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第21話 レオニアさんの試験?大丈夫です!

「あの、たか……臣……さん……」 「…………なんだ……」  食事の後、レオニアの寝室へ行く許可が主治医から出て、成瀬は高瀬の案内で綺麗な廊下を歩いていた。  もうコレットは一緒ではないから、ファーストネームで呼ぶ必要は無いのだが、以前も主任から呼び方を改めた際に主任と呼ぶと機嫌が悪くなっていた。  悩みながらも成瀬はファーストネームで呼んでみた。  高瀬は一拍間を置いてから返事をする。 「あ、あの……コウイチさんて、神谷支店長ですか?」  思い出した名前を聞いてみるが、高瀬の眉がピクリと上がって、聞かない方が良かったかと後悔した。あの時、高瀬はわざとフランス語を使ったのかもしれない。 「あぁ、神谷さんには15の頃からお世話になっている。あの人も獣人だからな。そういうコミュニティがあるんだ」 「そう、なんですね。すみません、プライベートなこと……」 「いや……お前になら構わない」  そう言って、高瀬はレオニアの部屋の扉をノックした。  レオニアの部屋もとても広く豪華だった。天蓋付きのベッドなんて、大手家具屋の展示でしか見たことがない。 「具合はどうだ?」 「良いよ。実は車に乗ってる時からね」 「だと思ったよ」  ニヤリと少年のように笑うレオニアに、高瀬は笑い返して頭を撫でる。 「成瀬くん、本当にごめんね、ありがとう」 「い、いえ」  レオニアに手を伸ばされ、成瀬は何気なくその手を取った。 「君の手は本当に落ち着くね」  レオニアは成瀬の手をゆっくりと撫でる。その手の動きは妖艶で、ゾクリと成瀬の体が反応した。ニヤリと笑ったレオニアは、病人とは思えない力で成瀬を引き寄せた。 「ねぇ、シンシア。やっぱり僕、成瀬くん欲しいな。ダメかな」  ベッドに寝たままのレオニアに抱きしめられて、成瀬は半分ベッドに乗り上げながら高瀬を見る。 (シンシアがどんな反応するか知りたくない) ってこれの事か。知りたいけど、知りたくないかな……。別に構わないって言われたら……。 「あの、俺は……」  成瀬は最悪の想像をして、話を終わらせるために声を出した。 「ダメだ」  高瀬ははっきり否定した。それに驚いたのはレオニアだ。 「これはうちの社員だ」  成瀬は高瀬に腕を引かれ、勢いよく高瀬の胸の中に抱き止められた。抱きしめてくる高瀬の腕の力が強い。  身動きが取れずに胸に押し付けられて、高瀬の匂いを感じた。  トクトクと心音も聞こえる。  成瀬はたまらずにギュッと目を閉じるが、そうすると高瀬の心音をよりリアルに感じてしまう。 「社員?……OK、今はね」  レオニアは降参というように両手をあげた。 「ところで、さっきの物件の資料置いてきちゃった。あれ真剣に考えたいから」 「あ、俺持ってます。鞄に……あ、鞄さっきの部屋か……」  レオニアの言葉に、成瀬は仕事のスイッチが入って、高瀬の腕から抜け出した。しかし、さっきの部屋がどこにあるのかもう怪しい。 「持ってきてやる」  成瀬の思考を読み取ったのか、高瀬が部屋から出ていった。 「成瀬くん。シンシアをよろしくね」 「へぁっ!?」  高瀬の背中を見送って、ニコリとレオニアは人受けする笑顔を作る。成瀬は変な声が出たと視線を彷徨わせた。 「君を僕から奪い返すなんて、今までのシンシアなら絶対にしなかった。それほどに離したくない存在なんだと思う」 「いや、そんな。俺、そこまで仕事できませんし」 「Mon Dieu……」  レオニアは額に手を置きながらため息を吐く。この仕草は高瀬に似ている。 「あ~、そうだね。社員ね。僕はもう何も言わないよ。ただね、僕もそうであるようにシンシアも獣人だ」 「……はい」  成瀬は真剣な顔で見つめてくるレオニアに姿勢を正して向き合った。 「僕は抑制剤が使える。でも、シンシアは抑制剤にアレルギーを持っているんだ」 「え」 「だから、満月のたびに苦しんでいる。昔は神谷さんが落ち着かせてくれて、理性の保ち方も教えてくれた。大人になってからはそこまで激しい衝動は無かったみたいだし、最近は君が助けてくれていたんでしょ」 「いや……助けるってほどじゃ……」 「いや、助かっていたと思う。君の手は本当にすごいよ。でもね、昨日は衝動がおさまらなかったみたいだよ。キス、したんでしょ?」 「……っ……」  成瀬は顔に熱が集まるのを感じて、下を向いた。 「ごめんね、聞いたんだ。シンシアのこと、好きでいてくれるのは嬉しいけれど、近付くほどにシンシアも君も苦しむことがある。無理なことがあったら、離れる決断も必要だよ」 「……無理……そんなこと……」  確か、神谷もそんなようなことを言っていなかったか。あの時はそうは思わなかったけど。 (こいつなら大丈夫ですよ)  成瀬は高瀬の言葉を思い出し、顔を上げる。大丈夫。 「そんなこと、ありませんよ!」  成瀬は、ニコリとした明るい笑顔をレオニアに向けた。  高瀬さんは恐ろしい相手じゃない。それはわかっている。  ホッとした顔をして、レオニアは成瀬に手を出してきた。その手を握り、固く握手をする。何かの誓いのように、成瀬の心が固まった。  満月から一日、まだまだ丸く光る月を見上げ、神谷は目を細めて思いを巡らせる。  今日、内見中に倒れたレオニアを送る為に高瀬の家に行くと言った成瀬に、神谷は直帰の指示を出した。  普通なら、送り届けたら成瀬だけ戻ってこいというものだが、神谷は二人の事情をわかった上でそう判断した。  きっとコレットが二人の仲を楽しそうに進展させようとするだろう。レオニアはどう出るか。弟のことを大切に思うレオニアだから、きっと厳しい話もするかもしれない。  神谷は月の光に目をつぶり、昨日、高瀬に呼び出された時のことを思い出す。  高瀬の部屋に入ると、興奮した獣の匂いが充満していた。  怖いね……。  思わず口に出しそうな言葉を神谷は飲み込んだ。  もう高瀬も良い大人だ。思春期の頃は押さえつける事が出来ていたが、今は本気で暴れられたら負けるだろう。高瀬が大人になってからは、高瀬の強い精神力と理性でなんとか神谷でも宥める事が出来ていたのだ。  しかし、今日の部屋の空気の重さは神谷も冷や汗が出る。無意識に口を開け、はぁはぁと呼吸をしてしまった。  隣には成瀬くんがいるんだよね。  さっき部屋の前を通った時に成瀬の匂いを感じて、本当に隣に越してきていたのだと再認識した。同時に高瀬を哀れにも思う。  玄関を上がり、寝室に行けばベッドの上に毛布をかぶって座っている高瀬がいた。毛布の隙間から見える目は猛獣そのものだ。鋭く威圧するような目に、神谷は尻尾を巻きたくなる。 「大丈夫?」  入り口から声をかけながらゆっくりと寝室に入っていく。高瀬は神谷に手を伸ばす。動いた拍子に毛布がずり落ちていった。  今日はよほど興奮が強かったのだろう。着ていたシャツはボロボロになって床に落ちている。 「暑いの?」  ベッド脇まできたら、ギュッと腰に高瀬の腕が巻き付いてきて、縋るように腹に顔を擦り付けられた。高瀬はふぅふぅと荒い息のまま神谷のジャケットを握り締め、奥歯を噛み締めている。 「ジャケット、破かないで欲しいな」  そう言うと、ビクッと高瀬の肩は跳ね腕の力が弱まった。次に肩は震え出し、ゆっくりと顔を上げた高瀬の目尻から、涙が一筋流れる。 「何があったの」  目線を合わすように、神谷はベッドに上がって座った。 「成瀬を……傷つけたかもしれません……」 「何かした?」  グルッと高瀬が鳴く、思い出して興奮してきたようだ。  神谷は少し身構えた。 「キス……我慢できなかった……キス……キスを……」  高瀬は言いながら、神谷の首に腕を回し自分の唇を舐めつつ顔を近づける。もう理性はほとんど見えない。欲望だけで唇を求めていた。  神谷は高瀬の顎を片手で掴むと唇を重ねた。  愛情はあるが、欲はない。  口付けを深くして行く度に高瀬の興奮が治っていきホッとした。  クチュと音を立て舌を吸ってから唇を離す。 「こういうこと?」 「……ぁ……ぅ……」  息切れをする高瀬は、目を半分閉じ、眠りにつく寸前の子供のように神谷に体重を預けてきた。 「大丈夫、君からは血の匂いはしないよ」  神谷の声が届いたのか、高瀬はスゥと目を閉じて眠りについた。

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