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#11 悪魔のルール。百まで数える、遠い罰

放課後の生徒会室。 呼び出されたアーメンガードは、警戒心をむき出しにしてドアを開けた。 「何の用だ。わざわざこんなところに呼び出して」 睨みつける彼に対し、ラビニアはソファで優雅に微笑んでいた。部屋の隅には取り巻きのジェシーも控えている。 「そんなに警戒するなよ。この前のこと、も反省してね。君とは仲直りしたいと思ってるんだ。まあ、まずはお茶でも飲もうよ」 ラビニアが卓上の呼び鈴を鳴らすと、静かにドアが開くとティーセットを運ぶメイドが入ってきた。 フリルのついた屈辱的なメイド服。薄化粧を施されたその顔を見て、アーメンガードは息を呑む。 「セーラ……っ」 思わず声をかけるが、セーラはアーメンガードを一瞥もせず、虚ろな瞳でテーブルへと歩み寄る。 「おまえは何を言ってるんだ?」ラビニアが意地悪く嗤う。「このメイドが、あのセーラくんに見えるのかい? 人違いだよな、メイドさん?」 「はい。……私はただのメイドです」 過去を完全に捨て去ったような、感情の抜け落ちた平坦な声だった。 セーラがティーカップにお茶を注ごうとした、その瞬間(とき)——ラビニアがわざと腕を大きく動かし、テーブルの端にあったインク瓶を勢いよく弾き飛ばした。真っ黒な液体が、高級なカーペットにぶちまけられる。 「おい、このバカメイド! 何てことしてくれたんだ!」 「いい加減にしろよ、お前!」激昂したアーメンガードが、ラビニアの胸ぐらをきつく締め上げた。 「嘘をつくな。このメイドは関係ないだろう。お前がわざとこぼしたんだろ!」 しかし、胸ぐらを掴まれたラビニアは、全く怯えることなくニヤリと唇を歪めた。 「……またを殴るのか? またあの地下の反省室に戻りたいのかな?」 その一言に、アーメンガードの全身が硬直する。自分が再び隔離されれば、今度こそセーラを守る者が誰もいなくなる。院長の権力を盾にした絶対的なマウントの前に、彼はギリッと奥歯を噛み締め、その手を離すことしかできなかった。 その隙に、セーラが静かに冷たい床へ土下座した。 「私がやったんです。……申し訳ありません」 「そうか、やっぱりお前がやったんだな。なら、罰を受けなきゃな」 ラビニアは立ち上がると、壁の装飾として掛けられていた乗馬用の鞭を手にした。 「やめろ! このメイドは関係ない!」アーメンガードがセーラを庇うように前に立ち塞がる。「本当はに仕返しがしたいんだろ。だったらを打て!」 ラビニアは底意地の悪い笑みを浮かべた。 「……へえ。いい覚悟だ。あの時廊下で殴られた分、きっちりお返ししてやるよ」 風を切る音と共に、容赦なく鞭が振り下ろされる。 ⚡️——ピシャァンッ 「ぐっ……!」 背中を打たれ、苦悶の表情で膝をつくアーメンガード。 それを見たセーラがたまらず懇願する。「お願いだからやめて下さい! インクをこぼしたのはこの私です!」 足元にすがるセーラを見て、ラビニアはねっとりと目を細めた。 「……そうかい。も鬼じゃない。——チャンスをやろう」 ラビニアは淹れたての熱い紅茶が入ったカップを、土下座しているセーラの頭の上に乗せた。 「お前は『お人形』なんだから、微動だにしちゃダメだ。100数える間、一滴もこぼさなかったら許してやる。……でも、もしこぼしたら、ペナルティとしてこのバカ犬を打つ。ジェシー、数えろ」 「了解。——1……2……3……」 静かに、残酷な数字が一つずつ積み上げられていく。 セーラは息を殺し、熱いカップを乗せたまま必死に耐え続ける。 「79、80……」 その時、ラビニアがわざと机を強く叩いた。ガンッという振動にセーラの体がビクッと震え、紅茶がポタリと床に落ちる。 「あーあ、残念でした」 ラビニアは再び鞭を振り上げ、アーメンガードの背中を全力で打ち据えた。 ⚡️——ピシャァンッ 「がはっ……!」 床に崩れ落ちるアーメンガードを見て、セーラはたまらず叫んだ。 「アーメンガード! 大丈夫か!?」 その瞬間、ラビニアが勝ち誇ったように大笑いした。 「あははははっ! ……おや? メイド人形が喋ったと思ったら……どうして生徒のファーストネームを知ってるのかな? 今日は誰も、こいつの名前で呼んでないのに」 はっと息を呑むセーラと、青ざめるアーメンガード。 ラビニアは二人の顔をねっとりと見比べた。 「なるほどねー。おまえたち、ただの生徒とメイドじゃないよねw ……やはりお知り合いのようだな。それに、ルール違反だ!」 完全に罠に嵌められた。セーラが顔を上げ、必死に抗議する。 「なぜだよ!? お茶はこぼしてないだろ!」 ラビニアは冷酷に言い放つ。 「お人形さんが口をきくわけないだろ。喋ったからルール違反だ。……ジェシー、やり直しだ。1から数えろ」 「……そんなっ!」 絶望の無限ループ。頭にカップを乗せられたまま、セーラはボロボロと涙をこぼした。 「お願いだ、何でもするから! これ以上彼を打たないで……っ!」 「何でもする? じゃあ……」ラビニアが下劣な要求を突きつけようと口を開いた、まさに——その時だった。 バンッ!! 生徒会室の重い扉が勢いよく蹴り開けられた。 「何をしているのだ!!」激怒したフランス語教師、ムッシュ・デュファルジュが血相を変えて飛び込んでくる。異常な光景を目の当たりにした彼は、すぐさまラビニアの手から鞭を奪い取った。 「生徒会室で、このようなおぞましい真似を……っ!!」 ムッシュ・デュファルジュの怒りの剣幕。だが、ラビニアは全く悪びれる様子もなく、忌々しげにチッと舌打ちをした。 「大げさですよ、先生。これはただの、ゲームですって」 完全に狂い切った「執行人」の冷たい声だけが、紅茶の匂いと絶望が入り混じる部屋に虚しく響いていた。 つづく 11話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8124 — 夜の闇に紛れて、デュファルジュ先生にセーラの手紙を託した。これでやっと、君をこの理不尽な地獄から救い出せるかもしれない。おれ(アーメンガード)の心の中には、気高く美しいセーラ、君しかいないのに……。なのに、またロッティの甘い体温にすがりつかれた瞬間、はどうしようもなく快楽に流されてしまうんだ。 一番助けたいのは君なのに。君への想いを胸に抱きながら、別の温もりに溺れていく最低なを、どうか許さないで……。 次回、A-Little-Prince 第12話。 セーラ、ごめん……っ、君を想いながら、はまたロッティを……っ。

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