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第25話「終わった」

 神楽殿の方へ戻っていく。  神楽歌と太鼓の音、笛の音が近づいてくる。  一歩進むごとに、心臓がゆさぶられる様な感覚がしたけど、隣を見れば伊織がいた。  不安になって伊織を見ると、伊織が明るく笑う。太陽みたいな笑顔を見て、ほっと安心する。  ────大丈夫、大丈夫。  そして、神楽殿の前まで辿り着いた。  神楽はもう終盤のようだった。  一葉たちに魅入る様に見上げる観客達の姿は、まるで信教徒のように見えた。  スマホを掲げていた者たちは、いつの間にか手を下ろして惚けている。  一葉が、指先を、視線を。一つ動かすだけで、目が奪われる。  それ以外のことは遠くの彼方へ消えていく様な、呼吸さえ忘れてしまうような、強い引力があった。  足が動かない。  しゃん、と鈴の音が鳴る。  ゆっくりと、二人が動きを止めた。  神楽歌が止んだ。  雪の境内が、しんと静まり返る。  一葉と目が合った。黒い、夜の様な瞳。白銀の髪がさら、と揺れる。  心臓が大きく鼓動を打った。  次の瞬間。ごうっと突風が吹いた。 「っ……」  視界が大きく開く。  はっと気がついた。眼鏡をしていない。  その時、誰かの震えたような声がぽつりと聞こえた。 「紫の目……」  空気が凍る。その瞬間、ざあっと音がする様に観客たちが冬斗の方を振り返った。  いくつもの目が、大きく見開かれて、そして怯えたような色を浮かべる。 「巫様……巫様じゃ……」    壊れたように「巫様」と繰り返し呟いて崩れ落ちたのは、佐久間さんだった。その顔が真っ青になったかと思うと、次に真っ赤に染まっていく。 「何あの目……」 「え、でも、紫の目ってさ……」  波紋が広がるように人々のざわめきが大きくなっていく。白水高校の生徒たちまでもが、冬斗を奇異な目で見ていた。 「あ……」  喉がひりつく。  息が震える。  視界が歪んでいく。    老人の拝む声と、怯えたような声が雪に落ちる。  ふと、隣に立つ伊織を見上げた。  伊織は、冬斗の目元を見て、はっと息を飲んだ。その目が恐怖で揺れたのを、確かに見た。  (ああ……)  その瞬間、痺れるようにぼんやりと思考が輪郭を失っていく。  ゆっくりと神楽殿の方を見た。鈴音が口に手を当てている。  一葉だけが、冬斗を見て静かに笑っていた。でも、その顔はどこか悲しそうにも、嬉しそうにも見えた。  視線が逸らせない。足がかすかに震える。  ────終わった。  そう思った瞬間、冬斗は雪を蹴って駆け出していた。  後ろで伊織の声がしたような気がしたけど、もう構わなかった。  ────終わった。終わった。  楽しかった日々が走馬灯のように流れていく。  伊織の家。放課後のコンビニ。雪遊び。  次から次に流れて行っては、溶けるように消えていく。    鳥居をくぐると、おそろしい蛇の石像と目が合った気がした。  吹雪が、世界を白く塗り潰していく。  涙は雪に吸い込まれて行った。    

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