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最終話 「全身を満たす守紋様」
午前の穏やかな陽射しが、薔薇園に降り注いでいた。
僕はバルコニーでローズティーを飲みながら、使用人頭のマチと話をする。
「やはりナリ王子は、この古城に住む亡霊に付き纏われていたのですね」
「うん。でも、ゼフが僕を助けに来てくれたから、もう大丈夫。心配しないで」
「ゼフからも聞きました。あの子、最初からそう言ってくれればよかったのに……。第六王子がいらっしゃらなかったら、ずっと黙ってるつもりだったのでしょうね」
「この村の人々はさ、亡霊をとても恐れているでしょ?だから隠そうとしてくれたんだと思う」
マチは薔薇園の向こう側、丘の下の村へ目を向け、過去を打ち明けてくれた。
「私の兄が、ナリ王子と同じ年頃に、亡霊に連れていかれました。会話も食事もできず眠ったままになって、死んでしまったのです。その頃私はまだ幼く、ただただ恐ろしかった……。その怖さは今も消えません。ナリ王子には、ゼフという守りがいて本当によかったですわ」
「僕もそう思ってる。ゼフが居てくれてよかったって」
(ゼフは修行をして、僕にしか効き目のない守紋様師になってくれたのだ。僕だけを守るために……)
マチは、やさしい顔でにコクリと頷き、ローズティーのおかわりを注いでくれた。
—
いよいよ七日目の夜がやってきた。
寝室には昨日生けた赤い薔薇が、まだ綺麗に咲き誇っている。
僕は、上衣を脱ぎ、下衣を緩め、ベッドへ仰向けになった。
左脚、右脚、左腕、右腕。
自分では見えないけれど首、顔、背中、お尻にも、美しい蔦の紋様が描き込まれている。
手を洗ったり、湯を使ったりしたけれど消えることはなく、夜になると浮かび上がる美しい守紋様。
今夜、胸、腹、下腹部に描いてもらえば、いよいよ完成だ。
ゼフは無駄のない所作で、硯に水を垂らし、墨をすった。
そうすれば真っ黒なトロリとした液体が出来上がる。
そこにゼフが小瓶に入ったキラキラした粉を落とし何か唱えると、液体が輝き出す。
彼のこうした作業を見るのも、七回目。
おそらくはこれが最後となるのだ。
描き始める前から、僕は身体の火照りを感じていた。
早く、その筆で肌を撫でて欲しい。
早く、副作用として生じる快楽に身を投じたい。
そんな自分の欲望を、認めざるを得なかった。
何も言わずに、ゼフは描き始める。
まずは胸を筆が滑り、繊細な紋様が描かれていく。
「んっ」
筆が胸の突起を擦り、早々に声が溢れ身体を捩ってしまう。
ゼフは集中していた筆先を止めて、僕の目を見る。
いつもなら、副作用だと気に留めないでいてくれるのに、今夜は見逃してはくれない。
「ナリ……」
なんだか艶っぽい声で、僕の名を呼ぶから、僕の身体は更に熱を発する。
筆は、ヘソの周りへと下ってきた。
本当に恥ずかしいことに、僕の下腹部は形を変え始め、緩めた下衣を押し上げている。
四年前のあのときのように、僕は両手でそれを隠そうとしたけれど、ゼフはそれを許してはくれない。
「はぁはぁ……」
呼吸は乱れ、僕は取り繕うことができなくなっていく。
そんな中、ゼフは僕の下衣をずらし、筆はついに下腹部へと進む。
「こ、こんなところにも、描くの?」
「描くよ。それともナリは、ここを亡霊に触られたいの?」
「い、意地悪言わないで、ゼフ……」
今、僕を見つめているのは、幼馴染のやさしいゼフなんかじゃなかった。
色っぽい顔をした大人の男が、僕の瞳を捕らえている。
筆が僕の昂るものへ蔦の紋様を、描き始める。
「あっ、んぁっ」
大きく形を変えてゆくそこが堪らなく恥ずかしいが、自分ではどうにも制御できない。
ゼフは「ふふっ」と笑ったあと、乾いた布で、そこを拭ってくれた。
先走って漏れ出してしまった雫が、邪魔だったのだろう。
「やっ、もう、もう、ダメ……」
先端まで筆が滑りゼフが全てを描き上げたとき、信じられないことに僕は、白濁を撒き散らし達してしまった。
(あぁ……、き、気持ちがいい……。で、でもなぜか、身体の熱は少しも去っていってはくれない……)
ゼフはカタンと音を立て筆を置く。
その音が思いの外大きく、ゼフが怒っているのかと思ってしまった。
「ご、ごめんな……」
咄嗟に謝ろうとした僕に、ゼフは意外なことを口にした。
「ナリ、これから儀式を始める。下衣を脱いで」
「え?」
戸惑う僕の横で、ゼフは潔く纏っていた衣を全て脱ぎ捨てる。
彼の裸を見たのは初めてではなかったが、子ども頃のそれとはまるで違う、筋肉質の逞しい身体になっていた。
そして、彼の下腹部も既に形を変えている。
ゴクリ。
自分の喉がそう鳴ってしまい、僕は慌てて目を瞑る。
結局下衣は、ゼフに脱がせてもらった。
そうして彼は、ベッドへと上がってくる。
ゼフは僕に尋ねた。
「ナリ、騎士団長の亡霊ラユは今、この部屋にいる?」
僕はぐるりと辺りを見渡す。
触ってはこれないので気付かなかったが、いつの間にかラユは、枕元に立っていた。
「い、いる」
そう答えるとゼフは、彼には見えないラユに向けて話しかける。
「ラユ。よく見てとけ、俺たちの儀式を。オマエが求めている契りとは、こういう行為だ」
そうだ、儀式。
「ある儀式をする」と昨晩のゼフも確かに言っていた。
「俺は今から、ナリを抱く」
(僕は、ゼフに抱かれる……。どうしてだろう。その言葉をすんなりと、受け入れることができた。僕はずっと、この行為を待ち望んでいたのかもしれない……)
彼は薔薇の香油を取り出し、僕の秘部へと垂らした。
指でゆっくりとそこをほぐし、僕の身体が彼を受け入れられるよう、準備をしてくれる。
僕はただ身を委ね、そこに快感の芽を探し悶えた。
「挿れるぞ」
覚悟を決めコクリと頷くと、苛烈な刺激が僕を襲った。
身体が作り変えられてしまったかのように、味わったこともない気持ちよさが、押し寄せ続けてくる。
僕だけじゃない。
ゼフも普段は見せない表情で、僕を堪能してくれていた。
「ラ、ラユ。見ているか。オマエには、無理だって、わかるか?オマエには、ナリを、抱くことは、できない……」
僕の奥深くを揺さぶりながら、ゼフが告げる。
「お、俺は、ナリを、ナリを愛しているから。だから、こうして、契りを交わす」
大切なことを言われたのは、わかる。
でも、熱で炙られ続けている僕の頭は、上手く処理できない。
ただ、ラユには、ちゃんと伝えなくてはと思った。
「ぼ、僕だって、これは、副作用、じゃない。ぼ、僕も、ゼフを、愛し、求めて、いるんだ」
ゼフの腰の動きは激しくなり、僕の声も高く大きくなる。
「ナリ、聞かせて、やれよ、その喘ぎを。ラユに、見せつけて、やろう、ぜ」
「ゼ、ゼフ、い、いい。す、すごい。も、もっと、もっと……」
僕はゼフの背中にしがみつき、彼のものを強く強く締め付けて、達する。
ゼフも「んっ」と恍惚とした声を溢しながら、僕の中へ白濁を注ぎ込んだ。
—
どうやら、ゼフの腕の中で微睡んでいたようだ。
僕が目を覚ますと、ゼフが愛おしそうに髪を撫でてくれながら問うてくる。
「ナリ、ラユは見える?」
僕は辺りを見渡すけれど、どこにも半透明の亡霊を見つけることができない。
首を振る僕にゼフが言った。
「ナリの隙が全て閉じて、ラユが見えなくなったんだ」
僕は大きく息を吐いた。
そして、少し震えてしまう声で、懸念していることをゼフに尋ねる。
「これで終わったんだね……。あ、あのさ、ゼフはこれからも、この古城にいてくれるの?」
「もちろんだ」
僕は胸を撫で下ろす。
「あぁ、よかった。それはさ、第六王子に命令されたから?」
「ナリは、まだそんなことを言うのか。忘れたのか?俺の守紋様はナリにしか効かない」
「で、でも、書き終わっちゃったよ」
ゼフは、いたずらっ子のように微笑んでから、僕の耳元に唇を寄せる。
そして、まるで内緒話でもするように大切なことを僕に知らせた。
「ごめん、まだ言って無かったことがある。守紋様は、七日間で消えてしまうんだ」
「え?それって……」
「だから明日の夜は、また左腕に描くよ。その次の日は右腕に。毎日毎日、ナリのために描き続ける」
「あぁ、よかった!」
僕はうれしさのあまり、自らゼフの唇に口づけをした。
—
もうすぐ夜明けの鐘が鳴るだろう頃に、シャンデリアにぶら下がっていたホムが羽ばたき、部屋の中を飛んだ。
そして、花瓶に生けられた赤い薔薇を一輪掴み、再び羽ばたく。
ホムが天井近くでそれを離すと、薔薇は地面には落ちず、空中で留まった。
僕にも見えなくなったラユが、受け取ったのだとわかる。
見えなくても、ラユはこの部屋にいるのだ。
夜明けの鐘が鳴り、薔薇がハラリと床に落ちた。
明日の夜になれば、ラユはまた寝室へやって来るのだろう。
この先もずっと、大好きだった城主の代わりを求め続け、ここに留まるのだろう。
でも僕は、ゼフの愛に守られている。
これから毎日、身体に守紋様を描いてもらい続けるから、もうラユの姿を見ることは、ないはずだ。
(完)
※最後までお読みいただき、ありがとうございました。
SSとして、ゼフの目線の「副作用とは」をご用意しました。
是非、続けてお読みください!
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