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【番外編】ムーンライトセレナーデ2
長い一曲が終わった。
次の曲へ移る前に、簡単な美也子さんのMCが始まる。
ふと、美也子さんと目が合う。美也子さんは手を振ってくれる。
いつもの「頼りになる姉御の美也子さん」だ。俺も手を振り返す。
曲が始まった。……この曲は知っている。「シング・シング・シング」。見ているこっちまで元気になってくる曲。
美也子さんのボーカルが冴えわたる。俺は体を揺らす。この曲、踊りだしたくなる勢いのある曲だ。
圧倒的なパフォーマンスを見せ、曲が終わる。店内から大きな拍手が美也子さんやバンドメンバーに送られる。
その後、美也子さんが本日のゲストプレイヤー、柊一さんの名前を告げる。
柊一さんは立ち上がって、ステージに向かう。
また見られるんだ。
情熱的でカッコいい柊一さんが。
何の曲を弾いてくれるんだろう。
知らない曲でも、柊一さんが弾いてくれるなら、それだけで嬉しい。
出来れば知ってる曲だともっと嬉しいけど。
美也子さんが曲紹介をした。
「次は珠玉のバラード、『ムーンライトセレナーデ』、聞いてください」
『ムーンライトセレナーデ』か。
初めて柊一さんと聞いた美也子さんの曲は、『Fly Me to the Moon』。月繋がりの曲だ。
柊一さんの姿が見える。
今回の曲はミディアムテンポのバラードで、いつもの情熱的な感じとは少し違う。
だけど、スポットライトに照らされている柊一さんは、神々しささえ感じるほど、美しい。
そうだ。
三年前の雨の日。
俺が柊一さんと出逢った日。
あの時も暗がりの部屋で見た、綺麗な柊一さんの横顔。
あの日からずっと、俺は柊一さんの洗練された姿に惹かれている。
(改めて柊一さんの美しさ知っちゃったじゃないか……)
曲が終わって、拍手が起きる。
柊一さんが美也子さんに紹介されて、ステージの前に出る。
「もう一度、彼に拍手を!」
美也子さんが言い、柊一さんは拍手の中、俺のいる席に戻ってきた。
「……どうだった、七瀬」
そう聞かれて、俺は素直に言う。
「……柊一さんが綺麗で……」
「……演奏聴いてたのか?」
「…う、うん。聴いてたけど、柊一さんが美しくて……胸がいっぱいになっちゃって…… 」
柊一さんは首を振る。
「これ以上ここにいたら、お前、持たなそうだな」
俺は首を左右に振る。
「…そ、それは大丈夫だけど、でも、凄く柊一さんが綺麗すぎて……」
「七瀬、大丈夫か? 目がトロンとしてる」
「わ、悪いのは柊一さんだよ。……あんなに綺麗なんだもん……」
初めて柊一さんのピアノを聴いたときは、カッコよすぎて心を撃ち抜かれた。
今回は、その美しさを改めて思い知らされた。
(絶対、惚れ直すよね……)
「柊一さん……っ」
「なんだ」
「今回はこれで終わりなの?もうピアノ弾かないの?」
「アンコールがあった時、今回のバンドメンバーでセッションするから、その時もう一回弾くかもな」
「俺、楽しみにしてる! 柊一さんのピアノ好き!」
「……絶対、七瀬俺の音聴いてないだろ」
そう言われると、立つ瀬がない。
「……ごめんなさい……」
柊一さんは、短いため息をつく。
「……七瀬だし。全部顔に書いてあるしな。お前はお前で楽しんでくれればいい」
俺は柊一さんの顔を見つめる。
「どうした? 七瀬」
「柊一さん、怒らないの?俺のピアノをちゃんと聴いてないって、咎めてもおかしくないんだよ?」
柊一さんは苦笑する。
「三年お前と伊達につきあってない。それ位で怒るようなら、七瀬とつきあってないだろ」
俺は目を見張り、柊一さんの懐の深さにますます惹かれていく。
(綺麗で優しいなんて、好きになる要素しかないじゃないか……)
「人の顔じろじろ見て、どうした?」
「柊一さんって凄いなって思って……」
「何言い出すんだよ。お前、やっぱり帰った方がいいんじゃないか?」
「……帰らないよ。ライブ最後まで見ていく……柊一さん、またアンコールの時、ピアノ弾くんでしょ。絶対帰らない」
俺は大きな目で柊一さんを見ながら、話す。柊一さんは困ったような顔を浮かべる。
「大丈夫か? 酒も飲んでないのに、明らかにお前おかしいだろ」
「……平気。柊一さんが傍にいるし」
柊一さんはまた短いため息をつく。
「……まぁ、お前が大丈夫なら構わないが」
いつの間にか四曲目が始まり、ステージでは美也子さんがスポットライトに照らされ、歌っている。
「あ、『Fly Me to the Moon』じゃん。この曲いいよね…」
初めて柊一さんと「クレセント」に来た時も、この曲を美也子さんは歌っていた。
あの時と違って、今日は英語版で歌っている。
……英語で歌っていても、意味は変わらない。
「『私を満たして』…俺が言ったら、柊一さんどうする?」
初めて来た時も、俺は同じ質問をした。
関係が少しだけ変わった今、柊一さんはどう答えてくれるんだろう。
「……場合による。ベッドで言われたら、そのまま押し倒すな」
「……そ、そうなんだ……」
前聞いたときは、笑ってごまかされた。
今は聞いた俺が恥ずかしくなる台詞を言ってくる。
柊一さんの中で、俺が変わってきたってことだ。
(素直にここは喜んじゃっていいのかな?)
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