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第50話「思い出す」

 過去の記憶が鮮明に甦ってくる。  幼い頃。  いつものように、大好きな少年に会いに、雪山に行こうとした。 『正一、待て』    その時、正信に止められた。後ろには顔を白い布で覆った者たちが控えていた。 『父上? な、何を……っ』 『来い』    引きずられるように連れて来られたのは地下室だった。  暗い部屋で、かがり火が不気味に揺れる。  何人もの顔を覆った者たち────呪師が並び座っていた。なにやら物々しい雰囲気だったのを覚えている。  訳もわからないまま、中央の敷布の上に、うつ伏せで寝かせられた。 『容易ではございませぬ……。〝千代丸〟ごと、魂を縛らないと……』 『……良いからやれ。このままでは千代丸は〝あれ〟に魅入られてしまう』 『は……』  父と呪師の会話の後、すぐに低い声で呪師たちに(まじな)いを唱えられた。  背中が燃えるように熱かった。  幼い千代丸は悲鳴をあげ、のたうちまわった。    かがり火の炎の中、影を濃くして、自分と同じくらいの少年が無表情で立っていた。  額にはまだ血が滲む、痛々しい十文字の傷。  暗い目をしたその少年は、苦しむ正一をまっすぐに見下ろしていた。  その闇のような目が、ひどく恐ろしかった。    そして、目が覚めた時。  ────〝千代丸〟だった記憶が、ごっそりと抜け落ちていた。  その日に、〝千代丸〟は死んで、正一になった。    炎の中でシキを見つめる。 「約束……守れなくて、ごめん……」  幼いあの日。  母が死んだ時に、ぶっきらぼうに慰めてくれた少年。  背中をさすってくれた。  足を踏み外した正一を助けてくれた。  何度も会いに行った。    御社の前で雪に蛇を描いた。  一緒に暮らそうと言った。  少年に……無邪気に名前を与えた。  正一は愛おしさをこめて、その白い鱗を撫でる。 「もしまた……生まれ変わることがあったら……一緒に暮らそうな……」  紫の目から、涙が一筋流れた。  美しい目から流れた涙。  涙さえも美しいのかと、見惚れた。  炎がじりじりと二人を焼いていく。  もう、天井も柱も全てが炎に包まれている。  シキは微動だにしないが、鱗が焼け始めていた。  息を吸うたび、肺が焼ける。口から血がこぼれる。    ────少しでも長く、シキといたい。  ふと、幼い頃、シキと御社で交わした言葉を思い出した。  ────『どうして蛇神様は、人を食べないの?』  蛇神は人を食べない、と言い切るシキに、首を傾げながら訊いたことがあった。  幼いシキは、黒い瞳で千代丸を見つめた。 『魂がつながってしまうからだ。……だから、生き物は食べない』  魂が、つながる。    その時は、ふうん、とだけ言って、あまり気に留めなかった。  だけど、魂がつながる、という言葉は頭の隅にいつまでも残っていた。  静かに口元を緩めた。  肺を焼かれ、胸から血を流しながら、正一はシキを見上げた。 「シキ……頼みが……あるんだ……」  シキが息を飲んだ。    

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