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第6話「役割決め」
「お祭り?」
冬斗が白水高校へやってきてから、早くも二週間ほどが経っていた。
昼休みに茜が「お祭りの役割決めやるよ」とプリントを片手に声をかけてきて、冬斗は首を傾げた。
「冬斗は知らないもんね。毎年この時期になると、白蛇祭 をやるの。 雪解けと、来年の豊穣をお祈りするってわけ。でも、まあそんなに固くないけどね」
「……はくじゃ?」
「白い蛇よ。うちの土地神様なんだってさ」
土地神なんて、東京にいた頃は意識したこともなかった。いかにもこの村らしい。
プリントを見ると、役割希望の欄がある。
「ロングホームルームで希望取るから、考えておいてね」
茜はこの学校で生徒会長をやっている。ただ、生徒数が二十一人でかなり小規模だから、実質学級委員長のようなものらしい。
「お、俺たちが準備するの?」
「うん。あ、といっても、お手伝いだけどね。運営は基本的に老人会の人たちがやってるから。ほら、うちの村って若手が少ないでしょ。だから、うちの高校と連携してやるわけ」
高校が地域の祭りに参加するなんて驚いたが、茜の話を聞いて納得する。たしかに、白泰村では高校生の労働力は貴重だろう。
冬斗はプリントに視線を戻す。
飾り付け、炊き出し、整備、展示資料────そして、神楽 、と書かれていた。
「神楽?」
あまり馴染みのない言葉に首を傾げる。
「衣装着て踊るんだよ。この祭りの目玉」
横から会話に入ってきた伊織は、あくびをしながら茜からプリントを受け取る。
「まあ、定員は二人だし、一人はもうどうせ決まってるけどな」
「あと一人、今年はどうなるかな」
「茜やるんじゃねえの」
「衣装、重いし寒いんだよね。去年でこりごり」
茜が嫌そうに首を振る。
「なんだ。あ、冬斗はさ、何やるんだ?」
伊織が覗き込んでくる。
「うーん……展示資料かな」
「えー。一緒に炊き出しやろうぜ」
「いや、火とか使うだろ? 俺、火ダメだから。あと、重いもの持ちたくねえし」
「なんだ、つまんね〜。まあ、いいや。遊び行くよ」
「遊びじゃないっての」
茜に怒られて、伊織は肩をすくめた。
「冬斗、神楽は?」
今まで黙ってやりとりを聞いていた一葉が、急にこっちを覗き込んできた。思わずどきっとして顔を逸らす。
「絶対やりたくない。い、一番“なし”だし」
「なんで。衣装きた冬斗見てみたかったのに」
「は、はぁ?! 何言ってんだよ」
思わず動揺すると、眼鏡がずれそうになる。
眼鏡を押し上げると、伊織がじっと冬斗を見つめた。
「ああ、確かに、冬斗って意外とスタイル良さそうだもんな」
じろじろと眺めまわされて、冬斗は小さく悲鳴をあげた。
「な、何言ってんだよ!」
「えー、褒めてんのになあ」
伊織はあっけらかんと言う。
一葉が小さくため息を吐いた。
「一緒にやりたかったのにな」
「……え?」
冬斗はぱちぱちとまばたきをした。
「どうせ一葉だもんな」
伊織が苦笑する。
「俺は別になんでもいいんだけどね。でもせっかくやるなら楽しくやりたいし。……だから、冬斗と一緒がいい」
そう言う一葉に、冬斗は胸がむずむずしたが、何も言えなかった。
◆
「じゃあ、今年の神楽は……とりあえず一葉は決まりでいい?」
茜が教卓の前で役割決めの指揮をとっている。全員の目が一葉に向いた。
「いや。俺、今年は神楽じゃなくて展示とかやりたいかも」
しかし、一葉はさらっと提案を断る。
その瞬間、教室中がどよめいた。
「何言ってんだよ。一葉じゃないと映えないって」
「老人会の人たちも、去年大絶賛だったじゃん」
「神楽は絶対一葉だよな」
ざわざわと教室が騒がしくなる。
確かに一葉が飛び抜けてビジュアルが良いから、当然の反応かとも思ったが、それにしてはみんな熱が入りすぎじゃないかと不思議になった。
「先生……」
茜が困ったように教室の隅で見守っていた担任を見る。担任は困ったような顔をした。
「うーん。老人会のみなさんにも、今年も一葉をぜひって強く推されてるからなぁ。……一葉、神楽、本当に無理か?」
教室中に「え、一葉やらないの?」という軽い緊張が走っている。
「白蛇祭の顔だから、なんとかやってくれないか」
担任の言葉に、一葉が困ったような顔をした。
「どうしよう、冬斗」
一葉がこっちを振り返ってくる。
(え、なんで俺?)
どきりとしたが、みんなの視線が一斉にこっちに集まってくるのを感じて、慌てて口を開いた。
「や、やりなよ、一葉」
視線が集まるのが耐えられなくて、一葉にだけ聞こえるように早口で即答する。
「……わかった。じゃあ、やるよ」
一葉は諦めたように一息ついた。
「じゃあ一葉は決まりね」
茜が黒板の神楽役のところに一葉の名前を書く。
みんながほっとしたように拍手をする。
「あー、よかった。うちのおばあちゃんも、一葉の神楽、楽しみにしてたんだよね」
「うちのじいちゃんも、一葉の時だけ見にくるよ」
生徒たちが嬉しそうにする中、当の一葉は気にも留めていない様子で聞いていた。
「あと一人、どうする?」
そこで、また教室がザワザワし始めた。
何人かの名前が挙がってくるが、全員女子の名前だ。基本的には男女で踊るのかもしれない。
「……あの!」
ざわめきの中、ガタンと音がした。見ると、鈴音が立っている。
「私、やりたいです」
少し恥ずかしそうにしながらも、はっきりと鈴音が言う。
一瞬教室が静まり返った。その後すぐに、「いいじゃん」と賛同の声が上がる。
「鈴音、小さいけど可愛いし」
「一葉との身長差が目立って、可愛くなりそうだよね」
「衣装も、丈詰めればいけるよね」
うんうんと頷く生徒たち。鈴音はほっとしたように胸に手を当てて、その後、おずおずと一葉を見た。
「い、いいですか?」
顔が少し赤い。問われた一葉は、ちらっと冬斗を見た。
一瞬、一葉と目があって動揺する。
(だから、なんでこっち見るんだ……!?)
小さく何度も頷くと、一葉は何か考えるように下を見るが、すぐに顔を上げた。
「別に。俺はなんでもいいよ」
嬉しそうに鈴音が笑って、茜を見る。茜もにやりと笑って、「じゃあ、鈴音で決定」と一葉の名前の横に、鈴音の名前を書いた。
「じゃあ、次は装飾やりたい人……」
話が進む中、冬斗はこそっと一葉に小声で話しかけた。
「な、なんでいちいち俺の方見るんだよ」
「え? なんかまずかった?」
「まずいっていうか……」
きょとんとした顔の一葉に、言葉が詰まる。
「自分で決めろよ」
「うん。だから、冬斗に聞こうと思って」
「は、はあ?」
自分で決めたいから、冬斗に意見を聞く。矛盾している一葉に、冬斗は口をぱくぱくさせた。
「ほら、展示資料やりたい人、訊いてるよ」
「あ」
一葉に言われて見てみれば、たしかに展示資料の話になっていた。
慌てて挙手をして、なんとか展示資料に入れてもらう。
ほっとしながら、冬斗はちらりと一葉を見た。
一葉は相変わらずにこにことした表情で冬斗を見ている。
冬斗はなんだか落ち着かないまま、窓に視線を逃した。
窓の外では、雪が相変わらず静かに降っている。
(――白蛇祭か……)
白い蛇の土地神様に祈りを捧げる祭り。
なんだか胸騒ぎのようなものを覚えて、冬斗は紫の目をそっと伏せた。
『来い────』
夢で聞こえたあの声が、耳の奥で響いた気がした。
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