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第8話 自覚したライオン、気持ち良くする宣言でも料理する 〜プンランの実入り茶碗蒸し〜
蓮はワイン蔵でボトルの様子を見ていた。
温度を見て、ボトルを軽く拭き、しっかりと管理している。
真面目に仕事をする蓮は、スマートでクール、近寄りがたいけど格好良いと、宮廷では評判だった。
そして今も、立派なワイン蔵を任される自分の姿に酔っている。
その背中に、大型のライオンの獣人がくっついている以外は。
「なぁバルド。マフマフ買ってやろうか?」
「いらない。蓮の匂いで良い……」
「あのさ、もう自覚しても良いと思うんだけどな」
「何を?蓮の仕事か?よくやってくれてる……あぁ、今日もいい匂いだ……ふん~……ふぅ……ふぅ……んんん……」
バルドの息遣いが荒くなって、肩に置いている手の力が強くなってきた。
「…………仕事前だ。興奮すんな……」
「はぁ……はぁ……あぅん……噛みたい……あぁ……いや……」
蓮の言葉は聞こえていないのか、バルドは匂いを嗅ぎながらブツブツと呟いていた。
「ちわーっす!!コヨーテガーデンで~す。おーい、バルド~?」
厨房の裏口から綺麗に通る青年の声が聞こえた。
「おい、八百屋来たぞ。離れろ。受け取りに行け」
「わかった……」
バルドは蓮を小脇に抱えると、ワイン蔵を出て裏口に向かった。
「おぉぉぉいっ!俺はまだ作業してる!離せ、降ろせ、どういうつもりだ!」
こんな格好で運ばれているところを見られてたまるかと、蓮はバルドの腕の中で抵抗するが、びくともしない。
「クロップ、待たせたな」
「あぁ、なんだこっちにいたのか。え、それ何?ソムリエ君、何かしちゃったの?」
後ろから声がしたことにピクリとコヨーテの耳を動かしてクロップは振り向いた。そして、バルドの小脇にいる蓮を見てクスリと笑う。
「何もしてませんよ。離してもらえないんです」
蓮はムスッとしたままバルドの腕にぶら下がっている。
「ふ~ん、バルドも独占欲強いもんな」
「何がだ?」
「何がって、ソムリエ君の事、好きなんでしょ?」
「はっ?えっ?好き?」
「うん。公衆の面前で求愛してたじゃん」
「き、きき求愛っ?!そんなこと……」
ードサッー
バルドの腕から力が抜け、蓮が地面に落ちた。
「いってー、バルドてめぇ、何してくれてんだよ!」
「あ、あぁっ、悪い。大丈夫か」
慌てて蓮を気遣うようにバルドはしゃがみ込んだが、その顔にはドッと汗を掻いていた。
「えっと……もしかして、無自覚か?」
クロップが苦笑しながらバルドを見る。バルドはわかりやすくまた目をグルグルとさせていた。
「…………クロップさん、求愛ってなんですか」
蓮はバルドの様子にため息を吐きながら立ち上がると、クロップの言っていた言葉を聞き返す。
「え、ソムリエ君もわかってないの?」
クロップはマジかと呟きながら、説明してくれた。
「獣人が首筋やうなじに噛み付くってことは、誰にもその人を渡さないって意味で、昔からの求愛の儀式なんだよ」
「そ、そんな破廉恥なことっ!俺はしてないぞ!」
バルドはクロップの話を聞きながら必死に否定する。
顔は真っ赤になっていて、まさに恥ずかしいと書いてあるかのようだ。
「いや、してたから」
「はっ??ほ……本当か……」
蓮がサラッと言ってやれば、バルドはさらに取り乱す。
「あぁ、ついでにお前、首筋の匂い嗅ぎながら何度も噛みたいって呟いてるからな」
「~~~~~っ!!」
バルドは立髪から火が出そうな程逆立てて、その場にうずくまった。
「あ……これはしばらく再起動できないね」
クロップはバルドの様子に、後頭部を掻きながらグレーの尖った耳を伏せた。
「あー、納品のサイン。俺しますよ」
蓮はクロップの持ってきた野菜に目を向け、仕事を進めようとする。
「そうだね、勝手に厨房に運んじゃったんだ。確認してくれる?」
外でうずくまっているバルドをチラリと見て、二人は厨房へ入っていった。
クロップが持ってきた野菜は瑞々しく綺麗でどれも美味しそうだ。その数を一つ一つ確認していく。
「それから、ゴンの実とカラランはいつも通りね。あとね、ちょっと変わったのもあったから持ってきてみた」
全ての野菜を検品し終えたあと、クロップはプンランの実を取り出した。
「臭っ……」
思わず蓮は顔を背けたが、クロップは取引業者だ。失礼だったかと謝り、クロップに向き直る。
「いいよいいよ。人間には臭いんでしょ。でも上手に加工すると美味いんだ。バルドに何か作って貰えばいい」
「これが……」
「滋養にも良いんだよ。バルドの相手は体力いるんじゃない?」
「………………」
クロップが何のことを言っているか蓮は察したが、イラついた顔しか返せなかった。
「え、なに、あれだけやっておいて、あいつまだ童貞なの?」
「そうですよ。良い加減堕ちてほしいんですけどね」
「いや、もう堕ちてるでしょう」
「え?」
「獣人が無意識にうなじ噛むって本能だからね。本能レベルで好かれてるんだよ」
「…………じゃなんで手を出して来ない……」
「ふふっ、ソムリエ君の目的はそれなの?童貞バルドに寄り添ってくれてるわけじゃないのか」
「俺は欲求不満なんです」
蓮の言葉に、クロップは少し眉を下げ、ふさふさの尻尾を揺らした。
「そっか、できたらバルドのこと幸せにしてあげて欲しいんだけど」
「それは、俺が決めることじゃないですよ」
蓮はクロップの言葉に首を傾げながら、裏口から入ってきたバルドを見る。
もう正気に戻ったようで、クンクンと鼻を鳴らしていた。
「プンランの匂いがする」
「うん。持ってきてるよ。また庭で火起こして爆ぜさせないでよね」
「何年前の話だ」
バルドはクロップの野菜を見て、満足そうに口角を上げた。
「いつもありがとな」
「いいえ、大事な親友の為だからね。今日は、恋路もちょっと進められたかな」
パチンとバルドにウィンクを投げたクロップは、背伸びをして耳打ちした。
「本能が好きって言ってるなら、突き進めばいい。ただし、ソムリエ君の気持ちもちゃんと確認してから次に進むんだよ?」
「つっ……さっ……くっ……ほんっ?」
「落ち着いて、恥ずかしいことなんてないから」
「~~~~~~~」
バルドはまた、フリーズして丸椅子に座り込んだ。
「ははっ、ダメかもね、これは。頼んだよ、ソムリエ君」
クロップはバルドの頭をポンポンと撫でてから裏口から出ていった。
(ダメかもね、で置いていくなよ)
蓮は目をグルグルとさせているバルドに、鼻をつまみながらプンランの実を差し出した。
「これ、どうにかしてくれないか」
「ん?……あぁ、臭いか。わかった」
動揺しながらも、バルドはボールに水とカルを入れて、プンランの実を漬けた。
「しばらくすれば、臭い果実の部分は溶ける。種を割って中身を使うんだ」
「へぇ」
じゃあ片付けるかと、蓮は野菜を食糧庫へと運び出した。バルドは、蓮へ視線を向け、また他を見ては蓮に視線を戻すを繰り返しソワソワとしていた。
その日の営業中、蓮はバルドと一度も目を合わせてもらえなかった。
閉店後、チェシュに笑いながら何があったのか聞かれ、蓮は渋々質問に答えた。
「もう、襲っちゃったら良いにゃ」
「何度もそうしてる」
「にゃっ!?って知ってるけど……」
「は?」
「ふにゃっ?蓮さんオーナーの匂いすごい付いてるにゃん」
「……マジかよ……だから女が寄って来ないのか?」
「それは知らないにゃん」
またしても衝撃事実をチェシュから聞かされる。
蓮は自分の袖の匂いを嗅ぐが、全くわからない。横
から志岐も蓮の匂いを嗅いでくるが、わからないと首を振った。
「獣人の鼻にはわかるにゃん。最後まで出来て無いのも知ってるにゃん」
「あ、お前、料理バトルの時バルドが噛んできた事の意味も分かってたな?なんで教えないんだよ」
「にゃ~?噛まれてたのかにゃん?あの時は可愛い志岐しか見てなかったにゃん」
「やめてください……」
志岐には、あの一件から蓮への告白の流れが、黒歴史として残ってしまったようだ。蓮はそっと目を伏せ、志岐の肩を叩いた。
「でも……童貞にそんな急に要求されても……シェフは知識もなさそうだし……」
「…………志岐、お前、女の抱き方分かってるのか?」
「へっ?」
「何を聞くにゃん!」
「あ、いや。知識って、俺は初体験で全部知ったからな。そうか……確かにそうだな……」
蓮はやけに志岐の言葉を納得できた。
(文化の違いでバルドはずっとマッサージだと思ってた。それを急に性的に意識するのは恥ずかしいだろう。本能だと言われれば尚更……なるほど、可愛いじゃねぇか)
ニヤリと笑った蓮に、チェシュは志岐の目を覆って、タイムカードを切り二人で帰っていった。
蓮が厨房に入れば、足音でわかったのか、バルドの肩が跳ねた。その反応に、蓮は可愛いと笑って足を進める。
「バルド……」
コンロに向かうバルドのすぐ後ろから抱きつき、甘く囁く。
バルドの息が、心音が速くなっていくのがわかった。ジリジリとコンロの火が大きくなっていく。
「落ち着け……バルド、俺は……お前に抱かれたい……」
ーゴオォォ、パンッパンッー
「え、おいっ!火っ!」
聞きなれない音に、蓮がバルドの手元を見ると、火柱が上がっていて、何かが爆ぜていた。
「あっ、あぁっ、消さないと」
バルドが手をかざすと、シュウゥッと火は小さくなり、消えた。
「わ、悪い……火を使ってる時にいう言葉じゃなかったな」
「い、いや、う、れ、し、か、った……」
「自動音声かよ」
蓮が呆れてバルドから離れ、調理台にもたれると、バルドは振り向き真剣な目で蓮を見た。その目に、蓮は背筋を伸ばして、言葉を待つ。
「す……好き……です……蓮……」
煙が出そうなほど顔を真っ赤にして、バルドは言葉にした。
言葉にしてからの鼻息がすごい。
蓮はクスリと笑い、バルドに両手を広げる。ゆっくりと近付いて来たバルドが、蓮を抱きしめた。
「やっとわかったか、バルド……」
「あぁ、蓮の香りがたまらない……蓮!」
バルドは蓮を抱き上げ、頬擦りをし、耳を舐めながら歓喜に跳ね回った。
「んぁっ……も……ちょっ……くるし……落ち着けっ!」
ドスンドスンというバルドの足音に、蓮は体を振り回されながらしがみつき、声を大きくする。
ピタリと止まったバルドは、突然シュンと肩を落として蓮をおろした。
「あ、いや、そこまで嫌だったわけじゃない」
「違う、蓮の体は大事にしなきゃいけない」
「え?」
「俺が興奮したまま、蓮をだ……だ……抱け……ば……だ、抱くっ?!」
バルドは自分の言葉に、また目を回し始めた。蓮はバルドの頬を両手で挟み、ジッと目を見つめる。
「落ち着け童貞、話を続けろ」
「蓮を、壊すかもしれない……」
言われた言葉は、蓮の心にジンと響いた。
「……バルド……」
獣人の力は強い。
特にバルドはライオンだ。
力加減はいつもしてくれているが、ふとした時にレンガも握り潰している。
興奮した自分に自信がないのだと言う。
(なんだよそれ、可愛いじゃねぇか)
「それはつまり、俺の身体に理性が効かないってことか。いいぜ、バルド。好きなだけメチャクチャにしろよ。全部受け止めてやる」
フッと蓮が笑えば、バルドの目が変わった。
濃い金色に光る鋭い獣の目に、蓮はゾクゾクする。
強い力で壁に押し付けられ、首筋に興奮したバルドの息を感じた。
「んふ……舐めろよ……噛んだっていい……」
「蓮を……気持ちよくする……」
そう言うと、バルドはいきなり蓮のベルトを外して、ズボンを脱がせた。
驚く蓮だが、バルドがしゃがみ込み、蓮のパンツの前で脱がす勇気を出しているのがわかると、無性に可愛くなって頭を撫でてやった。
「ははっ……バルド、脱がせて、触ってくれ……」
「ふぅふぅ……だめだ、蓮……後ろを向いてくれ……」
「あ?……早速後ろから攻めるのか?」
「いや、やっぱりフンポダケみたいに引きちぎりそうだ……」
「……それは……困る……」
バルドの警告に、蓮は大人しく後ろを向く。
膝までパンツが下されると、プリンとした蓮の尻がバルドの目の前に現れた。
バルドはゴクリと唾を飲んで、尻に触れる。
「んっ……」
「柔らかい……」
顔を近付ければ、濃い蓮の匂いがした。そっと舌を這わしてみる。
「んぁっ……あぁっ……」
「甘い……ホクロとは違う甘さ……柔らかくて溶けそうだな」
勢いで噛みたくなるが、グッと我慢して、尻の柔らかさと甘さを舌で堪能する。
「あぁんっ……気持ち、良い……バルド……前も……触って……」
蓮は壁に手をつき、切なく勃ち上がりかけた自身に刺激が欲しいとバルドに懇願する。バルドは、前に手を回して蓮のシャツをたくし上げ、乳首に触れた。
「あぁっ……はぁんっ……んっ……そこじゃない……」
「え?」
「下だ」
蓮の言う意味がわかったのだろう、バルドはゴクリを唾を飲み込むが、ギュッと手を握って首を振った。
「ダメだ、引きちぎる。それに……蓮の尻がたまらない……柔らかい……あぁ~噛みたい……」
「はっ、噛めよ」
「いや……あ、でも……ふっ……ふぅっ……いくぞっ……」
悩みながらバルドの歯は当たった。そのまま、バルドはグルッと喉を鳴らして、何度も優しく歯を当ててくる。
バルドの尻尾が蓮に巻き付くように回ってきて、膝に当たる感触もくすぐったく気持ちがいい。
「んんぁっ……あはっ……」
蓮は腕の力が抜けていき、壁に持たれつつ尻を突き出すような格好になっていく。快感で、膝が震え出していた。
「はぁ、蓮……これ……この感触……舌触り……あ、乳首も……硬い……尻は柔らかい……あぁ、たまらない」
バルドは興奮気味に、何かを確認するように乳首を触り、柔らかく押しつぶして硬さを楽しむ。
「あぁぁぁっ……やっ……だめ……だ……」
蓮の身体が急に震え、ズルズルとへたり込んでしまった。
「あ、蓮!大丈夫か?」
バルドはすっかり力の入らなくなった蓮の体を抱き上げ椅子に座らせた。
「悪い……気持ちよすぎ……ベッド、ベッドで続き……」
二階の寝室に連れて行ってくれと、蓮は興奮してバルドに潤んだ目を向ける。
「落ち着け、俺の方こそ強くして悪かった……興奮した……」
バルドはギュッと蓮を抱きしめ、首筋に鼻息をかけては匂いを嗅いでいる。
まだ出しっぱなしの尻に手を持っていき、揉み込むように触って、さらに興奮していった。
「んあぁっ……バルド……その手……気持ち……いい」
「あぁ、蓮……たまらない……尻の柔らかさ…………あ、そうか」
「あ?バルド?……ベッド……連れてって……」
「ん?その前に、蓮の尻で思いついた。いいものができそうだ」
(は?)
バルドはボールに魔鳥卵をかき回し、キャンとフルンで作り置きしてある出汁を加えた。
魔鳥の肉を切って、耐熱の器に入れたら、さっきのフライパンから爆ぜていた実を持ってきた。
「それ、プンランか?」
クロップが持ってきていた時とは見た目も変わっていたが、多少臭う。
(また臭いものを入れる料理かよ)
蓮は訝しみつつも、下半身が冷えてきたのでパンツとズボンを履いた。お決まりの展開に、もう言うこともない。
「まだ臭いか?」
「まぁ、多少な」
「これは、殻をむくんだ。そうすれば美味い実が出てくる」
「ふーん」
バルドはニコニコと硬そうな殻を素手で割り、剥いていく。
(この握力なら、引きちぎれるのかもな……でも、触らなきゃ始まらないだろ……)
蓮はバルドの手を見ながら、揉まれた尻の感触を思い出して身を捩る。
「んんっ……」
思わずもれた声に、バルドが視線を向けてきた。
「あ……バルド……」
物欲しそうな目を向ければ、バルドはニコリと笑う。
「もう少しで出来る。待ってろ」
(ちげぇよっ!お前、本当に自覚したのか?)
蓮はガックリと項垂れながら、バルドの調理の先を見届ける。
バルドは魔鳥とプンランを入れた器に、ボールに作った液体を入れる。
湯を沸かした鍋に底上げをしてその器を並べていった。
「これで少し待てばいい」
「何してんだ?器ごと茹でてんのか?」
「いや、湯気の中で火を通してる」
「ん?」
「上手くいけば、蓮の尻みたいな、柔らかくプルンとなると思うんだ」
「あーそう」
蓮の尻と言われて、この展開はいつまで続くのか、永遠に抱かれずに料理のアイデア出しマシーンにされるのではないかと蓮は閉口した。
シュンシュンという鍋の音を聞きながらしばらく待って、バルドは鍋を開けた。
「よし、良いな」
熱々の器ごと蓮の前に出され、スプーンを渡される。器の中には、黄色く固まったものが詰まっていて、この中に臭いプンランが入っていると思うと、蓮のスプーンは一瞬躊躇する。
「よし、食べるぞ……」
蓮がスプーンを入れれば、プルッと中身が動く。口に入れたら、その滑らかさに驚いた。
「や……優しい……舌触り溶ける……鼻に抜ける出汁の香りが最高だ」
「そうか、プンランはどうだ?」
「ぅ……じゃあ……」
器の中からプンランを探し出して、口に運ぶ。強烈な臭いを覚悟したが、噛み心地が柔らかく、プリッとしてから、ほくっとした食感に変わって、ほのかな甘みを感じた。
「うわ、美味い……全く臭みがないな」
「そうだろ。人間は臭いと食べないから勿体無いんだ」
「お前も中々食べてくれないよな」
「ん?」
何がという顔を向けてくるバルドに、蓮は菩薩の顔をした。相手は童貞だ。
「いや、いい。これ、ワイン合わせていいか?」
「あぁ、頼む」
蓮はワイン蔵から、薄い赤色のワインを持ってきて、グラスに注ぎ、バルドに渡した。
「ゼクムのワインだ。かなり軽くて、ゼクムが香る。これなら料理の出汁の味を邪魔しない」
二人で一緒にワインを飲むと、その喉越しに、バルドが小さく笑った。
「良いな。ワインが軽いから、料理の滑らかさの余韻が引き立つ」
「最高のマリアージュだろ?」
「そうだな。やっぱり、蓮と食べるものはなんでも美味い」
「なんだよ。料理が美味いからだろ?」
「いや、美味いかどうかだけじゃない。パン一つでも、誰と食べるかで味は変わるだろ」
バルドに言われ、蓮は森で食べたバルドのパンを思い出す。質素だったがすごく美味かった。
(疲れて腹が減ってたからだけじゃないって言いたいのか?)
「バルド、もっと一緒にマリアージュ作ろうぜ」
蓮はバルドと目を合わせ、甘い視線を送る。バルドは、ニコリと笑いながら蓮を抱き寄せた。
「興奮する、蓮の匂い……」
「あぁ、俺も……」
バルドは蓮の首筋に顔を擦り付け、うなじを舐める。
「噛んでも、いいか?」
「あぁ……」
バルドの決意に蓮は頷き、噛まれる感触を待った。
「こんばんはっ、バルド、ちょっと飲みに行こうぜ!俺が恋とは何かを教えてやる。童貞卒業ももうすぐだ!」
「ふんぁっ!!!!」
勢いよくクロップが開けた裏口の扉に、バルドは飛び上がって蓮を突き飛ばす。
「うわっ!」
「わお、大丈夫?ソムリエくん」
突き飛ばされた先にいたクロップに抱き止められ、蓮はホッとした。
(壁にめり込むかと思った……)
「え、なに?ちょっと余計なお世話だった?タイミング悪い?ごめんね?」
ふぅふぅと顔を真っ赤にしているバルドに、クロップは全てを察したのか、耳をピクピク動かしながら軽く笑った。
「本当に、いいところでした」
蓮も、クロップの腕の中で不満そうに呟く。
「ごめんごめん。ていうかソムリエ君、軽いね。細いし……」
ギュッと蓮を抱きしめ、クロップは何かに誘われるように蓮の首筋の匂いを嗅ぎ始めた。フリフリと振られるクロップの尻尾の先が足に当たって地味にくすぐったい。
(え、何?俺なんかフェロモン出てんの?)
「クロップ!」
バルドの声がしたかと思ったら、蓮はバルドの腕に強く抱かれていた。バルドの尻尾はユラユラと揺れ、グルグルと威嚇するような声がしたら、クロップは両手を挙げる。
「ごめんごめん。ちょっといい匂いだったから」
「ダメだ、嗅ぐな。俺の蓮だ!」
(バルド……やっと言ったな)
強すぎるバルドの腕の中で、蓮は顔を擦り付け笑みを浮かべる。
「わぁお、そうか。嬉しいよ、バルド。ソムリエ君もありがとう」
そう言って満面の笑みで、クロップは尻尾を振りながら帰って行った。
蓮は薄くなっていく意識の中でそんな会話を聞いたかもしれない。
クロップを見送って、尻尾の揺れが落ち着いたバルドは、腕の中の蓮に顔を寄せる。
「蓮……続き……蓮?おい、蓮!」
バルドに強く抱きしめられ、蓮の意識は落ちていた。焦ったバルドの声を遠くに聞きながらも、蓮は少し満足だった。
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