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#03 転落のダイヤモンド◇プリンスの1人エッチ

——セーラの盛大な誕生日パーティから数日後。 学園の平穏は、突然の悪い知らせによってあっけなく打ち砕かれた。 「……なんだと? もう一度言ってみろ」 院長のミンチンは、正面に座る顧問弁護士を鋭い目つきで睨みつけた。 「ですから……ラルフ・クルー氏は、亡くなりました。……自らの手で」 「自殺だと!?」 「はい。事業の投資に大失敗し、莫大な負債を抱えまして……。これは申し上げにくいのですが、さらに悪いことに、クルー氏はそれを穴埋めするために、この学園の奨学金財団の資金にまで手をつけてしまい……発覚を恐れて自ら命を絶ったと思われます」 恩を仇で返された上に、学園の大切な資金までごっそり盗まれた。その事実を理解した瞬間、ミンチンの頭に血が上った。 「……絶対に許さない。残されたあのガキに、骨の髄まで償わせてやる!」 ◇ バァンッ!! ドアが蹴り開けられ、怒り狂ったミンチンがセーラの専用私室に踏み込んできた。 突然の暴挙にセーラが息を呑むと、ラムダスがその前に立ちはだかる。 「一体何事ですか。院長とて、主人の部屋にこのような入り方は——」 「黙れ、下男が!」 ミンチンはラムダスを突き飛ばさんばかりの勢いでセーラに詰め寄った。 「セーラ・クルー! お前は今日からこの学園の生徒ではない。今すぐその服を脱いで出ていけ!」 「……嘘だろ?」 「お前の父親はな、うちの学園の金を盗んで死んで逃げた、卑怯な犯罪者なんだよ!!」 最も残酷で、容赦のない言葉がセーラに叩きつけられる。 「嘘だ……! 父さんが、そんなことするはずがないっ!」 「先生。このガキに、説明してやってくれますか」 ミンチンに促され、背後に控えていた弁護士が冷淡に口を開く。「……残念ながら、すべて事実です。セーラ様、誠に残念ですが……」 「あ……ぁ……」 尊敬していた父が、犯罪者になり、自分を置いて自殺した。突きつけられた現実に、セーラの目の前が真っ暗になる。糸が切れた操り人形のように、その場にガクンと崩れ落ちた。 ——その瞬間(とき)だった。 セーラの体の中で、何かが決定的に「壊れた」のは。 (……あつい。なんだこれ、息が……っ) ——「性反転(ジェンダー・リバース)」。 本来、一度決まった第二の性は変わることはない。だが、精神を破壊するほどの絶望は、時に肉体の法則さえも狂わせる。セーラの体内で、α(アルファ)としての誇りは霧散した。代わりに溢れ出したのは、これまでの自分を根底から否定するような、おぞましくも甘い「Ω(オメガ)の熱」だった。 ◇ 「さあ、さっさと運び出せ! これも、あれも、全部横領金の返済に当てるぞ!」 ミンチンの命令で、使用人たちがセーラの部屋から高価な洋服、時計、家具を次々と奪っていく。 その中には、ラムダスが厳重に管理していた「セーラ用の抑制剤(くすり)」が入ったケースも含まれていた。 「おやめください! それは、セーラ様の大切なお薬です!」 普段は物静かなラムダスが、鋭い声でメイドの手からケースを取り返そうとした。実力行使も辞さない、恐ろしいほどの気迫だ。 だが。 「……やめろ、ラムダス」 顔面蒼白で震えるセーラが、ラムダスの腕を弱々しく掴んだ。 「セーラ様……っ」 「やめるんだ、ラムダス……っ。僕たちは、学園のお金を盗んだんだ。償わなきゃ、いけない……」 気高かったプライドが、罪の意識で完全に折れてしまっていた。抵抗を諦めたセーラを見て、ミンチンは冷たく笑う。 「ふん、自分がどういう立場になったか、よくわかってるじゃないか。ラムダス、お前も今日から借金のカタだ。無給の下働きとして一生こき使ってやる」 ◇ すべてを奪われたセーラは、みすぼらしい使用人の服に着替えさせられ、最上階のほこりっぽい屋根裏部屋へと追放された。 隙間風の吹く、冷たく暗い部屋。 ラムダスも隣の屋根裏部屋をあてがわれたが、ミンチンの厳しい監視の目があり、自由に触れ合うことは許されない。壁一枚を隔てて、主従は完全に分断されてしまった。 一人きりになった屋根裏部屋。 セーラは、ギシギシと軋む硬いベッドの上で、薄い毛布にくるまりながら寝付けずにいた。 父を失った悲しみと「罪人の息子」という絶望。だが、それ以上に彼を苛立たせたのは、身体の底にじりじりと(くす)ぶる、得体の知れないだった。 微かな疼き。寝返りを打つたびに、自分の身体からふわりと、嗅いだこともない甘い匂いが漂ってくる。 (どうしちゃったんだ、僕の身体……っ) 身体が勝手に「何か」を求めて震える。その正体のわからない衝動を追い払いたくて、セーラは縋るように自分の股間へと手を伸ばす。 「……ッ…/////」 それは今まで知っていたどんな感覚とも違う。頭では拒絶しているのに、抗う術もなく身体が翻弄されていく受動的な悦(えつ)。 「はぁっ////、はぁっ////、/////ッ」 「ん////ッ…///…//…」 (だめだ……こんな、はしたないこと……) 必死に声を殺そうと唇を噛み締めるが、甘い疼きは止まらない。セーラは屈辱の涙を流しながら、抗えない快感に震える身体を丸め込むようにきつく抱いた。 セーラはこれがΩ(オメガ)の発情(ヒート)の予兆だとは、まだ知らない。このおぞましい変化さえも「罰」なのだと言い聞かせながら、彼はやがて、泥のような深い眠りへと落ちていった。 つづく — セーラくんが冷たい屋根裏部屋に追放されてしまって、(ロッティ)はずっと泣いていた。でも、本当の地獄はこれからだったんだ。 夜の院長室で、ラビニアと院長先生が、セーラくんを完全に壊してしまうための『恐ろしい首輪』を用意していたなんて……。 セーラくんが本当は『アルファ』だった? だから罰を与える? 大人の歪んだ欲望と、ラビニアの黒い嫉妬が渦巻いていることも知らず、僕はまた恐ろしい罠に巻き込まれていく……。 次回、A-Little-Prince 第4話。 ラビニア、そんな恐ろしいもの、セーラくんにどうするつもり……?

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