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第4話
かごめ かごめ
かごの中の鳥は
いつ いつ でやる
────また、歌が聞こえる。
暗闇の中で、歌が響く。透き通ったようにきれいな女の人の歌声。なんだかとても懐かしい。
その歌声は遠くからやってきて、やがてだんだんと近づいてくる。そして、はっきりと耳元で聴こえるようになった。
歌が止まる。
ゆっくりと瞼を開いた。
(ここは……)
目を開いて、驚いた。
冬斗は時代劇に出てくるような、畳の広い和室にいた。
一体何畳あるのだろう。とにかく広くて、薄暗い。和室だとわかったのは、ぼんやりと行燈が畳を照らしているからだ。横を見ると、豪華で立派な着物が乱雑に散らばっている。
視界が低い。這いつくばっているからだと、遅れて気がついた。
細くて白い腕が視界に入る。白襦袢のようなものを着ている。
(なんだ……?)
不思議に思って、首を傾げた時。
“ ────いやだ!”
突然だった。
恐怖、切なさ、諦め。
複雑に入り混じった感情が、唐突に胸に流れ込んできて、冬斗は混乱した。
訳はわからないが、今すぐにここから走り出して逃げ出したくなった。
不意に、腰を掴まれた。
ひんやりとした感触に、呼吸も揃わないまま恐る恐る振り返る。
(か、一葉……?!)
────そこには、一葉がいた。
いや、正確には一葉によく似た男がいた。男がまっすぐに冬斗を見つめる。
鏡で何度も見た、見間違えようもない、その瞳。
(俺と、同じ目……?)
絹のように美しい銀色の長髪がサラ、と揺れる。その顔かたちは一葉そのもので、ますます訳がわからなくなった。
(……やっぱり、一葉じゃない)
一番違うのは、表情だった。一葉はいつも柔らかい笑みを浮かべているが、目の前の男は冷たくて何を考えているのかわからない表情をしていた。
言いようのない得体の知らなさに、ぞわりと背筋が震える。
自分と同じ瞳が、冬斗をじっと見下ろしてくる。
覆い被さってくる男の下から一刻も早く逃げ出したくて、冬斗は懸命に腕を動かして這い出ようとする。
背中をくすぐる、さらさらとした長い髪。腰に添えられた、長くすらりとした冷たい指。
息を呑んで、冬斗は畳に額を押し付ける。
閉ざされたこの部屋を。覆い被さっている男を。不思議とよく知っていた。
『お前は……温かい』
一葉と同じ声。だけど、もっとずっと無機質に感じられた。
男の体はどこも冷たいのに、吐息だけが熱い。背後から抱きしめられる。
背中から伝わる冷たい体温と、驚くほど遅い鼓動。
無意識に、普通の人間じゃないと思った。
『や、やめ……』
弱々しく、か細い声が喉から出る。
自分の声がいつもと違う。自分だけど、自分じゃない。直感的にそう思った。
顎をそっと掴まれ、後ろを向かせられる。
男の顔が目の前にあって、思わず息をのむ。
自分と同じ紫水晶の瞳に、一葉とそっくりな美しい顔。
紫水晶の瞳の奥に、どこか見覚えのある、怯えた少年の顔が写っていた。
男の顔が近付いてくる。
『や……』
思わず、逃げようとして顔を背ける。
『お前は、やっぱり愛らしい……』
一葉と同じ声で、耳に囁かれる。背中がぞくりと震えた。
“ ────怖い……!”
息が苦しくて、喉がひゅっと鳴る。
するりと、胸元に冷たい手が這わされた。
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