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第14話 面接の空気で性癖を聞かれたんですが

 高瀬は成瀬の部屋の前で、鍵がないことに気付いた。  成瀬は今、高瀬の腕の中で眠っている。  決して小さくはない、むしろ身長は高い方の若者を抱えているのに、彼の荷物から鍵を探すのは大変だ。耳を澄ませば、部屋の奥からウサギがバシンバシンとスタンピングをしている音が聞こえる。  鍵開けてくれないかな。  ただのウサギにそんなことを思いながら、高瀬はドアノブを掴んでみた。カチャリと開く玄関の扉。 「は?」  思わず腕の中で眠っている男の顔を見てしまう。  鍵かけないのか?  就職して上京してきたと言っていたが、ここまでセキュリティ感覚が甘かったとは。母親がオートロックにこだわるわけだ。  寝室のベッドに転がせば、ん~と唸って身を丸めた成瀬。一気に子供っぽく見える童顔を優しく撫でる。淡く弱い月の光が窓から入ってきて、高瀬の心はザワリと揺れた。  バーでの衝動が蘇る。  成瀬の髪に指を通して感触を楽しんでしまったら、心拍が上がり始めて耐えられなくなった。成瀬から目を離そうとするが、どんどんと顔が近づいていく。  成瀬は寝ている。これは卑怯だ……。  そう思っても、身を屈めて顔を近づけてしまう。  リビングではウサギがガサガサと音を立てているが、もう気にならなかった。  そっと柔らかい感触を唇に感じ、そのまま舐めたい衝動に駆られる。  これ以上はダメだろ。  必死に奥歯を噛み締め、どうにか立ち上がる。 「ふぅ~…………」  長いため息の後、高瀬はカーテンを閉めてリビングへと向かった。  ウサギはジトっとした目を高瀬に向けてきて、一度だけバシンと床を蹴り付けた。 「悪かった」  高瀬はそう呟いて、ラビットフードを開ける。サラサラと餌入れに入れてやる間、ケージの奥に身を丸めているウサギに話しかけた。 「成瀬が欲しいと思っている。今夜は、あいつのそばにいても良いか?」  ウサギの前に一粒フードを置いてやる。ジッと高瀬を見て、フンと鼻を鳴らしながらウサギはそれをポリポリと食べ始めた。 「了承と取らせてもらうな」  朝日がカーテンの隙間から差し込んできて、成瀬は目を覚ました。寝苦しいと思ったら、着替えもせずに寝ていたようだ。  昨日は、半月で飲んでいて、高瀬さんが格好いいって話をして……そしたらすごい顔が近くなって、すごく綺麗で格好良くてなんかすごく緊張したんだった。  あれ、それでどうしたんだっけ?  ゆっくりと寝返りを打つと、目の前には今思い出した綺麗な顔があった。 「え、なんで?!」  思わず出た声は掠れていたが、高瀬を起こすには十分だったようだ。身じろぎ目を開けようとする高瀬が完全に目を開ける前に成瀬は体を起こした。 「痛っつ……」  急に動かした頭がズキっと痛んで成瀬は顔を歪めた。 「大丈夫か」 「高瀬さん、なんでここで寝てるんですか」  成瀬は痛むこめかみに指を当てながら、高瀬へ顔を向けた。 「お前が半月で寝たから運んできたんだ」 「え、あ、すいません」  一気に記憶が蘇ったのか、成瀬は慌てて頭を下げてきた。その様子に高瀬は少し申し訳なく思う。 「いや……お前のベッドも気持ちよさそうだった……」 「え、インテリアチェーン店の安物ですよ」 「いや、つい……俺も酔ってた。すまなかったな」  高瀬は目を泳がせつつ謝る。 「いえ、俺が迷惑をかけたんです。あ、お詫びに朝飯作ります。食ってってください」 「あ……あぁ」  高瀬は一瞬迷ったが、高瀬の返事を聞く間も無く成瀬はリビングへと行ってしまった。 「満月っ、ご飯ごめん」 「フードだけなら昨日あげた」 「えぇっ?すいません、そんなことまで」 「……まぁ、上がらせてもらったからな」  成瀬がケージを開けると、満月が出てきた。フンフンと鼻を鳴らしながら成瀬の手に鼻を付けて撫でろとアピールしている。 「ごめんな、まずは飯作らないと。小松菜やるよ」  成瀬は満月を一度だけ優しく撫でるとキッチンへ向かう。その後ろを満月はついていった。 「高瀬さん、何か食べたいものありますか?って言ってもそんな大層なものは作れないですけど」 「…………じゃあ、味噌汁」 「そんなんでいいんですか」 「それが良い」  高瀬はラグの上に座り、この前のが美味かったと笑った。その笑顔に、成瀬は昨日の高瀬の艶のある表情を思い出して顔に熱を感じた。  成瀬が味噌汁を作っている間、高瀬の元に小松菜を食べ終えた満月が寄って行く。珍しいなと見ていたら、フンフンと高瀬の匂いを嗅ぐ満月。時折高瀬のベルトを齧っているようにも見えて、成瀬は焦る。そんな高そうな物! 「満月ダメだよ」 「別に、何か確認しているだけだろ」  成瀬の心配をよそに、高瀬は何も気にしていないと満月を見て微笑んでいる。  なんか仲良くなってない? 「簡単ですけど出来ました」  味噌汁と、目玉焼きと、白飯を用意してちゃぶ台に持って行くと、満月と遊んでいたはずの高瀬はテレビの方向を向いて固まっていた。 「高瀬さん?」  背中越しに様子を伺えば、高瀬は成瀬がお世話になっているエッチなDVDを持っている。 「あっ!!」 「成瀬は玄関といい、随分とオープンなんだな」 「えっ!?うそ片付けて無かった?!」  ワッと体温が上がって、高瀬の手からDVDを奪うように取り上げた。恥ずかしすぎて高瀬を見られない成瀬に、静かな声で高瀬が聞く。 「そういうのが好みか?」 「え」 「どこが好きだ」 「え」 「好きなところだ」 「はっ?そんなこと……」  何を聞いてくるんだこの上司は。仲のいい友達とだってあまりしない話を直球で聞いてくるのは、外国人ハーフという文化の違いなのか。  恐る恐る顔を上げると、高瀬は至極真面目に成瀬を見ていた。なんだか答えないと悪いような雰囲気だ。   成瀬は下を向きながら小さい声で自分の性癖を暴露し始めた。 「え……えっと……か……体が……柔らかそうじゃないですか……て……手触りも…………ぁ……」  最後の一言は余計だっただろう。手触りなんて変態じみた事、つい言ってしまった。 「あの……柔らかい手触り好きで……満月とかも柔らかいから……」  フォローしようとすればするほど、墓穴を掘っていっているような気がする。そっと高瀬の表情を伺うと、無表情で成瀬を見つめていた。  うすら怖い……。 「た、高瀬さん、飯食いましょ」 「あぁ」  ギュッと自分の腕を握った高瀬は、短く低い声で返事をしてちゃぶ台に向いた。 「Je ne suis pas doux…(俺は柔らかくないな)」  味噌汁を啜りながら呟いた高瀬のフランス語は、成瀬には聞き取れなかった。

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