13 / 31

第13話 そんな急接近、緊張しますから

 仕事終わり、高瀬と一緒に成瀬は路地裏のバー半月に向かう。  高瀬に仕事の成果を祝ってもうのは二回目だ。今日は前回のお祝いのように途中で帰るなんて事はしない。半月の酒もだいぶ飲み慣れた。 「いらっしゃい」 「カウンターいいか」 「いいわよ~」  いつも通りにウィンドウチャイムを揺らすと、ルルはたおやかにカウンターを指した。  この前の、客を追い出した姿は随分荒々しいと思ったが、やっぱり綺麗な人だ。  あれ、でも少し、いや、だいぶ声は低かったな……どすの利いた女性の声っていうか……ヤンキーみたいな……。 「おい、成瀬座れ」 「あ、はい」  ルルの綺麗な姿を見ながら、成瀬はなんとなく違和感を覚えるが、高瀬に促されて席についた。 「「何飲む?」」  高瀬とルルの声が重なり、成瀬は吹き出した。 「じゃあ、マティーニを」 「攻めるわね」 「明日は休みだし、いつまでも学生じゃないんで」 「無理するな」  呆れたような高瀬の言葉に、成瀬は少しムッとする。困り顔のルルにそのままマティーニを作ってもらった。 「この前の仕事うまく行ったんだ。頑張ったじゃない」 「はい。俺、すごく嬉しくて」 「まだ成約にはなってないだろ」 「あ、そうでした」 「いいじゃないの。ケンちゃんの熱意が伝わったって事でしょ」 「そうだな……それは俺も……」  言いかけた高瀬は、カウンターの木目を見ながら何かを考えている。ルルは高瀬の落ちた肩を見てやれやれという様子でシンクのグラスを洗い出した。 「どうかしましたか?」  成瀬は急に落ち込んだような表情を見せる高瀬に、声をかける。 「俺、内見もしっかり頑張るんで、心配しないでください」 「あぁ、いや。この前成瀬がキレた姿を思い出した」 「え、あ……全然格好つかなくて……」 「いや。ただ、怪我をさせられるようなことは避けろよ」 「……でも……」 「大丈夫よ。ルルちゃんが守ってあげるからね」  ルルは泡だらけの手で、ピースを作った。綺麗にウィンクをしてくる顔に、成瀬は吹き出す。 「ルルさんに守られるんですか」 「この前は格好良かったでしょ。私」 「まぁ、そうですね」 「じゃあ飲みましょ。次はどうするの?」 「えっと……おすすめで……」 「ネタ切れね」  カクテルを覚え始めた成瀬には、格好いいカクテルの名前はもうわからなかった。しっかりとルルに見抜かれて苦笑する。  高瀬はルルの言葉に頬を緩めるが、カウンターに置いた拳はギュッと握りしめた。苦笑している成瀬を見つめながら、不安気に目は揺らぐ。  目の前で揺れる成瀬の頭を可愛いと思いつつ、高瀬は眺めていた。格好よく飲みたいと行っていた新卒の新人は、まるで飲み屋の学生のように赤い顔で高瀬に絡んできている。 「高瀬さんは格好いいんですよ。サッと助けてくれるし、立ってるだけで絵になるし!」  成瀬はゆらゆらと体を揺らしながら、ストローを持ってビシッと高瀬に向けてきた。成瀬の揺れに合わせてストローも揺れている。  あぁ、まずいな。  目の前で揺れるストローに、高瀬の頬がぴくぴくと動き出す。腹の底がウズウズしてくるのを感じて抑えようとするが、ついストローを目で追ってしまう。 「高瀬さん!聞いてます?!俺は、高瀬さんみたいになりたくて!」  ピンピンと動くストローに高瀬の目は釘付けになり、そわそわとする手のひらをギュッと握りしめて堪える。成瀬は自分の話に適当な相槌しか返さない高瀬にムッと唇を尖らせた。 「だから、高瀬さん。聞いてますか?!」 「ケンちゃん、それ、ストローやめてあげて」 「うぇ?これ……?」 「そうそれ」  ルルが成瀬のストローを指して、それを凝視する高瀬の姿に苦笑している。 「え、なんで……あ、あはっ、高瀬さんストロー好きなんです?」  成瀬が意識して猫をじゃらすようにストローを動かし始めると、高瀬は足先を震わせた。ニヤニヤ笑う成瀬の顔をジトっと睨み付け羞恥心を隠す。  パシッと自分の足を叩いて、高瀬は真剣な目で、ストローと一緒に成瀬の手を掴んだ。  ルルがチラリと高瀬の手を見て、口を結んだ。 「わっ……」  そのまま成瀬を引き寄せ、手の力に気を付けながら、ジッと顔を近付ける。  驚く成瀬の顔が、可愛らしい。顔が近くなり、成瀬の匂いが鼻を掠める。思わず上がる口角は抑えることができなかった。  酒に酔って上気している成瀬の頬はほんのり赤く、柔らかそうで舐めたくなる。高瀬も酒に酔っているのだろうか、ダメだと思いつつも成瀬の頬に口を近付けてしまう。 「た……高瀬さん……?あの……」  顔が近付くにつれて成瀬の目が潤み、戸惑い始めた。  ダメだよな。だけど……後少しだけ……。 
 高瀬はふっと息を吐いて自分の気持ちを落ち着けようとした。  成瀬の目が混乱と戸惑いに揺れる。 「あ……あの……あの……」 「mignon……」  高瀬がそう呟き笑った瞬間に、成瀬の頭はカクッと後ろに倒れた。掴んでいた腕に急にズシリと体重が乗り、高瀬は慌てて成瀬の体を支える。 「成瀬っ」 「え、大丈夫?」 「…………寝たな……」 「シンシアのせいね」 「…………」  高瀬は成瀬を抱えると、ルルに会計を頼んだ。

ともだちにシェアしよう!