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第6話

 たぬきに転生した彼。櫻井春樹は真夜中に目を覚ました。暖かくて心地の良い毛布。牢屋以外。この世界を知らない。優しいぬくもりが、今は怖い。ここから抜け出したいと思うのに、暖かな毛布から抜け出すのが、春樹は怖かった。少しだけ毛布から顔を出す。暖炉が見えた。特等席に寝床を置いてくれるなんて、あの人かな。暖炉の炎に照らされて影が2つ見えた。話し声も聞こえてきた。 「ヴォルク。大丈夫だろうか。もう5日。私がもう少し早く助けていたら。違ったか」 「分からない」  この声は、俺を助けてくれた。金髪の人の声。もう1人は誰だろう。声音から、心配している。俺は前世の職業柄。声で相手がどんな人物か大体分かる。悪い人じゃない。身体が震えて、出て行く勇気はない。喉が渇く。気持ちとは裏腹に、春樹の口からキュイ。小さな声が漏れた。たぬきの鳴き声なんてどんな鳴き声かは分からない。正しい鳴き声なのかな。小さな声を聞き取ったのか、俺が被っていた毛布が少し持ち上げられた。恐怖から後ろに後退る体勢を反射的にとってしまう。綺麗な空色の瞳と目が合った。震えを抑えようとしても身体が言う事を聞かなかった。 「怖がらせてごめん。私は君に危害を加えるつもりはない。今は信じられないかもしれない。君がそこから出ようと思ったら出て来て欲しい。熱があったから喉が渇いただろう」 「エルンスト団長」  小さな水の入った器が、春樹の前に置かれた。見られていて、飲むなんて今の春樹には出来なかった。 「ここに置いておくよ。おやすみ。目が覚めて良かった」  持ち上げられた毛布が閉じられた。春樹は置かれた水を少し舌で舐め、夢中で水を飲んだ。情けなさと後悔に苛まれていた。彼ともう1人はずっと暖炉の番をしてくれていたのに、お礼が言えなかった。心の中で何度も謝りながら、空になった器を毛布の外に押し出した。

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