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第54話 「新しい写真」

「お〜! 秘密基地みてえ!」  正月明けの最初の登校日。  放課後に、冬斗たちは旧視聴覚室へとやってきた。  冬斗と一葉の後ろから、伊織と茜、鈴音が入ってくる。 「わ、何ここ! すご! もー、早く言いなさいよ!」 「すごい……。完全に休憩室ですね」 「トランプやろうぜ〜!」 「あ、伊織! ソファ占領しないでよ!」  どっかりとソファに座った伊織を茜がどつく。伊織が大袈裟に悲鳴を上げた。  鈴音は物珍しそうにきょろきょろしている。 「伊織、邪魔」  一葉はちょっと不機嫌そうに伊織を押し除ける。  伊織は茜に引っ張られて、問答無用で床に座らせられた。 「ひでえー!」 「い、いいじゃないですか。ほら、座布団ありますし」 「そういう問題じゃねえ!」 「冬斗、おいで」 「おい! おまえら当然のようにソファ座るんじゃねえ!」 「もともと俺らの場所だから」  笑顔だが、一葉は少し不服そうに見えた。  冬斗と二人の居場所を解放するのがまだ納得いってないのだろう。  でも、冷たく伊織を見下ろす一葉が、なんとなく楽しそうに見えて、冬斗はくすりと笑った。 「ほら、一葉もババ抜きやんぞ! ……いや、下手だな!」  みんなでテーブルを囲みながら、わいわいとババ抜きをする。 「伊織先輩、なんだかんだこういうの強そうですよね」 「ババ抜きは運ゲーじゃなくて心理戦だかんな!」  楽しそうに笑う伊織に、ふと、依峰と正一の約束を思い出した。  花札じゃない。だけど、伊織は心から楽しそうだった。  冬斗は気がついたら笑っていた。 「えっと……」  一葉からトランプを一枚引こうとするが、明らかに一枚だけ下に下げられている。  試しにそれを取ろうとしてみると、「あ、これじゃないよ」と取らせてくれない。やっぱりこれがジョーカーらしい。   「いやそれルールちげえから!」 「ほんっと、一葉って冬斗にベタ惚れよね」 「一周回ってもうなんにも思わないです」  伊織がツッコミを入れ、茜がため息を吐く。鈴音はなんだか遠い目をしていた。 「いや、えっ……。ちがっ……」 「はいはい。もういいわよ」 「茜……っ」  冬斗はわたわたと挙動不審になる。  そんな冬斗に構わず、みんなは何事もないかのようにゲームを進めていく。  病室で目覚めて以来、一葉と冬斗の関係はなぜか公認のようになっていた。   「……てか伊織、むごんちゃんとDMで繋がったって本当なの?」  ふと、茜がトランプをやりながら伊織に訊いた。  伊織は冬斗からトランプを一枚引き抜く。   「おう」 「む、むごんちゃんなんて、ただにこにこして踊ってるだけじゃない」  茜は少しむくれているようだった。  冬斗はちらちらと二人の様子をうかがう。  すると、伊織がさらりと言った。   「お前もにこにこしてりゃあいいじゃん。可愛いんだから」 「は、はあ!? かわ、かわ、かわ……!!」  途端に茜の顔が真っ赤になっていく。   「茜ちゃん、顔赤い。かわいい」  鈴音がくすりと笑った。   「ちょっと! やめてよ! 柄じゃないんだから!」  可愛らしくうろたえる茜。  微笑ましく見ていると、茜が顔を仰ぎながらすくっと立ち上がった。   「暑い! 換気!」  窓を開ける。  その瞬間、ぶわりと風に煽られて、冬斗のおでこが露わになった。   「わっ」  眼鏡をしていないので、目元がはっきりとみんなに見えてしまう。  すると、全員の視線が冬斗の顔に注がれた。  しんとする。  茜と鈴音が、大きく目を見開いて固まっていた。 (やべ……)    慌てて前髪を直そうとすると、茜にがしっと手を掴まれた。   「ストップ! そのまま!」 「……か、かっこいい」  茜と鈴音に凝視される。  鈴音の頬が赤くなっていた。  一葉はぴくりと鈴音の方を見て「鈴音?」と目が笑っていない笑顔を向ける。 「だから言っただろ。こいつ実はイケメンだって」  伊織がドヤ顔をする。  茜と鈴音がきゃあきゃあと騒ぎ始める。  冬斗は顔に熱が集まっていくのを感じた。   「一葉は最初から知ってたんだろ? 実は一目惚れだったりして」 「いや、んなわけないじゃん!」  伊織の言葉に顔を赤くしたまま、即座にツッコミを入れる。  昔、一葉に言われたことを思い出した。  『これはみんながほっとかないね。イケメンって言われない?』  一葉を見てみると、少し照れているような顔をしている。   「え、まじ?」  茜が驚いた声を出す。 「おお〜……」と、謎に感心したような声が伊織たちから漏れる。  冬斗は顔が赤くなったまま、どうすれば良いかわからなくなった。   「みなさーん。こっち向いてください」  スマホを掲げた鈴音の合図に、冬斗たちはカメラの方を見た。 「猫ちゃんポーズでいきましょう」 「俺が一番可愛いもんね〜! ごろにゃん」 「ばっかじゃないの。あ、冬斗は前髪上げたままね」  ────カシャ。  猫ちゃんたちのグループLINEに、新しい写真が追加される。  神楽の日から初めて、また動いたLINEグループ。  冬斗は送られた写真をまじまじと眺めた。  茜と鈴音は絶世の美少女コンビで最強に可愛く映っている。  伊織は全力であざといポーズをとっていて笑える。  一葉は控えめなポーズだけど、逆にそれがモテ男な雰囲気がある。  そして、冬斗は思ったよりも自然な笑顔で、ちょっと恥ずかしそうにポーズをとっていた。  紫の目は隠れていない。  それなのに、みんなが笑顔で映っている。  見つめているうちに、気がついたら視界が滲んでいた。 「あ、冬斗先輩、泣いてる」 「嬉し泣きよ」    みんなにからかわれる。  でも、それがくすぐったくて、嬉しい。    一葉を見ると、優しい顔で冬斗を見ていた。  冬斗は、泣きながら笑った。    

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