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第28話
エルンストが王太子殿下と謁見していた頃、ハルはシアンと牢屋に捕まっていた。ほんの数時間前に遡る。無言で街を抜けて、街にやって来た。ハルは行き交う獣人の多さに驚いていた。
「獣人がたくさんいる」
ハルの思わず零れた言葉を、前を歩いていたルカが聞いていたようで、呆れたようなため息をついた。
「当たり前ですよ。獣人の国なんですから。獣人がたくさん。獣人以外はいません。何を言っているんですか」
「ルカ。いちいち答えなくていいでしょ。さっさと服を買って帰ろう。オレも女の子と約束があるんだよ」
ハルは2人と仲良くまではならなくても、会話ぐらいは出来るようになりたいと思っていた。2人が自分を不愉快だと思っているのは分かっていたから。エルンストさんが無条件に気に入っているのが嫌なのだろう。急に奴隷商人から助けた奴隷を団長がお世話をはじめたら怪しいし、警戒するのも当たり前だ。はぁ。ハルは心の中でため息をついた。
実を言うと2人とも、どうしたらいいか分からなかったのだ。ルカもあんな風に言うつもりはなく。
(今まで牢屋にいたわけですから、見たことなくて当たり前。小さくて、綺麗な子は初めて見ました。たぬき族はみんなああなのでしょうか。大失敗です)
シアンにしてもそうだ。
(なんだよ。もっと悪そうな顔の奴なら、嫌味を言って追い出したのに。ぷるぷる震える小動物。どう話したらいいわけ。女の子に聞いてみないと分からない)
何も話さず無言になってしまったわけで、嫌味を言ったみたいになってしまって、2人は後悔していた。
「ここですよ。服屋」
服屋の店員は全員。ハリネズミ族。髪がツンツンと尖っている。オーナーは黒いスーツの黒兎族だった。
「いらっしゃいませ。お客様」
「この子の服を見に来ました。見させていただきますよ」
選ぶ気は無さそうなルカさんとシアンさん。ハルはさっさと見て、早く帰らせてあげようと思った。ハリネズミ族の店員。男の子と女の子がひそひそ話している。
「サクリスが足りないって。あと2人」
「あのたぬき。捕まえるつもりじゃないか」
サクリス。ハルは捕まっている時に聞いた。実験する為に捕まえられるか、売られた獣人にはサクリスという言葉が使われ、オーナーが決まると番号がつけられ、どこかの実験場に送られるのだ。どうしよう。誰かがもう捕まってる。僕1人が捕まれば、でも。エルンストさんに心配かけたくない。2人にも。考えた末に、ハルは黒兎のオーナーに幼い子どもを装い声をかける。
「黒うさぎさん」
「どうしました」
「僕ね。サクリスになれるって聞いてきたんだ。僕にお金をかけられないから、きょうは僕がお金を稼げる日なんだって」
「そうだったのですかお客様。それならそうと、先に言ってください。お客様方。奥でお話しどうですか」
ルカさんとシアンさんの顔つきが変わり、何か言おうとしたシアンさんの口をルカさんが塞いだ。
「いいですね。噂を聞いて、ここに来た甲斐があります。この役立たずの狐もお願いしたいですね」
ルカさんがシアンさんをハルの方に押した。軽くぶつかったけれど、まったく痛くない。
「もちろんです。どうぞ」
2人が奥の部屋に行ってすぐに、シアンがハルに言った。
「何してるのあんた。何かやるなら一言いいなよ。言い辛くしたオレらも悪かったとは思うけど」
「ごめんなさい」
「謝るならさっさと説明しなよ」
「サクリスは実験するために攫うか、売られた獣人を指す言葉で、さっき店員のハリネズミが2人足りないって、他に捕らえられてる獣人がいるかもと思って」
「はぁ。なにそれ。もっと自分を大切にしなよ。事情は分かった」
絶妙なタイミングで2人が部屋から出て来た。
「本当に助かりましたよ。サクリスが足りなくて困っていたので」
「金貨1人につき20枚も出していただけるなんて、これで弟たちを学校に行かせられます」
ルカさんが何を言ったのかは分からないけれど、どうやら商談がまとまったみたいに表向きは見える。シアンさんに一瞬ルカさんが目配せしたようにハルには見えた。黒兎族のオーナーは、手錠を2人にはめて奥の部屋に通した。そこは牢屋になっていて、中に2人を突き飛ばした。
「ここで大人しくしてな」
バタンと牢屋の扉が閉められた。電気もなく真っ暗だった。たぬき族だから暗くても見えないわけじゃない。息苦しい。体が震える。
「カビ臭くてほんと嫌になる。あんた大丈夫かよ」
「だ、大丈夫」
「ああ。もう。大丈夫じゃないとき、大丈夫って言わない。面倒だな」
シアンさんがハルの右肩に自分の左肩をつけた。じんわりとそこから温かさが伝わる。
「トラウマは、そう簡単には消えない。落ち着け。ゆっくり息を吸って、吐いて。オレに合わせてやってみて」
何度かシアンさんと深呼吸を繰り返して、ハルの震えはようやくおさまった。
「大丈夫」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「さてと、情報収集するよ。オレらは奴隷潰しの騎士団なんだからさ」
シアンさんかっこいいな。僕ももっと強くなりたいとハルは思った。
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