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第7話 高瀬さんの部屋はすごくおしゃれです

 成瀬は自宅のベッドの上で目を覚ました。  昨日は高瀬と飲んでいる間に、眠くなってきてしまい先に帰らせてもらった。  体を起こすと地味に頭が痛い。 「飲み過ぎた……」  酒には弱くないが、飲みなれない酒が多かったせいか、軽く二日酔いだ。 「主任、あの後も飲んでたのかな」  店の雰囲気も、酒を傾ける高瀬の大人な雰囲気も、昨日は全てが格好良かった。 (名前で呼んでくれ) 「高瀬さん……」  ふと高瀬の言葉を思い出し、口に出してしまう。  自分一人しかいないはずなのに、なんとも気恥ずかしい。  思わず枕に顔を埋めたら、ベッドサイドの時計が目に入った。時計は正午を過ぎている。 「うわっ、ごめん満月。お腹減ったよな」  リビングへ行くとケージの中で眠っていた満月が、成瀬の足音に飛び上がった。 「あ、ごめんごめん。びっくりした?」  ケージを開けてやれば成瀬の匂いを嗅ぎながら満月は出てくる。ササっと掃除をして、フードを準備してやる。  すると、部屋の探索を終えた満月はもどってきた。  ポリポリとご飯を食べ始める満月を撫でながら、高瀬の虎耳を思い出す。  続けて、昨日の名前を呼んだ時の嬉しそうな笑顔。  おにぎりを食べさせてきた時の子供みたいに楽しそうな笑顔。  次々と高瀬の顔が浮かんでくる。 「あ~、明日会社でどんな顔して会えばいい?」  成瀬の呟きを聞いているのかいないのか、満月は夢中でフードを食べていた。  しかし、隣の部屋の鍵を閉める音が聞こえた瞬間、ダンと足を鳴らして警戒をする。 「大丈夫だよ。隣の人、出かけるみたい」  成瀬が落ち着いた声で話し、撫でてやれば、鼻でツンツンと手のひらを押してくる。 「そうだ、小松菜も食べる?」  満月は言葉がわかるかのように、成瀬についてキッチンへ行った。シャクシャクと小松菜を食べている満月を見ていると、成瀬の腹も鳴る。  しかし、炊飯器も空で、軽く二日酔いのだるさから何も作る気にはなれなかった。  コンビニ行こうと玄関に向かうが、ヨレヨレのシャツに高校のジャージでは外に出るのは憚れる。少しマシな格好に着替えることにする。  地元ならば余裕で出かけるのだが。 「満月、ちょっと留守番してて」  成瀬は着替えると、満月に向かってそう言って、玄関を勢いよく開けた。 「わっ……」 「あ、ごめんなさい」  廊下に人がいたことなんて無かったから、ドアを開ける勢いも気にしたことがない。咄嗟に謝って声のした方向に顔を上げると、そこには金髪ハーフの美形が立っていた。 「主任……?」  黒の半袖Tシャツに濃い色のパンツスタイルと随分ラフな格好で一瞬わからなかったが、この美形でハーフの特徴は高瀬そのものだった。 「え、なんで?」 「……ここに住んでるからな」 「え?」  高瀬は成瀬の疑問に鍵を見せて隣の部屋の扉を指した。 「主任、隣に住んでたんですか?!」 「あぁ…………」  なぜだか不機嫌そうな声が返ってくる。  休みの日は会社の人間には会いたく無かったのだろうか。  いやそれより隣に住んでるなんて! 「…………気付いてなかったのか」 「え、はい。引越しの挨拶の時も会えませんでしたし」 「あぁ」 「主任は初めから知ってたんですか」 「まぁ、お前の匂いがしてたからな……」 「匂い……?」  途端に高瀬の半獣化した姿を思い出し、舐められた首筋に手を持って行った。高瀬も成瀬の雰囲気で察したのか、目線を泳がす。  なんて言えばいいかと悩んでいると、成瀬の腹が盛大に鳴った。 「ははっ、飯食うか?」  高瀬は吹き出して、コンビニ袋を見せ部屋に来いと誘ってきた。高瀬の笑顔につられて笑うが、流石に家に上がるのはどうかと戸惑う。 「遠慮するな」 「じゃあ……」  優しく笑った高瀬について、成瀬は隣の玄関に入って行った。  うわ、ここ本当に同じマンション?間取りも違うし、すげぇおしゃれ……  高瀬の部屋に入った成瀬の第一印象だ。 
 1LDKの成瀬の部屋と違い、高瀬の部屋は2LDKでリビングも広く、質素で色が揃った家具とおしゃれなインテリアで揃えられていた。  高瀬はダイニングテーブルにコンビニ袋を置き、中身を出す。  出てきたのはおにぎり。  およそ10個ほど。 「主任もおにぎり好きなんですね」  何気なく言ったつもりだが、また高瀬の顔が不機嫌そうに歪んだ。 「成瀬、主任じゃない」 「あ、高瀬さん……」 「あぁ」  名前を呼ばれて笑った高瀬の顔は、まともに見ることができない。名前で呼ばない事が不満だったのか。 「あ、おにぎりなら、俺、味噌汁でも作りますよ。台所借りていいですか」 「あぁ」  誤魔化すようにキッチンに入った成瀬だが、キッチンも驚くほど綺麗だった。無駄なものはなく、食器も全て同じメーカーなのか揃えられている。 「しゅに……高瀬さん掃除好きなんですね」 「いや、週に一度掃除を頼んでいる」 「……すごいですね……」 「そうか?」  なんだか価値観の違いを見せつけられて、成瀬は苦笑した。  主任てそんなに稼げるものなのかな。 「あの、しゅに……高瀬さん。鍋どこですか?」  キッチンをいくら探しても棚の中はほぼ空で、調理道具が見つけられない。 「鍋はない。やかんはそこだ」  高瀬の中では、味噌汁はやかんで作るものらしい。 「やかんで出来る味噌汁はインスタントですよ……。なら、俺自分の部屋で作ってきます。ちょっと待っててください」  成瀬は部屋に戻ろうと玄関へ行くが、高瀬が後ろから付いてきた。 「お前の部屋で食べるか」 「え、うちこんなに綺麗じゃないですよ」 「構わない」 「それなら……」  急遽客が来ることになった成瀬の部屋では、満月が玄関前で足を踏み鳴らしていた。

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