2 / 4
#01 アーメンガード♡ロッテイ 濡れ場あり ——ずぢゅ♡*
「Je t’aime.」
「Très bien! さすがだ。完璧な発音だね、セーラくん」
ムッシュ・デュファルジュが満足げに手を叩いた。教室の視線が、一番前の席に座るセーラに集まる。
一番後ろの席からアーメンガードは、その背中をぼーっと眺めていた。
(あぁ。。。アイツのことが気になってしょうがない……)
ノートの端に意味のない線を書き殴りながら、小さくため息をつく。
(どうしちゃったんだろう、おれ……)
優等生で通っている彼が抱える、誰にも言えない——秘密。それは、セーラへの狂おしいほどの片思いだった。そして、彼にはもう一つの秘密があった。
——夜の相部屋。
ラビニアが寝息を立てているのを確認してから、アーメンガードはベッドの毛布を引き被り、ロッティの首筋に顔を埋めた。
「ん……あ……アーメンガードくん……」
ロッティが甘い声を出して、背中にしがみついてくる。
アーメンガードは冷めた頭で、細いロッティの体を抱き寄せる。
——ずぢゅ♡*
「あ”……っ」
・
(セーラ……)
・
・
・
(セーラ…… セーラ……)
・
・
・
——ぬちょっ…
・
あっ……////
・
「すきだよアーメンガードくん…… やめないで//」
(あ゛あ゛セーラ……)
「……あ……アーメンガードくん……」
「コエ 」
・
・
・
——ぬちょっ…
「あ゛あ゛ 」
「コエタ”スナ キコエちゃぅダロ 」
・
・
・
——ぬちょっ…
——ぬちょっ…
・
・
・
あ”っ……////
—ぬちょっ…ぬちょっ… ぬつちよ
(あぁ セーラ…… セーラ…… セーラ……)
✨
つ「う…/////」 「/ぅ/////」
・
・
・
——ぬちょっ…
「あ”ぁ…//」
——ぬちゅうううう……
*
「ふぅ…/」
◇
その数日後。放課後のサロンでは、ミンチン院長が主催するセーラの誕生日パーティが開かれていた。
「ビンゴ! やったね!セーラくん、特賞だよ」
盛り上がる空気の中、手渡された景品を見て、セーラは少し困ったように苦笑いした。
「フランス人形って…… ORZ」
「ちょっとまってそれ! ……可愛いんだけど!」
セーラが持て余しているのを見て、ロッティが目を輝かせる。
「えっ、なに? こういうのお前好きなの? ならやるよ。これ」
「イイの?ホントにホントにイイの? あとになって返してとかって言ってもダメだからね」
ビンゴ大会がひと段落すると、次は定番の王様ゲームが始まった。
「よーし、王様だーれだ!」
「はーい! じゃあ、3番と7番、キスしろ!」
男子校ならではの悪ノリで、誰かが叫んだ。その直後、アーメンガードの心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
(……嘘だろ)
周囲の囃し立てる声が、急に遠のいていく。視線の先で、セーラが笑いながら割り箸を掲げたかと思うと、その前に進み出たロッティの顎に、ためらいもなく手を添えるのが見えた。
セーラは悪戯っぽく笑うと、ロッティの顎をクイッと持ち上げ、王子様めいた甘い声で囁いた。
「ほら、逃げるなよ。……食っちまうぞ?」
わざとらしく色気たっぷりに迫るセーラのお芝居に、ロッティも顔を真っ赤にしてノリに乗る。
「んっ……や、やだぁ……っ////」
寸劇めいた二人のやり取りに、周囲の男子たちから「フゥーッ!」「セーラ様、最高!」「ロッティ、そこ俺と代われ!」と、男子校らしからぬ黄色い歓声が爆発した。
——重なる唇。
頬を真っ赤に染めて、だらしなく嬉しそうに身を委ねているロッティの姿が、スローモーションのように視界に焼き付く。
(チッ… 何やってんだアイツら)
気がつくと、アーメンガードは囃し立てる人混みを足早にかき分けていた。
「そこまでにしろ。見苦しいぞ」
二人の間に無言で割って入ると、ロッティの腕を強く掴むと。
「痛ッ……な、なに? アーメンガード?」
「いくらゲームでも限度があるだろ。こんな破廉恥な真似は認められない」
そう吐き捨てると、アーメンガードはロッティの手首をギリッと強く掴み、有無を言わさぬ力でサロンから引きずり出した。
「えっ、ちょっと待ってよ! 痛いってばぁ!」
文句を言うロッティの声が、廊下の奥へと消えていく。残されサロンには、すっかり白けきった空気が漂っていた。
「……なんだよ、アイツ」
「ただのゲームじゃん。風紀委員かよ」
「なにマジになっての」
すっかりドン引きしてぼやく生徒たちの中で、セーラだけは少し不思議そうに、バタンと閉ざされたドアを見つめていた。
◇
それから季節が変わり、吐く息が白くなる頃。学園にバレンティーヌスの祭日がやってきた。その日、アーメンガードは朝からどうにも落ち着きがなかった。授業中も、カバンの中に入れたセーラへの思いを綴ったカードのことが気になってしょうがない。
(いよいよ、今日だ……)
終業のベルが鳴った瞬間、アーメンガードは誰よりも早く教室を飛び出し、セーラを呼び出した体育館の裏へ急ぐ。
——だが、廊下の曲がり角で待ち伏せしていたロッティに、がしっと腕を掴まれた。
「どこいくつもり……?」
泣きそうな顔で、ロッティが必死にアーメンガードを引き留める。
「ねえ、今日は僕と一緒にいてくれるって言ったじゃない!」
「放せよ。……しつこいな」
「やだ! 僕のどこがいけないの? 悪いところがあるなら直すから……」
「直す? ふん、無理だな。お前、抱いててもマグロでちっとも面白くないんだよ。これ以上おれの時間を奪うな」
「ひぐっ、そんなぁ……!」
ロッティがその場に泣き崩れた時、背後の柱の影から、ひょいとラビニアが顔を出す。
「へぇー…… 修羅場ってやつかな(笑)」
「ラ、ラビニア……! いつからそこに」
慌てるアーメンガードを、ラビニアは嘲りを含んだ目で見下ろす。
「いつからって、最初からだけど? ほんと呆れる。夜な夜な部屋でいちゃいちゃ、ちゅぱちゅぱ聞かされてるこっちの身にもなってよ。丸聞こえなんだよ、お前ら」
「っ……!!」
夜の密事が同室のラビニアにバレていた——その事実にアーメンガードの顔が、瞬時に蒼白になる。
「セーラくんに気を持たせながら、裏ではこんなペットと遊んでるなんて。とんだ風紀委員だわ、笑わせる」
プライドが音を立てて崩れ落ちる。居たたまれなくなったアーメンガードは、ロッティを置き去りにして、逃げるようにその場を駆け出した。
ロッティは縋るようにアーメンガードを追いかける。辿り着いた先は、冷たい風が吹き抜ける体育館の裏——そこには既にセーラの姿があった。
(……やっぱりセーラくんと会ってる)
慌てて物陰に身を隠し、二人の様子を窺う。
風が鳴っている。二人の唇が動くたび、断片的な言葉が冬の空気に混じっては消えていく。
……これ。受け取ってくれないかな
えっ、僕に? ありがとう
そんなやり取りがあったのか、それとも自分の耳が幻聴を拾っただけなのか。遠く離れた場所で震えるロッティには、もはや確かめる術もなかった。
聖バレンティーヌスの祭日——それは、胸の奥に灯した熱い想いを、愛おしい人に伝えることが許される特別な日。薄暗い夕闇の中、冬の刺すような光が二人を照らしている。ロッティの目に映るその光景は、あまりに美しく、残酷なほどに完成された一枚の絵画だった。
セーラは、この学園に舞い降りた眩いばかりのスーパースター。その隣で、頬を赤く染め、必死に言葉を紡いでいるアーメンガード。
(あの場所に立っているのが、僕だったら……)
本当なら、あの震える手の先にいるのは、自分のはずだった。けれど、アーメンガードの瞳に映っているのは、もはや影のような自分ではない。太陽のようにすべてを奪い去る、完璧なセーラの輝きだけだ。
自分はもう、必要とされていない。
捨てられたペットのように冷たい石畳の上に立ち尽くし、ロッティの目から一粒の熱い涙がこぼれ落ちる。
——と、その時……
涙で滲む視界の端で、アーメンガードの手から淡い色の何かが、ひらりと、枯れ葉のようにこぼれ落ちたような気がした。
(……あれはなに?)
その正体を見極めるより早く、セーラが軽やかな足取りでこちらに向かって歩き出す。
見つかる。
そう察したロッティは溢れる涙を拭う間もなく、その場を逃げ出した。
静寂が戻った校舎の影で、置き去りにされた薄い紙だけが、冬の風に弄ばれるようにカサリと力なく震えていた。
誰もいなくなった体育館裏に、コツ、コツと重厚な足音が響く。冷え切った廊下の隅、床に落ちた淡い色のカードに気づき、拾い上げたのは院長のミンチンだった。
——院長の口元が、意地悪く歪む。
「ふふ……これは、イイものを拾ったな」
手袋を嵌めた指先が、その秘められた告白をなぞる。
優等生が落とした破滅の種。そこには「親友」という綺麗な言葉では到底片付けられない、ドロドロとした執着と独占欲が綴られていた。
これから学園に巻き起こる嵐の予感を、彼は誰よりも楽しそうに味わっていた。
つづく
—
すべてが狂い始めたのは半年前。あの「ダイヤモンド◇プリンス」ことセーラが転校してきた日からだ。大好きなアーメンガードを取られたくなくて、僕 は放課後にセーラを呼び出した。
「アーメンガードを取らないでっ……!」
泣き叫んだその瞬間、セーラの瞳が獣のように豹変して……。
次回、A-Little-Prince 第2話。
お願い、意地悪しないで……っ!
ともだちにシェアしよう!

