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『親友の距離感、最初からバグってました』 匡 × 千隼 #3
##3
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夜。
ベッド。
ゲーム画面は、まだついたままだった。
リザルト画面。
負けたのは匡。
でも、コントローラーを放り出した本人は、全然悔しそうじゃない。
「千隼」
匡が近づいてくる。
ソファで肩が触れるくらい自然に。
昔から変わらない距離で。
ただ。
今は、その距離にちゃんと名前がある。
同居人みたいな親友じゃなくて。
一緒に帰る相手。
これから先も、同じ家でゲームして、飯を食って、寝落ちする相手。
「……何だよ」
千隼が少し身構える前に、匡のキスが落ちてきた。
「っ、ぁ……♡」
深い。
舌を絡められるたび、呼吸が熱くなる。
千隼は眉を寄せた。
「……長ぇ♡」
「千隼が逃げないから」
「逃がさねぇみたいにするな♡」
匡が笑う。
昔からだ。
こいつはゲームで勝った時も、こういう顔をする。
嬉しい時、隠せない。
でも今日は、負けたくせにこの顔をしている。
「お前、負けたんだから悔しがれよ♡」
「千隼が隣にいるから、まあいいかなって」
「勝負への敬意がない」
「あるよ」
匡が、千隼の額へ軽くキスを落とす。
「でも、千隼に触れる方が大事」
「っ……そういうこと、急に言うな♡」
「急じゃない」
匡は当然みたいに言った。
「さっきからずっと思ってた」
千隼の顔が熱くなる。
こいつは本当にずるい。
昔から、ゲームの合間みたいな軽さで、人生の真ん中に置くような言葉を言ってくる。
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「千隼、顔赤い」
「お前のせいだろ♡」
「かわいー」
「言うな♡」
額へキス。
頬へキス。
急がない。
それが逆に、落ち着かなくなる。
「……匡♡」
「ん?」
「今日、やたら甘くねぇ?」
匡が少し考える。
「久しぶりに二人でゆっくりゲームしたから」
「理由そこ?」
「大事だろ」
その言い方が、あまりにもいつも通りで。
千隼は力が抜ける。
たぶん、匡にとっては本当に大事なのだ。
ゲームをして。
くだらないことで言い合って。
リザルト画面を放置して。
そのまま隣にいる。
そういう何でもない時間が、匡にとっては恋の形なのだ。
「千隼」
「……何」
匡の指が、ゆっくり千隼の髪を梳く。
「こっち向いて」
その声が妙に優しい。
千隼が顔を向けると、またキスされた。
今度はゆっくり。
噛みつくみたいじゃなく。
確かめるみたいなキス。
「っ……♡」
指先が熱い。
匡の手が、千隼の腰を撫でる。
触れ方が、落ち着く。
悔しいくらい。
「……匡の手、安心する♡」
匡が止まった。
「それ反則」
「は♡?」
「嬉しくて理性なくなる」
千隼の耳が熱くなる。
「うるせぇ♡」
匡が笑った。
そのまま、千隼を抱き寄せる。
毛布の中へ引き込むみたいに。
「千隼、あったかい」
「お前がくっつきすぎなんだよ♡」
「充電中」
「ゲーム機みたいに言うな♡」
でも。
振り払えない。
匡の匂い。
体温。
胸へ耳を押し付けると、心臓の音が聞こえる。
昔から知っている音
ゲームセンター帰り。
寝落ちした夜。
泊まり込みで攻略した休日。
千隼の家のソファ
匡が勝手に飲んだ麦茶。
二人分になった歯ブラシ。
全部思い出す。
「千隼」
匡の指が、ゆっくり奥を撫でた。
「っ♡ ぁ……♡」
優しい。
なのに、ちゃんと気持ちいい。
「……ん♡」
「千隼、力抜いて」
その声だけで、身体が緩む。
悔しい。
昔からこの声に弱い。
「っ♡ 匡のせいで、変になる♡
「うん」
「否定しろ♡」
匡が吹き出した。
「無理」
また奥を撫でられる。
「ぁっ♡」
びく、と肩が震えた
匡が嬉しそうに目を細める。
「千隼、かわいい声」
「だから言うな♡」
「だって俺しか知らないし」
その言葉に、胸が熱くなる。
俺しか知らない。
昔からずっと。
こいつはそうやって、自然に特別扱いする。
「……匡♡」
「んー?」
「お前、ほんと昔からそういうとこある♡」
「そういうとこ?」
「俺を、当たり前みたいに特別にするところ♡」
匡の目が少し丸くなる。
それから、嬉しそうに笑った。
「だって千隼だし」
「またそれかよ♡」
「うん」
匡は千隼の指を絡め取る。
「千隼だから」
それだけ。
たったそれだけなのに。
千隼は、どうしようもなく満たされてしまう。
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匡のキスが、少しずつ深くなる。
「っ♡ ん、ぁ……♡」
急がない。
けれど、逃がしてくれない。
昔からそうだった。
匡は適当に見えて、千隼のことになると変にしつこい。
ゲームの攻略も、千隼の機嫌も、千隼が素直になる瞬間も。
一度見つけたら、ずっと覚えている。
「千隼」
「……何♡」
「今日、ちょっと甘い」
「お前がな♡」
「千隼も」
「は?」
「さっき、俺の手が安心するって言った」
「っ、忘れろ♡」
「無理」
匡が笑う。
「セーブした」
「ゲームじゃねぇんだよ♡」
「でも覚えておきたい」
その声が、少しだけ真面目だった
千隼は言い返せなくなる。
匡の指が、また奥を撫でる。
「ぁっ♡♡」
身体が跳ねる。
「そこ?」
「き、くな♡」
「聞きたい」
「っ♡ ほんと、性格悪……♡」
「千隼が教えてくれないから」
「教えなくても分かってんだろ♡」
「うん」
匡が嬉しそうに頷く。
「分かる」
千隼の胸が甘く痺れる。
ずっと一緒にいた。
ゲームの癖も。
眠い時の声も。
照れた時の視線も。
匡は、全部知っている。
その上で、まだもっと知りたがる。
「千隼」
匡の声が少し低くなる。
「好き」
「……っ♡」
匡の指が、ゆっくり奥を撫でる。
その瞬間。
千隼の身体から、ふっと力が抜けた。
「ぁ……♡」
強がるのも。
煽るのも。
もう無理だった。
匡へ縋るみたいに抱きつく。
「っ♡ く、ま……♡♡」
胸の奥まで、甘く痺れる。
気持ちよくて。
安心して。
幸せで。
千隼は、匡の肩へ額を押し付けた。
「……も、無理♡」
匡が、小さく笑う。
「千隼、とろとろ」
「うるせぇ♡」
声に力が入らない。
匡が髪へキスする。
「ゲームしてる千隼も」
「ん♡」
「寝起き悪い千隼も」
キス。
「俺ん家みたいにくつろぐ千隼も」
またキス。
「全部好き」
千隼の目が熱くなる。
「……っ♡ ばか♡」
「泣く?」
「泣いてねぇ♡」
「でも声かわいい」
「うるせぇ♡」
千隼は、照れ隠しみたいに匡の肩へ噛みついた。
「いった」
「黙れ♡」
でも匡は笑っている。
楽しそうに。
幸せそうに。
その顔を見るだけで、胸がいっぱいになる。
****
「千隼」
「……何♡」
「今日このまま寝よっか」
千隼が目を瞬く。
「……は♡」
「何かもう、くっついてるだけで満足」
その言葉が、胸へ刺さる。
ああ。
こいつ、本当に。
ずっと俺といること自体が好きなんだ。
勝つとか負けるとか。
特別なイベントとか。
そういうものがなくても。
同じ部屋で、同じ画面を見て、同じ毛布に入っているだけで、匡は満たされる。
「……俺も♡」
千隼が小さく呟く。
「お前とくっついてんの、一番落ち着く♡」
匡が笑った。
「じゃあ一生こうだ」
「軽く言うな♡」
「軽くないよ」
匡の腕が、千隼を抱き締め直す。
「一生、ゲームして、飯食って、寝落ちして、千隼に怒られたい」
「最後おかしいだろ♡」
「大事」
「怒られたいのかよ」
「千隼がいるって感じするから」
千隼は、もう何も言えなくなった。
そういうところだ。
匡は、馬鹿みたいな言い方で、本気を混ぜてくる。
「……なら、ずっと怒ってやるよ♡」
「やった」
「喜ぶな♡」
「嬉しい」
匡が、千隼の髪へ顔を埋める。
「千隼がいる家、好き」
千隼の胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「……俺も」
「ん?」
「匡がいる家、嫌いじゃねぇ♡」
「好き?」
「調子乗るな♡」
「好き?」
しつこい。
昔からそうだ。
こいつは、欲しい答えが出るまで待つ。
「……好きだよ♡」
千隼が小さく言うと、匡の腕に力がこもった。
「俺も」
「知ってる♡」
「もっと知って」
「重い♡」
「千隼限定」
千隼は笑ってしまった
笑った拍子に、また身体の奥が甘く疼く。
「っ♡」
「千隼?」
「見るな♡」
「見たい」
「ゲーム画面でも見てろ♡」
「今は千隼の方がいい
「っ……ばか♡」
匡がキスをする
今度は、すごく短いキスだった。
でも、その一回で胸がいっぱいになる。
****
そのまま。
毛布の中で抱き締められる。
ゲーム画面は、まだついたまま。
リザルト画面の音が、部屋の端で小さく鳴っている。
でももう、誰も見ていなかった。
「匡」
「ん?」
「ゲーム、消せよ」
「あとで」
「寝落ちするだろ」
「千隼が起こして」
「俺も寝る」
「じゃあ朝消す」
「電気代」
「怒られた」
「怒ってる」
匡が嬉しそうに笑う。
「やっぱ千隼いると落ち着く」
千隼は呆れたように息を吐いた。
でも、匡の胸へ頬を寄せる。
「……俺も」
小さく言った。
「お前が隣にいると、落ち着く」
匡の心臓の音が、少し速くなる。
それが分かって、千隼は少しだけ笑った。
「何、照れてんの」
「照れてる」
「認めるな」
「千隼にそう言われたら、そりゃ照れる」
匡の声が、毛布の中でやわらかく響く。
「千隼」
「何」
「おやすみ」
「……おやすみ」
「明日もゲームする?」
「する」
「勝つ?」
「俺がな」
「俺も勝つ」
「寝る前まで勝負すんな」
匡が笑う。
千隼も、つられて笑った。
昔と同じ。
でも、昔とは違う。
ゲームセンターで出会った時から、ずっと隣にいた。
それが今は、同じ家で、同じ毛布の中にいる。
親友より近くて。
家族より少し照れくさくて。
恋人で、夫夫で。
一緒に帰る相手。
「千隼」
「今度は何」
「明日、朝ごはん何食べる?」
千隼は目を閉じたまま答える。
「パン」
「卵も?」
「焼けるのかよ」
「頑張る」
「焦がすなよ」
「焦げたら半分こ」
「するな」
でも、たぶんする。
焦げた卵を見て文句を言って。
結局二人で笑って食べる。
そんな朝が、もう想像できる。
千隼は、匡の服を軽く掴んだ。
「……匡」
「ん?」
「明日、起きたらゲームの電源消せよ」
「そこ?」
「大事だろ」
匡が笑った。
「うん、大事」
そして、千隼をもう一度抱き締める。
「千隼」
「何」
「好き」
千隼は目を閉じたまま、少しだけ口元を緩めた。
「……俺も」
ゲーム画面は、まだ光っている。
でも、二人はもう見ていない。
毛布の中。
匡の腕の中。
昔から知っている体温に包まれながら、千隼はゆっくり眠りに落ちていった。
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