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第57話「約束(2)」※
全身を優しく触れられて、舐められて、甘噛みされて。
充分後ろをほぐされた頃には、冬斗は何度か達してしまい、体を汗に濡らして震えていた。
「……やばいな」
冬斗を見下ろした一葉がぽつりとつぶやいた。
その顔には、いつもの穏やかで余裕のある笑みはない。
少し困ったように眉を寄せて、ほんのりと目元を赤らめている。
その姿に、きゅんと胸が高鳴った。
「……理性、どっかいきそう」
唸るようにそう言う一葉。
手を伸ばして、少し汗ばんだ白い頬に触れる。その顔は汗で少しひやりとしていたが、確かに熱かった。
「冬斗……。本当に、怖くない?」
一葉の目に少し不安の色が浮かぶ。
冬斗は湿った一葉の黒髪に手を差し入れて、引き寄せた。
口付けをして、ひっそりと耳元で囁く。
「……一葉なら、怖くても良いよ」
一葉の目を見て、微笑んだ。
「……好きに、して」
その瞬間、ぐっと一葉の背中が膨らんだ気がした。
一葉を胎内に受け入れながら、沸騰しそうな熱の中で必死に目の前の体にすがりつく。
突き上げられるたびに、目の前で白い光が散る。
一葉を受け入れながら、冬斗はいつの間にか涙を流していた。
狂いそうな熱の中に、やわらかくてあたたかな安心感がある。
目の前の白い肩にそっと歯を立てた。
「冬斗……っ」
一葉が冬斗の名前を呼ぶ。一葉の名前を呼んで答えた。
冬斗の声に、一葉は震えた息を吐いて祈るように目を閉じた。
きつく抱きしめられる。
逃げることもできないようなその力強さに、狂おしいほどの喜びが湧き上がる。
「もっと……っ。離さないで……」
────刻んで。
「好きだ……」
一葉が囁く。
角度を変えて、何度も深く口付ける。
「一葉……」
涙がこめかみに伝う。
その涙を優しく吸われて、また涙が溢れる。
泣いていると、律動が止んで、そっと目元を撫でられた。
「そんなに泣いたら……目が溶けちゃうよ」
その瞬間、遠い夢の記憶が淡く胸に蘇る。
「……溶けても、いい」
そう言うと、一葉がはっとしたように目を開いた。
微笑んで、冬斗は一葉の手に指を絡める。
一葉が泣きそうに笑う。
目に光るものが見えて、冬斗はその雫を指でそっと拭った。
強く手を握られる。
そして、押し寄せるような快楽と熱の波に、さらわれていった。
「……ちょっと、心配だったんだ」
気怠い熱の残ったシーツの上で、冬斗は一葉に寄り添いながらぽつりとつぶやいた。
「心配?」
冬斗は頷く。シーツの中で、きゅっと足先を丸めた。
「一葉がまた……シキみたいになっちゃうのかなって。……ほら、シキは成人したらああいう風になったって言ってただろ」
ずっと、心にひっかかっていたこと。
シキはもともと、一葉のように黒髪で黒目だった。そして、人間のようだった。
だけど、成人して力が戻ったら、銀髪になって、瞳も紫になっていた。
そして……神として、香本の城の奥に軟禁されていた。
一葉が、もしもまたシキのように力を取り戻したら。
そう思うと、怖くて仕方がなかった。
シキが神様でもなんでも良い。
だけど、またすれ違ったり、離れ離れになることが何よりも怖かった。
不安になっている冬斗を見下ろして、一葉がふっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。……ほら、あれだけ斬られたし。もう力、ほとんどないんだよね。それに昔ほど信仰もないから」
シキは、信仰心が力の源だと言っていた。
神器は神の力を奪うものだと、依峰が言っていた気もする。
それを聞いて、冬斗はそっと胸を撫で下ろした。
一葉の腕の中で、温かな体温と鼓動を感じる。
ふと、頭の中に一枚の絵巻が蘇った。
「……巫女はさ、結局どうなったのかな」
ぽつりと呟く。
「巫女?」
唐突な冬斗の言葉に、一葉がぴくりと眉を動かした。
「うん。蛇神伝説の。……あ、てか、一葉が蛇神様か」
はっとして言うと、一葉が苦笑した。
「うーん……。あんまりその時代の記憶はないんだよね」
「そうなの」
「うん」
やわらかなシーツの上で、一葉に寄り添う。
あたたかな体温を感じていると、とろとろとした眠気がやって来る。
────巫女は、どんな人だったんだろう。
冬斗は巫女と蛇神に思いを馳せながら、目を閉じた。
◆
久しぶりに、夢を見た。
けれども、正一ではなかった。
「かごめ歌、嫌いなんだ」
そう言うと、巨大な白蛇は首を傾げた。
「なぜだ」
「囲われるのって、なんか怖い」
遠くを見ながらつぶやく。
しばらく黙っていると、するり、と体が優しく包まれた。
「こうすればあたたかい」
「……そうだな」
思わず笑う。
「いつでも、こうしてあたためてやる」
頷くと、紫の目にじっと見つめられる。
その瞳に、巫女装束を着た少年の姿が映っていた。
蛇神は大きな頭をすり寄せてくる。
「だから、もう一度歌え」
「……四季は、本当に歌が好きだな」
「しき?」
きょとんとする大蛇に笑って見せた。
「巡るんだろ? 季節みたいに。だから、四季」
そう言うと、白蛇が小さく首を傾げて、瞬きをした。
冬斗はまどろみの中で、そっと微笑んだ。
────春は、また巡ってくる。
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