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第24話 夜の底(1)※
昼間の気まずい雰囲気を引き継いだまま、部屋に戻った。部屋の中は薄暗くて、夕方と夜が同時に存在していた。電気をつける気にも、なにかを食べる気にもなれなくて、部屋の中でただ並んでいた。
「昼間はごめん。オレのせいで、陽介にも嫌な思いさせた」
水を汲んだコップを、手のひらの中でもてあそぶ
ついでに、そう切り出した。昼間の一件があってから、陽介は少し苛立っているみたいだった。
「海が悪いわけじゃない」
「もともと、全部オレがやったことだよ」
「そうやっていつまで一人で被害者ぶってるつもりだよ」
「陽介には関係ないことでしょ」
「関係なくない」
陽介に抱えられた膝が、小刻みに震えている。なにか不安なことがあったり、嫌なことがあったりしたときの、昔からの癖だ。
「俺だって事件の当事者だった」
海はそれに、何も言い返せなかった。手の中で弄んでいたコップの水を一気に呷る。生ぬるい水が喉を通り過ぎた。
「じゃあ、もう帰って」
その言葉に、陽介は傷ついたみたいな顔をした。
ずっと、巻き込みたくないと思っていた。だから元の街には戻らなかった。関わらないように、生きてきたつもりだった。陽介がこの街に来るまでは。
「今からだったら、休学取り消せるでしょ。陽介は大学に戻って、自分の人生をちゃんと生きて」
「履修登録始まってるから、もう無理」
「リシュー、なに?」
「戻らない。俺はここにいる。決めたことだから」
陽介の膝が止まる。それだけで、部屋がシンと静まり返ったような気がした。
「これ以上陽介を巻き込みたくない」
「だから、巻き込まれてもいいって言ってる」
「陽介はなにもわかってない」
言いながら、自分でも意地を張っている、と思った。それでも、一度口にしたらもう言葉は止まらなかった。
「顔と名前を晒されたら、もう普通に生きてなんかいけない。大学でも嫌な思いするかもしれないし、就職も、結婚も、全部に過去がついて回る」
「別にいいって」
「陽介は、経験してないからそんなことが言える。陽介にオレと同じ思いをして欲しくないっていう、オレの気持ちも少しはわかってよ」
また、沈黙が降った。自分でも酷いことを言っている自覚があった。真っ当に、真面目に生きてきた陽介に、道を踏み外した海の気持ちがわかるわけがない。
永遠にも続くと思われた静寂は、少しずつ二人分の熱くなった頭を冷やした。最初にそれを破ったのは陽介だった。
「ネットに出てたやつ、全部がデタラメじゃないって」
「うん」
「じゃあ、ほんとのことも混じってるってこと」
「そうだよ」
陽介の瞳が揺れた。その奥にまた、『知りたい』というひかりが宿る。ゆらゆらと、吹けば消えそうなほど頼りなく、でもたしかにゆらめいている。
「なんで、俺のこと追い返すのやめたの」
「わかんない」
「なんでさっき、昔のこと、話す気になったの」
陽介と過ごす日常がひだまりのようにあたたかったから。ただ単純に、この生活が楽しいから。
昨夜の陽介の熱が、海の心の冷たく固まった部分を少しだけ溶かしたから。それらを一言で表現する言葉が見当たらなくて、海はただ繰り返すようにわからない、とだけ答えた。
「陽介はなんで知りたいの」
陽介の目が、真っ直ぐに海を見つめた。冴え冴えと澄んでいて、少しだけ濡れている。その虹彩の奥に映っている自分は、どんな顔をしているんだろう。
「好きだから」
言葉の響きが、甘やかに耳朶を揺らした。
「好きだよ。もう、ずっと前から」
好き、という言葉以上のものが、そこには含まれているような気がした。いつから、とか、そういう言葉は飲み込んだ。聞いても仕方ない気がした。
空気が、急激に色を変える。
海の中にも、ある。同じ形をした感情が。それを口にする勇気を持てないまま、奥底にしまってある。
「だから、知りたい。俺の知らない海の全部」
気づけば、海の指先は陽介の方に伸びていた。そういう意図を持って、触れる。長くそうしていると、海の迷いも、後悔も、恐怖も、慕情も、全て伝わってしまいそうだった。
だから、誤魔化すように重ねるだけのキスをした。
「いいよ」
陽介の目がまんまるになって、海を見上げている。いまされたことの意味が、わかっていないみたいな幼い顔をしている。
愛おしくて仕方なかった。同時に、これ以上巻き込みたくない、とそう思った。海の中にも、感情が二つある。きっとあの記者はまた来るし、陽介をここに置いておけば、また嫌な思いをさせる。
いつまでも、陽介を当事者のままにしたくない。
「シャワー浴びてくるから。それでも気が変わらなかったら、オレを抱いてよ。それで、最後にしよう」
**
「っ、待って、俺も、シャワー」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
悲鳴にも近い声を頭上で聞きながら、陽介の下履きに手をかける。色気のない無地の下着が現れて、その中心が少し熱を持っている。
「いいから、陽介はなにもしないで」
陽介の制止も聞かずに、下着を抜き取る。相手だけその状態なのも不平等な気がして、海も同じようにした。ついでにTシャツも脱ぎ捨てた。
「か、海」
やわく勃ちかけているそこは、外気に触れてひくりと反応を見せた。両手で包むと少しずつ芯を持ち始める。いたずらに上下に動かすと、陽介の喉の奥からひきつれるような声が漏れた。
「違う、俺」
「カノジョにしてもらったことくらいあるでしょ。そんな緊張しないで」
「ない」
「カノジョ、いたことは?」
「……ない」
消え入るような声だった。思わず顔を上げる。下半身を露出させられた状態のままで、両手で顔を覆って、陽介は海に顔を見られないようにしていた。はみ出している耳が、薄暗い中でもよくわかるくらいに赤くなっている。
恥ずかしがることじゃないのに、と思う。同時に、自分が陽介のこういう行為の初めての相手である、という事実に目眩がするほど興奮した。
ずくん、と腰が重くなるのがわかった。
「ならなおさら、じっとしててよ」
先端に粘ついた液体が滲み出したところで、海は手での愛撫をやめた。制止の声も聞かずに、つるりとした亀頭の部分に唇をつける。わざと煽るようにちゅ、ちゅ、と音を立てると、陽介は信じられない、とでも言わんばかりの顔をして海を見下ろした。
「まじで、きたないから」
ふくろの部分までたどり着いて、それをべろりと舐め上げる。そのまま舌先で裏筋をなぞって、ぱくりと先端を咥えると、一気に喉奥まで迎え入れる。強い雄の匂いに、頭の奥がくらくらした。
「ッ……」
逃げようとする腰を捕まえて、舌と喉を使ってしごく。じゅぷじゅぷとわざと濡れた音を立てて、それに陽介が良さそうな反応を見せると、海は気をよくした。
「気持ちいい?」
「う……」
「もっと、気持ち良くするから」
べ、と唾液と先走りが混じったものを手のひらに出す。それを自分の後ろの方に持っていくと、円を描くようにそこに塗りつけた。
「さすがにちょっと、きつい、かなあ」
風呂場で洗浄して、多少慣らしたとはいえ、そこはまだ侵入を拒むように窄まっていた。
陽介の自身への口淫を続けながら、溶けそうに熱いなかをかき回す。はじめは指一本しか受け入れなかったそこも、丹念に拡げるような指の動きのおかげで、あっという間にゆるんだ。感じるところを避けて、ただ受け入れるためだけに穴を拡げる。それはひどく滑稽に思えたが、陽介を受け入れるためだと思ったらなんともなかった。
「っ、ん、は」
次第に口でするのがおろそかになってくる。片腕で身体を支えながら、ぬちぬちとそこを拡げる動きに集中する。
陽介の視線を感じて顔を上げると、じ、と熱を持った目が海のことを見据えていた。絶え間なく動いている指に向かい、腰をなぞって、顔まで戻ってくる。ちらと陽介の中心に目をやると、そこは海の与える刺激がなくても屹立したままだった。
この一線を越えてしまったら、そのあとどこに行けばいいんだろう。ほんの少し、頭の隅に浮かんだ。けどそれは、同時に襲いくる欲求に呑まれてどこかに行ってしまった。
「いいよ、もう。ほら、いれて」
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