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第6話 上司に名前呼び強制されました
ハイボールを飲み終えるとルルにおかわりを聞かれて、成瀬は困った末に高瀬と同じものをと頼んだ。
今、目の前には、飲み口に塩のついたグラスが置かれている。
え、どうやって飲むんだろ。口付けていいのかな。
成瀬が困っていると、高瀬はクスリと笑いながらつまみのオリーブを楊枝に刺して差し出してきた。
「……?」
あぁ、先日のおにぎりの延長かと、成瀬は高瀬の持つオリーブに齧り付く。
「え、何それ」
「え?」
「…………」
ルルの言葉にやっぱりマナー違反だったのかと慌てる成瀬。
高瀬は成瀬から顔を逸らして目を瞑っている。
「あの……すいません。俺何かしました?」
「なに~?ずいぶん仲良しじゃない。シンシア照れてるの?」
「……違う」
「ふ~ん」
ルルはニヤニヤと笑いながら高瀬の顔を覗き込もうとする。前髪を避けようとルルの指がかかる瞬間、高瀬が体を引いた。
「……やめてくれ」
「え~、まだ触っちゃダメなの?」
「…………」
高瀬はそっとルルの手から距離を取って瞳を揺らした。
主任、人に触られるの苦手なのか?あれ、でも……。
「主任、俺、この前の満月の時、撫でたの迷惑でしたか。だからしばらく避けて……」
「…………」
「はっ?!えっ!?何その話っ!?」
高瀬よりも先に弾かれるように成瀬の言葉に反応したルルは、バシンとカウンターに両手をついた。なかなかに大きな音がして成瀬は驚く。
力強いな……。
ルルは詳しく聞かせてと成瀬に綺麗な顔を近付けてきた。
「いや、その……えっと……」
成瀬は言葉にしてから、高瀬にとって満月の話は秘密にしたい事柄だったのではないかと思い、言葉を濁して高瀬を見る。高瀬は諦めの表情で頭を掻きながらルルに説明をした。
「へぇ~、ケンちゃんシンシアを落ち着かせちゃったの」
「落ち着かせたというより、撫でていただけで」
ルルの褒めるような言葉に、多少照れ笑いを浮かべながら成瀬は飲み口の塩と共にソルティドッグを飲んだ。
塩の味に思わずしょっぱいと溢しそうになったがなんとか堪えた。
「撫でられるのがすごいのよ。私なんて、噛まれたからね」
「え?まさか」
「本当よ。高校の時、大丈夫?って声かけたらガブリ」
ルルは手で口を模して反対の自分の腕を掴んだ。高瀬は目線を下げながら酒を一口飲む。
「あれは悪かったよ」
「ふふ、今となってはいい思い出でしょ」
「お前には助けられてる」
信頼し合う二人の会話に、成瀬は地元の友達の顔を思い浮かべた。
「でも、ケンちゃん。半獣化した獣人に触れられるってほんとすごい事なのよ。怖くなかったの?」
ルルは成瀬を真っ直ぐに見て、今までとは違う真剣な目で聞いてきた。
「主任が辛そうだったから、怖いよりも放っておいたらいけないと思って……」
成瀬の言葉に二人は黙った。なんとなく居た堪れなくて、成瀬はまたソルティドッグを飲む。
「優しいのね。獣人見たの初めてだったんじゃないの?」
「はい。でも、撫でてたらうちのウサギみたいになって、少し可愛かったです……ちょっと舐めてくるとことかも……」
自分の手のひらを見つめ、成瀬は満月の夜の高瀬の体温と甘えた顔を思い出す。
グラスの氷がカランと鳴って、次にルルの声が沈黙を破った。
「可愛かった!?シンシアがっ!?しかも舐めちゃったか~」
ルルは突然大笑いして、高瀬の前のカウンターを叩き始める。
高瀬はバツが悪そうにルルから目を逸らすが、それでも頬を緩めてどこか嬉しそうな表情をしていた。
成瀬は高瀬のプライドを傷つけたかと慌ててフォローしようとする。
「あ、主任は可愛いじゃなくて、格好いいんです。あの、何度も俺を助けてくれますし、主任がいなかったら俺、主任みたいになりたくて、でも主任の仕事を覚えるにはまだ……いつか主任の下で俺……」
高瀬のいいところを必死で伝えようとするが、言葉が上手くつながらない。
ルルはニヤニヤと成瀬と高瀬を交互に見ている。
その視線に耐えるように高瀬は額を抑え下を向いてしまった。
「あの、俺……」
「成瀬」
「はい」
「俺の名前は主任じゃない」
「え?」
「……名前で呼んでくれ」
「えっと……」
名前?シンシア?……さすがに馴れ馴れしいよな。
「…………高瀬さん……?」
「…………」
何も言わずにニコリと笑う高瀬。
呼んでから、急に顔に熱が集まり出したと気づいた成瀬は、ソルティドッグの最後の一口を飲み干した。
「しょっぱい……」
我慢していた言葉が出てきてしまい、思わず口を手で覆った。
「しょっぱいか、だったら次はブルドッグにすればいい」
「ブルドッグ?」
「簡単に言えば塩が付いてないソルティドッグよ」
「へぇ」
「……ていうか、やだ、シンシアそういうこと?」
「……ぁ……Mon Dieu」
茶化すような視線を向けるルルに、高瀬はまた下を向く。成瀬はそんな二人に首を傾げるのであった。
※ブルドッグのカクテル言葉「守りたい」「あなたを守りたい」「一生守りたい」
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