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第16話 友達と遊びに行くだけのはずだったんですけど?!

 雛子の部屋はすぐに見つかった。何か吹っ切れたような彼女は、成瀬が提示した物件から即決して契約をしてくれ、成瀬としても安心した。 「ねぇ、健一。引っ越し終わったらさ、遊びに行こうよ。今回のお礼もしたいし」 「え、良いけど。俺は仕事しただけだよ?」 「そうなんだけど。私はすごく助かったし、嬉しかったの」 「嬉しい?まぁ、無事に部屋見つかって俺も嬉しいよ」 「……うん。じゃあ、また連絡する」  雛子は短くため息を吐きながら、店を出ていった。店の扉で見送る成瀬は、隣の三浦からの視線に首を傾げる。 「……俺、何かミスってます?」 「ナルは全てをミスってる。あーあぁ、雛子ちゃんかわいそ」 「え、な……何でですか!ちゃんと部屋の契約できてますよね。雛子の希望通りですよ?」  三浦は肩を回しながら、カウンターの裏へ戻り、書類を片付け始めた。呆れられているような目に、成瀬は納得がいかなかった。 「あ、雛子ちゃんとのデートはちゃんと報告しろよ?先輩命令!」 「で……デート?!」  急な言葉に成瀬は顔を赤くするが、慌てて三浦に駆け寄って否定する。 「ただ遊びに行くだけですよ。幼馴染の遊びです!」 「高瀬くん、画面に”あ”しか入力されてないよ。」  神谷はお客様カウンターでじゃれている新人たちを眺めながら、仕事が疎かになっている主任へと声をかけた。 「デート気になるね」 「……べつに……そこまでは……」 「あとで三浦くんに詳細聞いておくね」  高瀬は画面の文字を消しながら、鼻息荒く歯軋りをした。  神谷は自分のデスクに戻って、クルリと椅子を回し窓の方に向く。 「マーキングした意味無かったねぇ。困ったね~」  背もたれに体重を預けて、梅雨の晴れ間を見上げ独り呟いた。  雛子からはすぐに連絡が来て、映画に行くことになった。  友達と出かけるのは久しぶりだ。地元の奴らも元気かな。  雛子との待ち合わせの駅で、成瀬はスマホの写真フォルダを見ていた。高校の頃も好きなバレーの映画があって、みんなで観に行ったっけ。その続編が今やってるとはね。 「ごめん健一、お待たせ」 「うん。引っ越しは無事終わった?」 「ん~、まぁね。まだ段ボールゴロゴロしてるけど、そのうち片付くよ」 「今日の休みは部屋片付けたかったんじゃないの?」 「いいのいいの。外で遊ぶ方が好きだから」  雛子は嬉しそうに成瀬の先を歩いて映画館の方へ向かって行った。  映画を観た後は、遅めの昼飯を食べる。映画館と同じビルにある、手頃なイタリアンチェーン店だ。 「またバレーやりたくなったな」 「何、うずいちゃった?」 「ボール触りたい。そういやさ、さっき高校の時の写真見てたんだけど、だいぶ青春してたよな」 「え、どれ?見たい見たい」  成瀬がスマホの画面に出したのは、高校バレー部のメンバーと仲の良い女子たちが写っているお菓子パーティーの写真だ。 「あ、これ王様ゲームしたやつ?」 「そうそう。もう滅茶苦茶だったよな」  雛子は成瀬のスマホの画面を送っていき、一枚の写真で手を止めた。 「何?面白いのあった?」 「ん~?ここに写ってる人たち全員、健一に気があったなって思い出しただけ」 「は?またそんなこと言ってさ……」  成瀬が画面を見ると、バレー部の男子三人と雛子が写っていた。 「いや、男じゃん」 「………………男だね」  長い沈黙の後、雛子はため息混じりにそう言った。 「……からかうなよ」  雛子の冗談だと健一はデザートのジェラートを掬った。 「地元の子と会ってるの?」 「いや、こっちに来てから帰ってないし、会ってない」 「仕事忙しいんだ?」 「や、そこまでは。不動産てブラックって言われるけど、俺の会社は良い人ばかりだよ」 「へぇ。確かに、三浦さん素敵だったね」 「だろ?元ラガーマンで、筋肉隆々で格好いいんだよ」 「…………うん」  三浦の話を振ってきたから答えたのに、雛子は少し遠い目をしていた。 「あとな、高瀬さんていう主任が超格好良い!」 「へぇ~」 「俺のミスをサッと解決してくれて、フォローしてくれる姿がスマートで大人なんだよ。超憧れる!」 「そうなんだ。良い上司でよかったね」  雛子は成瀬の目の色が急に変わったことに気付いたが、柔らかく相槌を打ってから勝負に出た。 「ねぇ、健一の家ってこの近くでしょ?」 「ん?あぁ隣の駅」 「今から行って良い?」 「え……」 「ウサギ。飼ってるウサギちゃん見てみたい。良いでしょ、行こうよ」 「あ、ちょっと待てって」  さっさと荷物を持って立ち上がる雛子を追いかけて、成瀬はジェラートをかき込む。額に地味にくる頭痛に耐えつつお会計を済ませた。  電車に乗っている一駅の間、雛子は上機嫌にどんな部屋なのか、どんな生活をしているのかを聞いてきた。特別面白い話もないと成瀬は答えるが、雛子が楽しそうだから良いかと笑い返していた。 「あ、うちきても食べるもの何も無いな」  最寄駅の改札を出て、成瀬は冷蔵庫に小松菜しか入ってなかったことを思い出した。客が来るときは飯の用意もするのが成瀬の家の常識で、実際バレー部の男たちは成瀬の家でよく飯を食べていた。 「え、夕飯?まだお腹空いてないけど」 「ん~でもなんか俺の気がすまない……」 「じゃあ買い物……」 「あ、雛子は酒飲める?」  成瀬の頭に浮かんだのはバー半月。ちょうど開店時間だ。カクテルバーだが、成瀬が通うようになってから軽く軽食も出してくれるようになった。  それに、もう大人の遊びもできる歳だ。 「飲めるけど、どこ行くの?」 「バー。行きつけがあるんだ」  ふんと鼻高々にドヤ顔をして、雛子と路地裏に向かって歩き出した。 「いらっしゃい」  ウィンドウチャイムを鳴らせば、ルルがカウンターから声をかけてくれる。 「二人です」 「あら、ケンちゃん…………どうぞカウンターに!」  ルルは成瀬を見てニコリと笑ったが、後ろから来た雛子を見るとわずかに顔を歪めて語気を強めにカウンターを勧めてくれた。 「デート?」 「違います。地元の友達です」  成瀬と雛子の前にカクテルを置いて、ルルは少し低めの声でストレートに聞いてきた。成瀬はそんなことないと笑いながら否定する。そんな成瀬にじっとりと目線を向ける雛子の表情を見て、ルルは静かに頷いた。 「美味しいね、このカクテル」 「あら、ありがとう」 「だろ?ここも、さっき話した高瀬さんに連れてきてもらった店なんだよ」 「また、高瀬さん……」 「そ、このオシャレな照明の下で酒飲んでる高瀬さんは、すごく絵になるし綺麗なんだ」 「へぇ…………」  雛子はカクテルのグラスを置くと、カウンターに頬杖をついて、目を半分閉じる。  そんな雛子をルルは少し目を見開いて見る。そして、キラキラの笑顔の成瀬に視線を向け目を閉じた。 「でもな、高瀬さんは、格好良くて綺麗なだけじゃなくて、可愛いところもあるんだよ」 「可愛い?年上の男の人でしょ」 「そう、普段は滅茶苦茶クールでスタイリッシュなのに、急に甘えてくることもあって。この前なんか雛子の物件探してる最中に後ろから抱きつかれて、満月の真似って、あ、ウサギの名前な」 「「はっ?」」  雛子とルルが同時に同じ言葉を同じテンションで発した。 「え?」 「え、抱きつかれたの?ケンちゃん」 「あ、はい。首筋に擦りつかれて髪でくすぐられました」 「はぁ?なんのスキンシップそれ」  雛子の中の高瀬のイメージが崩れたのか、多少引き気味で成瀬を見てくる。 「え?いや、ウサギもよく擦り付いてくるから。それ真似してきたんだよ。可愛い人だろ?」  雛子は開いた口を塞げないでいる。 「ねぇ、それされてさ、なんとも思わないの?」 「なんとも?別に。あ、でも抱きしめられた腕は格好良いなってちょっとドキドキしたかな」  表情を固めたまま雛子は肩を落とした。ルルは菩薩のように目を閉じて立ち尽くしている。 「それってさ、健一。高瀬さんのこと好きじゃん」 「え?何言って……確かに好きだけど……あ、ドキドキって憧れのやつだから!」  言いながら、成瀬の脳裏に高瀬の顔が浮かんでくる。 「ち……違う……から……格好良くて……可愛くて……綺麗で……甘えてきて……」  思い出すたびにどんどんと顔に熱が上がってきて、成瀬はカクテルをあおった。  だ、だって、外見も仕事もただ男としての憧れで……男としての…… 「そう、高瀬さんは男だし!!」  成瀬は自分の気持ちが信じられなくて、少し声を張って言った。しかし、その言葉にルルがカウンターから身を乗り出してくる。 「男だと何かあるの?」 「へ?」  低く響くルルの声に成瀬はゴクリと息をのんだ。 「健一、恋愛偏差値低いあんたに言っとくけど、性別とか関係ない。好きって気持ちはちゃんと伝えないとダメだよ。あと、好きって気持ちはちゃんと受け取るのも大事!あんたはこれが出来ないから…………」  雛子は最後まで言い切ることなく、ふいっと顔を背けてカクテルを一口飲んだ。 「好き……って……ぇ……俺……高瀬さんを……」  雛子に言われたことが酒と一緒にグルグルと頭の中で回って、体温が上がってくる。成瀬は耐えられずに立ち上がった。 「トイレ!!」  しっかりと宣言をしてから店の奥へと向かって行く。 「良いこと言うじゃない。ヒナちゃん」 「はぁ~あ、失恋した時に合うカクテルください」 「ふふ、私あなた好きよ」 「ルルさんは、素敵な彼氏がいるんじゃないんですか?」 「あら、わかる?すごく格好良い彼よ」 「ルルさんの声も格好良いですよ」 「やーだ、ヒナちゃんほんと好き」

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