は、尻尾がついていたらぶんぶんと振っていただろう。  そんな気持ちで荷物を持ち、病院を出る。  会えないと思っていた柊一さんに会える。  それだけで、俺の気持ちは喜びに満ち溢れていた。 「七瀬!」  柊一さんはTシャツとGパン姿。彼のこんなカジュアルな格好は、長野旅行でも見られなかった。わざわざ仕事着から着替えて、迎えに来てくれたのかな。  ボルボのステーションワゴン。デニムブルーメタリックの車体が、夏の日差しを受けている。俺は彼の愛車に近づく。 「大丈夫なのか、お前バカだから病院とか縁なさそうなのに…」  柊一さんもそういうこと言うなよ……。この人は日頃から、俺のことを「バカだ、バカだ」と言っているから。 「俺だって、びっくりしてるよ…!」  俺は少しムクれる。 「七瀬、早く車に乗れ。暑いだろ」  彼にそう急かされ、俺は助手席に乗る。 「七瀬、何があった。検査とかしてもらったのか?」  柊一さんは心配そうに俺に尋ねてくる。 「検査はしてもらったよ。異常ないって。…俺、急に会社で倒れちゃったから…」  柊一さんは固まっている。 「異常ないって言われたし、大丈夫だよ」  俺は柊一さんの横で、俺はそう言った。 「昨日ちゃんと寝たのか?」  彼が言うので、俺は「うん」と、答える。 「俺さ、会社で太一の話されたんだ。柊一さんの話でたまたま太一の話になってね。そしたら、頭の中に嫌な思い出が甦っちゃって…そしたら、倒れてた」  信号待ちになった時、柊一さんは俺の手を掴んでくれた。 「…七瀬、今の仕事続けられそうなのか?」  俺の顔を見て柊一さんが言う。俺は、 「うん。…今の仕事長いし、結構気に入ってるんだ。なかなか能力なくて上には上がれないけどね」 と、やや自虐気味に言う。 「…七瀬、無理するな。前にも言ったが。俺がお前を雇ってやってもいいんだ」  柊一さんが、半分冗談に言ってたこと…。『七瀬は5年営業事務やってるんだしな。美也子さんと二人で切り盛りする姿を見るのも悪くない』…まさかここでそう言われるとは…。 「大丈夫、俺、今の仕事好きだし。どうにもならなくなったら考えとくよ、柊一さん」  信号が変わる。  柊一さんの手は俺の手を離れ、ハンドルを握る。 「太一のこと、柊一さんが終わらせてくれた事だってわかってるのにさ。まだ俺、覚えてるんだ。…ダメだね。こんなんじゃ」  俺がまた自虐的に言うと、柊一さんは、 「七瀬は全然ダメなんかじゃない。そこは否定するな」  俺は彼に抱きつきたい衝動にかられたが、車の中なので我慢した。 「七瀬」  彼が俺の名を呼ぶ。 「しばらく俺の家から会社に通え」  彼からの申し出に、 「…でも、柊一さん締め切り前で俺が居たら、仕事にならないって言ってたよ?」 と、昨日言われたことをそのまま返す。 「…状況が変わった。今のお前を一人にさせとく方が心配で、仕事にならない」  俺は再び、彼に抱きつきたい衝動に駆られた。彼が運転していることが最大の障壁だ。  それさえなかったら……。  俺は彼の横顔をじっと見つめた。

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