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第10話 なんで知ろうとしないんだ
成瀬は今日も店舗物件を探していた。しかし、物件自体見つけられない。
住居を探しているお客へはしっかりと案内ができていて、佐伯に手伝ってもらいながら成約数件も上げているが、神谷から直々に任された案件だけ滞っていることが、成瀬のテンションを下げていた。
成瀬はだいぶ行きつけになったバー半月のカウンターで突っ伏していた。
「何?随分疲れてるわね。まだ物件見つからないの?」
「はい。どこかに無いですかね、レストランをやっていた居抜きの物件……」
「そうねぇ~、あまり聞かないわね~」
ルルは成瀬の愚痴を流しながら、テーブル席の酒を作っていた。今日の半月はテーブル席が賑わっている。
50代くらいの男が三人で仕事の話をしているようだ。その中の一人が、フラりと成瀬の横までやってきた。
「なぁ、今レストランの物件とか言ってなかったか」
男はだいぶ酒が入っているのか、足元がおぼつかない。カウンターにもたれながら成瀬に問いかける。
「あ、はい。え、あるんですか、物件!」
「あぁ、まだ不動産屋に言ってないんだけどよ。今貸してる奴が店閉めるって言ってるんだよ。すぐに次が見つかるなら俺としてはありがたいから」
「どこですか!?」
成瀬は掴みかかる勢いで男に詰め寄った。
「ちょっとケンちゃん落ち着いて」
ルルが成瀬に出した酒のグラスを倒れない位置に動かす。
男が言う物件は、お客の希望にほぼ沿っていた。閉店時期だけが少し先だが、特別急いでいるわけでもない。
「あの、うちで次の借主様を紹介させてください!」
「おう、そうしてくれるか」
成瀬はようやくお客に良い返事ができると喜んだ。
「はい!それで、あの……借主様なんですけど……」
「なんだ?なんかあるのか」
「その……獣人の方なんです」
「は?……あー、そうか。まいったな。それなら話は無しだ」
「えっ!?」
男は成瀬の言葉を聞いた瞬間に、話を終わらそうとする。その男の態度に成瀬は怒りを覚えるが、グッと堪えてビジネスとして話をしようと向き合った。
ルルだけは不機嫌を露わに男を睨んでいる。
「ま、待ってください。どこがいけないのでしょうか。今、借主様は別の店舗で成功されています。2号店を出すことになんの問題もない方です。人柄だって穏やかで……」
「そんなの信用できねぇよ。奴らは獣だ」
「ちょっと、その言い方はひどいわよ。獣人になんかされた訳?」
ルルの声が特段に低くなり、威圧するような雰囲気を出してきた。
「なにママ怖い怖い。なんかって、昔からそう言われてる。そう言う生き物だろ?」
男は完全に先入観で話をしている。まるでこっちの感覚がおかしいと言うように男は軽く笑った。
「はぁ?」
バンとルルがカウンターを叩く。その瞬間にテーブル席にいた別の男たちもこちらの様子に気がついた。
成瀬は体温が下がる感覚がした。言い知れない怒りが湧き起こっているが、心は冷めていく。
ルルがカウンターを叩かなかったら、掴みかかっていたかも知れない。指先が震えている。
緊張しているのか?バレーの試合中にも震えることはあったが、これは全く別物だとわかる。
ルルはどんどんヒートアップしていく男と口論になっていた。
成瀬がギュッと拳を握った瞬間に、店の入り口のウィンドウチャイムが鳴った。
「おい、店の外まで聞こえてるぞ」
低く落ち着いた声は、高瀬のものだった。成瀬は高瀬を振り返ると、男との間に入って立ち塞ぎ言った。
「俺だって、俺が、もし……」
「あ?なんだよ」
「俺は人間だけど、俺だって何をするかわからない」
「は?何かするつもりか」
「銃を持っていたら撃ってみたいと思うかも知れない。あんたを殴りたいと思うかも知れないだろ!人間だってそう思うかも知れないんだ!!」
最後は叫んでいた。叫ぶだけじゃ怒りがおさまらない。震えながら殴りそうになる手をギュッと握り、男を睨みつける。
「おい、成瀬。落ち着け」
高瀬の声が聞こえるが、悔しくて仕方がない。
「なんだよ。やる気か?できるならやってみろ!」
男は煽るように成瀬の肩をど突く。
弾かれた成瀬は、高瀬に受け止められた。成瀬を優しく受け止める手は、瞬間に怒気を孕む。
「……おい…………」
大した衝撃ではなかったが、それ以上に低い地を這うような高瀬の声にゾクリとした。
高瀬の目は、金色に変わり、ギロリと男を睨んでいる。
「お前も獣人か。ほらな、やっぱりこういう生き物なんだよ。怖い怖い」
男は軽口を言いながらも、一歩二歩下がっていく。男の後ろから、背の高いルルが冷たい目で見下ろしていた。
「お前は出禁だ。帰んな」
「はぁ?俺は常連だろ。ふざけんな」
「この店にお前みたいな小物はいらねぇんだよ。さっさと帰れ!」
ルルは男を入り口まで追い詰め、店から追い出した。
「二度と来んなクソ野郎!!」
ルルの声が、路地裏に響く。男と一緒に飲んでいたテーブル席の客たちは、そっとその横を通ろうと伺っている。ルルがキッと睨みを効かせるとビクッと姿勢を正した。
「おい」
高瀬が声をかけるが、ルルの勢いは止まらない。掴みかかる勢いで男たちに向かう。
「あんたたちも……」
「おい、もういいだろ」
高瀬はルルの前に手を出して制し、男たちを目線で入り口の扉に誘導した。
高瀬の後ろから、低い声で叫ぶルルの姿に、成瀬はなぜだか笑いが込み上げてきた。
「ははっ、ルルさん怖……」
笑う成瀬に、高瀬の表情も緩む。
しかし、どこか哀しそうな目をしていた。
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