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第28話 折れてても大丈夫なんで、してください!

 成瀬の右腕は完全に折れていた。  すぐに病院で処置をされ、腕を吊った状態で処置室から出てきた成瀬を高瀬は待合の椅子に座ったまま、見ることが出来なかった。 「すまな……んっ……」  言い切る前に、成瀬に口を指でつままれた。  半獣化は治っているが、見えない耳と尻尾が垂れ下がっているように成瀬には見える。 「シンさんは、俺を野犬から助けてくれたんです。今も、一緒にいてくれる。怖がらないでください。俺はシンさんが離れないでいてくれたらそれで良いんです」  高瀬がまた泣きそうな顔で成瀬を見上げた。はにかんで笑う成瀬。 「ありがとう……」  小さな小さな声が震えながら紡がれて、成瀬は高瀬の頭を撫でた。成瀬の手の温度に、高瀬は自分への恐怖が和らいでいった。 (こいつとなら大丈夫です)  いつか神谷に言った言葉を思い出し、成瀬のために強くなろうと誓う。 「台風大変だったね」  営業所に戻ると、神谷が笑顔で出迎えてくれた。三浦も佐伯も、成瀬の腕を心配してくれた。  表向きは、台風で飛んできたものに当たったことにしてあるが、神谷にだけは真実を伝えている。 「何日も、すいませんでした」 「しょうがないよ。自然現象だからね。こっちの仕事はなんとか。台風だったし新規のお客は来なかったから問題ない」  高瀬は頭を下げ、神谷は笑いながら流すが、二人の間の空気は少し気まずい。ふ~と神谷がその空気に耐えかねたのか、長く息を吐く。高瀬を見て、成瀬に視線を向けた。 「成瀬くん、ちょっとごめんね」  そう言って、神谷は成瀬の吊られた腕に気を付けながらそっと抱きしめてきた。 「え……支店長?……何……」  成瀬は柔らかく抱きしめられ、緊張するが、動くことが出来ない。  スンスンと首筋の匂いを嗅がれ、チュッと首に唇を付けられた。  ビクッと体が反応する成瀬を、高瀬がもう返せと言わんばかりに神谷から離れさせる。 「ありがとう、成瀬くん」 「え、あ、はい」  神谷の礼は、単純な感謝だけでなく、愛情と安堵と少しの寂しさが込められていた。複雑な表情をする神谷に、成瀬は言葉が見つからず戸惑いながらもニコリと笑った。 「実はね、他の支店からイベントに成瀬くん貸してほしいって打診が来てるんだ。今は怪我をしたから難しいって答えておいたけど、いずれ支店を跨いで動けるような本社直属の部署からも声がかかるかもね」  神谷は成瀬の仕事を評価して、本社にも報告するという。 「なんだよ、ナル。一気に昇進すんのか?」  三浦が成瀬の肩に腕を回して、嬉しそうに笑った。 「いや、まだ宅健も受かってないのに…………そうだ、受かってないんだ……」  成瀬は言いながら家の問題集の付箋の量を思い出した。 「大丈夫だって、俺が受かったんだからちょっと本気で勉強すればできるできる」  三浦は明るく言ってくるが、そもそも三浦の出身大学は成瀬の地方大学と違って頭がいい。こんなに体育会系で脳筋なイメージなのに、この人は文武両道なのだ。  成瀬は気が重くなって大きくため息をついた。 「疲れたか?」  そんな様子の成瀬の顔を高瀬は覗き込んで、心配そうに見つめる。 「そうだね、成瀬くんは今日はもう帰ろう。高瀬くんも、アポないし二人とも出張中の代休で半休取って。ここは大丈夫だから」  神谷に言われ、三宅も佐伯もうなづく。 「すみません」  正直、成瀬はちょっと疲れていた。それに……色々とおあずけされ続けている。  つまりは高瀬と一緒にいたい。  そんな考えを頭に浮かべながら下げた頭を上げたら、神谷にニコリと笑われドキリとする。  やっぱり神谷さん、ちょっと怖いな……。 「おい、もう少しゆっくり歩け。転んだらどうする」  マンションのオートロックを抜けて、部屋までの廊下をいつもの通りに歩くが、高瀬がさっきから小言のようにうるさい。 「怪我をしてるのは腕ですよ。いつも通り歩けます」 「…………痛くはないのか……」  シュンと肩を落としながら高瀬は聞く。 「じゃあ、抱っこしていってもらえますか」 「わかった」  言われた通り成瀬を抱えようとする高瀬に、成瀬の方が焦った。 「冗談、冗談です!こんな場所で……」 「お前が半月で眠りこけた時も運んでやった」 「あ……それはすいませんでした」  そんなやりとりをしながら、成瀬の部屋に着く。 「満月、ただいま~」  成瀬の声にガサガサとケージの中で喜びを表す満月は、一緒に入ってきた高瀬に気づくと、バシンバシンと足を踏み鳴らした。  ケージを開けてもらい、成瀬の膝に乗ってきた満月は、右手の三角巾とギブスの匂いを嗅いで、おもむろにカジカジと齧っていた。 「満月、すまない。それは、俺のせいだ……」 「シンさん……」  成瀬は高瀬の言葉を不満そうに受け取る。  満月が齧るのをやめ、高瀬に向いた。ジッと大きな目で高瀬を見る。  しばらくして、成瀬の膝から降りた満月は、高瀬の膝へと乗った。丸くなり、高瀬の手に鼻を押し付けている。 「あぁ、もう間違えない。俺は強くなる」  高瀬は小さくそう言うと、満月の頭をそっと撫で、柔らかい感触を堪能した。 「ずるい……」 「なにが」  成瀬は高瀬と満月を不満そうに見ている。 「シンさん、俺にはあまり触ってくれなくなりました」 「はぁ?」 「病院でも、帰りの新幹線でも……」 「いや、公共の場だろ?」 「シンさんはフランス育ちでしょ!それに、ここはもう俺の家です……続きって言ってたのは……いつですか?」  成瀬の言葉に高瀬はホテルでの盛り上がりを思い出す。しかし、成瀬の痛々しい右腕を見て首を振った。 「無理だろ。お前は自分の体を大事にしろ」 「出来ますよ。右手が使えないくらいなんでもないです」 「いや、俺が無理だ。怖い……」  呟いた一言に、成瀬も黙る。 「あーいや、悪い。そうじゃなくて……」  成瀬がそっと左腕を高瀬に向けた。 「ベッド連れってってください」 「は?お前聞いてたか?」 「さっきの話の続きです。抱き上げて連れていってください」 「いや……だから」 「眠いんです!」  珍しく強く言い切った成瀬に、高瀬はわかったと諦めて成瀬を抱き上げた。高瀬に抱かれ、ふわりと香る匂いに成瀬は嬉しくなった。  満月は特に気にする様子もなく部屋の中を探索し始めた。 「ほら、着替えるか?」  成瀬を寝室のベッドに運んで座らせ、着替えを探そうとクローゼットに向いた高瀬は、グンとシャツを引っ張られ立ち止まった。 「なんだ」 「離れないでください」 「着替え取りに行くだけだろ」  高瀬の腰に片手で抱きついて、成瀬は子供のように顔を擦り付ける。高瀬はそのまましばらく何も出来なかった。すると、成瀬の左手が器用に後ろからシャツのボタンを外してくる。 「おい」 「はぁ、シンさん……我慢できません……」  高瀬の素肌を撫でながら、成瀬は熱い吐息を吐く。  高瀬は迷う。  迷って、考えて、決意を決めて成瀬に向く。  目線を合わせてしゃがみ込んだ高瀬は、そっと唇を合わせた。 「最後までは出来ない。でも手伝ってやる。触れてもいいか」  成瀬の首が縦に振られ、高瀬は成瀬のベルトに手をかけた。  すでに形を持ち始めている成瀬自身を、高瀬はそっと掴み優しく揉み込む。 「んっ……ふ……」  ピクピクと足を震わせながら腰を引こうとする成瀬。  初めて恥部を高瀬に触れられ、恥ずかしいが、気持ちが良い。  成瀬はあっという間に体が欲情するのがわかった。  次第に水音がし始め、与えられる刺激がたまらない。成瀬は反った体を左手をで支えながら浮かせそうになる腰に耐えた。  成瀬の反応に高瀬は安心して、指を滑らせていく。成瀬が気持ちよく感じる場所を知りたい。 「どこが好きだ?」 「ふぇっ?」  高瀬は聞くのが当たり前だと言うように真面目な顔で成瀬を見る。成瀬の顔は羞恥に染まった。  これも文化の違いか。 「言ってくれ、ここか?」 「あんっ……や……」 「嫌か」 「ちがっ……」 「どっちだ」  熱を帯びた目で成瀬は懇願するように高瀬を見るが、言葉に出来るほど勇気はない。息を荒げて腰を浮かすしか出来なかった。 「わかった」  高瀬はそう言うと、手の動きを早めて成瀬を絶頂へと誘う。 「あっ……ぁっ……だめ……いく……シ……ンさ……あっぅんんっ……」  成瀬の出したものを手で受け止め、高瀬は充満する雄の匂いに鼻をひくつかせた。ギュッと手を握り、自分の下半身を治める。満月でなければ理性は効く。  息を切らす成瀬を見て、頬を撫で、口付けた。  クチュクチュと口内を蹂躙してやれば、成瀬の手が高瀬の手をまた自身へと導いていく。 「もういっかい……」  濡れた唇で成瀬はねだる。 「足りないか……」  インターバルも無く、すでにしっかり固さを取り戻している。  高瀬はもう一度握りながら、若いなと心のなかで笑った。  右手の負担にならないよう、成瀬の右側に座って左手で肩を抱いた。 「はぁっ……はぁっ……ぁ……もう、無理……」  そう言って成瀬がベッドに横たわったのは、それから何度も求められ、繰り返した後だった。高瀬は苦笑しながらベトベトになった右手を振る。  多少手首に痺れを感じる。  クッタリとした成瀬は、それでもまだ余力があるかのように、綺麗な色の肌がハリを持っていた。 「元気だな……痛みはないか?」  自分の欲はため息で流し、手を洗おうと立ち上がると、また成瀬に掴まれた。 「離れないでください」 「手を洗ってくるだけだ。あと、何か拭くもの。お前もベタベタだ」 「やだ……」  口を尖らす成瀬に、高瀬はつい笑ってしまった。成瀬はムッとしながらも瞼の重みを感じているようだ。 「寝ろ」 「眠るまで、撫でててくれますか」 「……わかった。そばにいる、安心して眠れ」  高瀬はそう言うと、成瀬の頭を撫でる。優しく、愛おしく。  暑い湿った空気から、涼しくなってきた風が、窓から吹き込んできてカーテンを揺らす。  安心しきった成瀬の寝顔を守りたいと、高瀬は切に思う。

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