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第6話 料理バトル、ピンチには服を脱ぎ舐めさせて解決する 〜ブラックカウのカル釜焼きマフマフの香りの
料理対決に参加をするのは、商店街にある四つの飲食店。
老舗旅館の流れを汲む小料理屋、古い喫茶店、最近オープンしたデザートビュッフェが人気のカジュアルレストラン、そしてバルドバールだ。
狩りで取ってきた、ブラックカウの肉を使ったソーセージは試作もして、蓮もそれに合わせたサングリアを作っている。
ソーセージとサングリアのマリアージュも良かった。
満を持して挑んだ当日だ。
しかし、会場に来てからバルドの様子がおかしい。
「おい、歩き方が変だ。右手と右足一緒に出すな」
「あ……え……あぁ……」
わかりやすく緊張している。
それもそのはずで、商店街のちょっとした客集めだったイベントに、テレビの取材が入っていたのだ。
会場は予想以上に盛り上がっていて、カメラも各店の調理台に一台づつ設置されている。
「バルド、しっかりしろ。テレビで取り上げられれば、店の知名度も上がってかなり繁盛する。ここが見せ場だぞ」
「わかってる、わかってる、わかってるわかってるわかってる……」
「怖い怖い、バグんな」
わかりやすく緊張で目がグルグルとしているバルドに、蓮は呆れ果てる。
周りを見れば、他の店もテレビ取材に俄然気合を入れてきているようだ。
特に、最近オープンしたレストランのシェフ、薫は、元々派手な外見を更に煌びやかなコック服でキメていた。
見ていて恥ずかしくなるくらいの自信家だと蓮は思う。
観客席には、チェシュと志岐も応援に来ていて、バルドの様子にチェシュは笑っていた。
蓮はバルドの料理補助として一緒にステージにいる。もちろん、補助をするのはワインだけだが。
(しかしなんで急にテレビ取材なんか……)
ガチガチに固まって、耳を伏せて座っているバルドの頭を、蓮は優しく撫でてやった。
尻尾は股の間に挟みたいのだろうが、座っているから出来ないでいる。
しょぼんと椅子から垂れ下がった尻尾を見て、こいつにも弱点があるんだなと少し可哀想に思った。
『さてさてやってまいりました、商店街の人気飲食店対抗、料理バトル!私、ヤッチャ放送のアナウンサー、パルパルが実況を担当させていただきます。まずは、各店舗のインタビューから参りましょう!』
実況を担当するというパルパルは、そこそこ人気のあるアナウンサーだ。
もちろん蓮もテレビで見たことがある。
(こんな普通の商店街に、この知名度のアナウンサーが来るなんて誰かコネでもあるのか?)
蓮の疑問はすぐに解決した。
『さて、次は薫さんのお店ですね。今日は素敵なお衣装です』
「ありがとうございます。いやぁ、地元の商店街が賑わえばと思って声をかけてみたら本当に取材に来てくれるとは。嬉しいですよ」
(お前かよ!だからそんな眩しいコック服まで作ったのか!)
薫の虚栄心に、蓮は心の中で全力のツッコミをする。
「つ……次だ……来る……」
「あ?」
蓮が撫でる手の下で、プルプル震えていたバルドは呟くと、ゆっくり立ち上がった。
深呼吸をして落ち着こうとしているのだろうが、鼻息は荒い。
頑張れと、蓮はバルドの背中をぽんぽん叩いてやった。
『お次はバルドバールのバルドさんですね。今回はどのようなお料理を?』
「き、今日っ!つ……作るのは、な、な、内蔵です!」
(おいっ!)
蓮は後ろからバルドの背中を叩く。
『え?……あ、えっと、資料によれば今日は挽肉を使うとか……?』
「は、はいっ!こ……このミンサーで粉々にします!」
ーメキョッー
鼻息荒く、ミンサーを持ち上げたバルドは、その勢いで調理道具を潰した。
目を見開いて、何も言えなくなるパルパルと蓮。
『……あ、そろそろ開始時刻ですかね。各店舗気合いが入ってます!これは楽しみです!』
パルパルは、そう言って実況席まで歩きつつ、会場を煽り盛り上げていた。
「バ……バルド……お前……」
やっと声を出した蓮は、すぐに代わりのミンサーを入手する方法を考えるが、見当もつかない。
ミンサーという特殊な調理道具は近くの店では買えないからだ。
「蓮……俺……うまくインタビューできてたか……」
「それどころじゃねぇよ!!」
いまだに目をグルグルさせているバルドに、バルドの手の形でへこんでしまったミンサーを見せる。
「どうすんだよ!これ!」
「え……わっ……なんで……え……えぇ……どうしよ……」
ヘナヘナと座り込むバルドは、いつもの半分くらいの大きさに見えた。
「大丈夫かい?なんかトラブル?まぁ、今日は良いバトルをしよう。バルドバールさん」
そう言って声をかけてきたのは、薫だ。
バルドに握手をと手を差し伸べるが、応答が無くてゆっくり手を引き戻した。
(くそ、こっちはそれそころじゃないんだ。あ、いや待てよ)
「あの、薫さん。ミンサーを貸してもらえませんか。これが無いと今日の料理が作れないんです」
「ん?あぁ君が高嶺のソムリエと呼ばれてる蓮くんだね。視線だけで酔っちゃうと女の子達が噂しているよ」
「え?あ、まぁ、そうなんですか……」
蓮は握手を求められ、表情では照れながらも、腹の中では当たり前だとほくそ笑みながら薫の手を握った。
「で、ミンサーだね。残念だけどうちの店は挽肉で仕入れているから、ミンサーはないんだ」
「そう……ですか……」
「かわいそうに、今日はバルドさんの料理と戦えると意気込んできたんだけど、仕方ないね。」
残念だと薫は表情を暗くして握手を離すが、そっと蓮にだけ耳打ちをしてきた。
「優勝と客と人気は僕がもらっていくよ」
(はぁぁぁぁぁあっ?????)
ニヤニヤと笑いながら自分の調理台に戻っていく薫の背中に、蓮はゴンの実を投げつけたくなった。
「おい、バルド!あんなん言われて悔しくねぇのかよ!」
「あ?あぁ、そうだな……あぁ……なんで俺は……緊張に弱いんだ……」
「へこみ過ぎだろ!良いから、今できる料理を考えろ。もう始まるぞ」
バルドを立たせようとするが、蓮の力では到底無理だった。
「あぁもう、なんか……ないか……」
蓮は周りを見渡すが、観客席の最前列で笑い転げるチェシュしか目に入らずイラついた。
『さぁ!それでは、料理バトル開始です!』
ピィーと開始の笛が鳴らされ、各調理台のシェフ達が動き出した。
バルドは笛の音にゆっくりと立ち上がり、食材を見渡すがまたゆっくりと座り込んでしまった。
「お、おいバルド!」
「ダメだ、何を作ればいい。挽肉にできなければ何も始まらない……」
深いため息を吐くバルドに、蓮は何も言えない。
『各店舗一斉に調理に取り掛かりました。最初はみんな食材を切るところからですかね。包丁さばきが美しいです』
パルパルの実況の通り、他の店はどんどんと調理を進めている。
観客も、各店ごとの応援で盛り上がっているが、バルドバールだけは沈んでいる。パルパルも気を遣ってか、全く調理を始めていないのに触れてこない。
(このままではただの笑い者だ)
蓮は並ぶ食材を見ながら焼いたらどうか、煮込んだらどうかとバルドに話しかけるが、反応は薄い。
蓮にできる事はバルドの料理にワインを合わせる事で、食材を見ても何がどう美味くなるのかはよくわからない。
特に突拍子もないバルドの料理なら尚更だ。
(本当によくあんな料理思いつくよな)
蓮は目の前でへこんでる男を感心しつつも何もできない自分に憤りを感じた。
(何か……俺にできること……ワインでも飲ませるか?何かヒントに……いや、ヒントか……そうだ)
閃いた蓮は、下を向くバルドの顔を上に向かせた。
『おっと、バルドバールさんに何やら動きがありましたね。料理開始前に調理器具が壊れたとのことでしたが、解決策が見つかったのでしょうか。いや、ちょっと揉めてますか?』
パルパルが実況を入れたことで、客の視線が集まったが、関係ないと、蓮はおもむろにベストとシャツを脱ぎ捨てた。
「キャー!!」
女達が黄色い声をあげている。
『あ、えっと……これはどういうパフォーマンスでしょうか。バルドバールは裸で調理をするのか、何かの気合い入れでしょうか』
「蓮?何を……」
「舐めろ」
「え……今?」
「今だ。舐めたら何か思いつく。違うか?」
「………………じゃあ」
バルドは立ち上がり、蓮の肩を掴むと、胸から鎖骨へ舌を這わした。
「んっ……」
『ば……バルドバールさん……?あっ!おおっと!薫さんのフライパンから火柱が上がっています!これはすごいパフォーマンスだ!』
パルパルは、蓮を舐め出して客を絶句させたバルドから、上手に薫へと客の視線を誘導した。
バルドは、蓮の肌に舌を乗せるたび体に何か燻るものを感じた。
「蓮、今日はなんか匂いが違うな……」
「何……んはっ……あぁっ……」
「ここ、乳首も……すごく固い……」
「あ……あぁっ……噛むな……」
「なんで、いつも噛めって……」
「んっ……今は感じてる場合じゃ……あぁんっ……」
蓮は身を捩りながら、とろけたような表情を会場に向けてしまう。
それを見た観客の数人はヒュッと息を呑む。
バルドは乳首がダメならと蓮の体をくるりと回して、調理台に手を付かせ背中のホクロを舐める。
「んあぁっ……そこ……ぁ……」
蓮はホクロの快感に背を反らしながら喘いで、その顔を観客に披露した。
特に真正面に座っていたチェシュと志岐には何の障害物も無く見えてしまっているだろう。志岐は真っ赤に顔を染め、しっかりと足を閉じて俯いてしまった。
(童貞には刺激が強いか。バルドエロいもんな……)
そんなことを思っていると、バルドの舌が腰骨まで降りてくる。
「あっ……そこ……あぁっ……だめ……気持ち、良い……」
蓮が喘ぎながら、調理台にもたれていくと、隣の調理台がざわついた。
『おおっと、薫さん、フライパンの中身をこぼしてしまったか、隣の調理台に意識を持って行かれたようです。隣は……あ、、、、、、』
薫が蓮の顔に息を呑み、パルパルが実況を続けられなくなる。蓮は今更ながら自分のやっていることに羞恥を感じ始めた。
「バ……バルド……まだか……?」
「もう少し……蓮……なんだこの匂い……」
バルドがいつもより興奮した様子で、蓮のうなじに鼻を擦り付ける。フンフンと匂いを嗅ぎながら、噛みたいと呟いた。蓮は悩むが、小さく首を縦に振る。
「んんっ……」
軽く噛まれ、ゾクゾクとした感覚に、蓮は震えた。そんな蓮を見て、ゴクリと喉を鳴らすバルド。
「もう一回……」
「おま……見られると興奮するタイプか?」
「何がだ……この香りたまらない……」
「ちょ……っと待て……今は……」
さっき噛まれたゾクゾク感が消えないままもう一度噛まれたらどうなるのか、蓮の中で快感を得たい気持ちと、ここではダメだという理性とが戦っていた。
「待てない……あぐ……」
「んんんっ……あっはぁっ……ぁっ……ぁっ……」
バルドは蓮の静止も聞かずにうなじに歯を立てた。
全身を駆け巡るような痺れに蓮は嬌声をあげて調理台にしがみつく。
快感が落ち着くと、そのままズルズルとしゃがみ込んでしまった。
会場でも、何人かが蓮と同じようにしゃがみ込んでいる。
バルドは息切れをする蓮を抱き上げて椅子に座らせ、目線を合わせると、ニカっと笑った。
「蓮、良いのを思いついた。蓮の香りがヒントだ」
そう言って、バルドは胸元から乾燥したマフマフを取り出した。
サッと調理台に向かう背中を、蓮は息を切らしながら見送って、それを格好いいと思ってしまった。
バルドはブラックカウの塊肉に、マフマフを細かくして振りかける。
次に魔鳥卵の白い部分だけを使って泡立て、カルを大量に混ぜていた。
「おい、そんなに入れたらしょっぱいぞ」
「いいんだ。これは食べない」
「はぁ?」
蓮はよくわからないと思いながらも、バルドのすることならと調理を見守った。
バルドはその大量のカルで、ブラックカウの肉をマフマフごと包みオーブンに入れた。
じっくり火を通すのだろう。
オーブンの火加減を魔法で細かく調節している。
その真剣な表情に蓮はゴクリと唾を飲み込んだ。
(こういうところ、ほんとずるいんだよ)
焼き上がったカルの塊に、バルドは満足そうに笑う。
『おぉっ、ソムリエとシェフがイチャついていただけのバルドバールさん、何やら白い塊が焼き上がりました。これは一体……』
パルパルが、やっと普通に実況できるとバルドに注目すると、バルドはその料理に向かって拳を振り上げ、叩き割った。
「はぁっ?!おま……何やってんだよ!!」
せっかく焼けたものを粉々にするなんて、今度こそ食材も無いのにと蓮は焦るが、バルドはニコニコとカルの中から肉を取り出した。
その瞬間、とても香ばしく、青々とした空気に包まれたような香りが会場に充満した。
『これはっ!すごくいい香りです!なんの肉を焼いたのでしょうか。資料にはブラックカウとありましたが、あの臭みの強い魔物の肉がこんなに美味しそうな香りをさせるとは……私、とてもお腹が空いてきました~』
パルパルが、観客達の思っていることを代弁する。
「蓮、端だけしか味見させてやれないけど、食ってみろ」
バルドが切り出した肉を口に入れられ、蓮は驚いた。ブラックカウの臭みはなく、マフマフがいい香りづけをして、カルで包んだからかしっかりと肉に味がついている。何よりもすごく柔らかく、優しい。
「うまい…………これ……すご……」
とんでもない料理だと思ってからの味の優しさに、蓮は呆けてしまった。
「これに、ワインを付けてくれ。持ってきたものでどうにかできないか?」
「あ、そうだな……えっと……」
蓮はサングリアにする前のスーハのワインを取り出す。
「それと……ペティナイフ借りるぞ」
「あぁ」
バルドが肉を切っている横で、蓮はルルカの実をカットする。
グラスに氷を入れ、スーハのワインを注いで、ルルカを少し絞ってから中に飾りとして浮かべた。
「バルド、これでどうだ」
蓮の差し出すグラスを持って、一口飲んだバルドはニヤリと笑う。
「赤が来るかと思った」
「この優しい肉の味にはさっぱりと飲める方がいいだろ」
「そうだな。ルルカのおかげか、後味が肉の旨みと相まって華やかになる」
「だろ?優しいだけじゃない、マリアージュの完成だ」
蓮とバルドが目を合わせて笑い合い、会場からはまた黄色い歓声が上がって、数人倒れたという。
料理バトルがテレビ放映された次の日。
「どうしてバルドバールはカットされてるんだ!優勝したのは俺らだぞ!」
蓮は開店前のカウンターで項垂れていた。
「しょうがないにゃん。蓮さんがセンシティブだったからだにゃ~」
「はぁっ?俺はバルドの危機に体を張ってだな!」
料理バトルは夕方のニュースのたった15分の特集で、簡単に紹介されていた。
内容は主に薫の自慢で、バトルの様子はダイジェストでほんの少しだけ映っていた。
チェシュのいう通り、蓮の苦肉の策が放送倫理に引っかかったようだ。
「でも、蓮さん、格好良かったです」
志岐が小さな声で呟く。
「俺か?バルドじゃなくて?」
「はい。俺……蓮さんに童貞捧げたい……」
「はぁ?」
「にゃにっ?!」
「あ……言っちゃった……」
志岐は頬を染めながら、バックヤードに入っていく。蓮はなんのことかと志岐の背中にはてなを送った。
その横で、チェシュは蓮にじっとりとした目線を向けてくる。
「なんだよ」
「オーナーなら簡単に勝てると思ったのに、ずるいにゃ!」
「俺のせいじゃ無いだろ」
「志岐の童貞は私がもらうんですにゃ。手を出さないでくださいにゃ!」
「へぇ~、でもそれは、お前が決めることじゃないよな」
蓮は、志岐に特別な感情を持っているわけではないが、チェシュを揶揄うようにニヤリと笑ってやった。
「望むところですにゃ……」
チェシュは売られたものは買うというように蓮に笑い返す。
「おい、店開けるぞ」
バルドの声に、チェシュと蓮の睨み合いは終わり、それぞれ動き出した。
スッとカウンターに入ってきて蓮を捕まえたバルドは、首筋に鼻を付け、スンスンと匂いを嗅ぐ。
「なんだよ」
「いや、いい香りだからな」
バルドは爽やかに笑うが、やってることはセクハラに近いのでは無いかと蓮は首筋に手を添えて志岐のように頬を染めた。
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