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第17話「傷」※

 ────まただ。  もう何度目かもわからない。悪夢だ。 「あ、あん……っ!」  シキに抱かれている。  我を忘れそうなほどの快感に、喉からはひっきりなしに声が漏れ出る。 「はあ、ああ……っん!」  正面から抱き合ったまま、ひときわ強く貫かれて、正一は悲鳴を上げた。  ひやりとした腕にすがりついて、爪を立てる。  その腕に傷がついて血が滲んだ。  (シキも、血が出るんだ……)  当たり前のようなことに驚いて、正一は再び快楽の波に呑まれた。    嵐のような交じり合いにも、やがては終わりが来る。   「……体は痛くないか」  行為の後。  シキに静かに訊ねられて、正一はふい、と顔を逸らした。  シキは行為の後は必ず体調を気遣ってくる。  それなら最初からあんなにしなければ良いのに。  声を出しすぎた喉が痛い。 「……」  無言でいると、行燈の光が揺れた。  次の瞬間には体が宙に浮いていて、ぎょっとする。 「ちょ……っ」  抱き上げられている、と気がついて、幼子のような扱いに顔が熱くなった。  七尺近くあるシキに抱き上げられると、床までが異様に遠い。  正一を抱えたまま、シキは部屋を出る。丑三つ時にさしかかる今、侍女たちは控えていない。それにも関わらず、襖が勝手に開き、廊下の行燈がひとりでに灯っていく。  (ああ、やっぱり……)  体に伝わる冷たい体温を感じながら、正一はごくりと喉を鳴らした。  そのまま、シキに連れていかれたのは湯殿だった。  広い(ひのき)造りの浴槽にはまだ湯は張られていない。すでに十分はだけていた小袖を脱がされて、正一は戸惑った。  すぐに裸にされると、いつの間にかなみなみに湯が張られていた浴槽の縁にそっと座らせられた。  息を呑みながら湯にそっと触れると、温かい。湯気を立てて静かに水面を揺らす湯に目を丸くしていると、服を脱いだシキに再び抱き寄せられた。  思わず身体を固くすると、そのまま湯に入れられる。肩まで浸からせられ、無意識にほっと体の力が抜けた。 「……どこか不便はないか」  低く静かな声で問われ、顔を上げる。  湯の中、髪を後ろに流したシキはいつもよりも男らしさを感じた。  紫の目は、どこかこちらを気遣うような色がある。  正一は目を伏せた。 「……大丈夫です」  湯面を見つめたまま、小さく首を振った。  いつも湯殿では侍女たちに身体を清められていた。今日はこの時間だからか、シキが直々に正一を湯に入れているようだ。 「そうか」  短く言ったシキが手を伸ばしてくる。湯の中でもひやりとした指に頬を触られ、びくりと震える。 「……何かあれば言え」 「……それでは、私をお帰しくださいませ」  とっさに、口答えが出た。湯で気が緩んだせいかもしれない。湯の中にいるシキを人間らしいと思ったせいかもしれない。  言った後ですぐに後悔しかけたが、ぐっと唇を引き結ぶ。 「それはできぬ」  即答だった。分かってはいたが、胸が苦しくなってうつむく。 「……ならば、交わりを……減らしてくださいませ」  本当はなくして欲しかった。シキに抱かれるのは、おそろしい。まるで抱かれるごとに自分が作り替えられているような錯覚を覚えるからだ。  シキが目を細めた。 「……お前の体は拒んでおらぬ」  だからです。とは言えなかった。  湯の中でぐっと拳を握る。 「……そんなことは」  搾り出すように言うと、シキの視線が突き刺さる。嘘だと見透かされているのが分かった。  首筋をつ、と撫でられてびくりと肩が震える。 「あ……っ」  それだけで再び体が熱を持ち始める。ぎゅっと歯噛みして、自分が情けなくて息が震えた。 「お前は愛らしいな」  熱を含んだ声に、どくどくと心臓が大きく脈打ち始める。顎をそっとつかまれる。  湯気が重たく湿気る気配がした。  シキの顔が近づいてくる。力なく目を伏せる。ふと、シキの白く逞しい腕が目に入った。  (あれ……)  さっきまであった赤い傷が無くなっているような気がしたが、湯気でよく見えない。  何か違和感を覚えたが、すぐに熱い口付けに思考が霧散した。  

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