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#14 嫉妬から憎しみへ、ミンチンの悪魔の囁き ラビニアの初ヒート
乱れたシーツの上で、ラビニアがミンチンの広い胸にすり寄りながら甘く囁いた。事後の気怠い熱気が漂う、深夜の院長室でのこと。
「ジェシーが言うには、むせ返るような匂いだったらしいよ。Ω(オメガ)のヒートで間違いないよ、やっぱり、もう完全にΩになっちゃってるよ」
「ほう……誇り高きダイヤモンド◇プリンスも、今やただの発情獣……もうメイド部屋に住まわすわけにいかないな。獣は馬小屋がお似合いだ」
ミンチンはラビニアの髪を撫でながら、あっさりと残酷な決定を下す。
「馬小屋で十分よ。……ところで、セーラは薬を持ってないの?」
「私から与えるわけがないだろう。もっとも、荷物を没収した時にα(アルファ)用のラット抑制剤は押収したがね。隠し持っていた残りを飲んだとすれば合点がいく」
「そのα用の抑制剤って……Ωが飲むとどうなっちゃうの?」
「ホルモンバランスが急激に崩壊して、即座に強烈なヒートが引き起こされる」
「ふぅーん」
ラビニアが嗜虐的な笑みを浮かべると、ミンチンはサイドテーブルの引き出しから、セーラから没収した薬の小瓶を取り出した。
「ラビニア、おまえ、試してみるか?」
「え?」
「おまえはまだ未成熟のΩ。ヒートは未経験だったな」
「……うん」
「いいか。これを飲んで人為的に一度でもヒートを起こせば、おまえの身体は完全に成熟し、これからの人生、ずっとΩ用の抑制剤の世話になることになるぞ」
脅すようなミンチンの言葉に、ラビニアは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに艶やかな笑みを浮かべてミンチンの胸にすり寄った。
「……うん。いいよ。」
ラビニアは小瓶から錠剤を一粒つまみ出し、ためらいなく自ら喉の奥へと放り込んだ。
数秒後。
「あっ…んふぅ…/// ふぅ…///」
途端にラビニアの白い肌が朱に染まり、甘く水っぽい吐息が漏れ始める。瞳がトロンと潤み、自らミンチンの身体へとすがりつく。
「んッ…/////んッ」
理性を溶かすむせ返るような匂いが、夜の帳 を静かに呑み込んでゆく。
「可愛いやつめ」
「んッ…/////」
——ずぢゅ♡*
「あ゛っ * あ”ぁ” ぁ” ぁ” ぁ” ぁ” ぁ” ぁ” ぁ」
◇
翌日。凍てつくような隙間風が吹き込む、薄暗い馬小屋。
ツンと鼻を突く獣と藁の匂いの中、セーラはボロボロの毛布に包まり、冷たい土間の上で身を縮めていた。
『同室の者たちをたぶらかし、夜な夜な風紀を乱すとは言語道断。今日からお前の寝床はここだ』
それが、ミンチン院長から下された無慈悲な宣告だった。セーラは人として最低限の生活すら奪われ、完全に学園から隔離された。
度重なる飢えと寒さ、そしてヒートの熱情に心身を削られたセーラに、かつての気高さはもう残っていない。ただ生き延びるためだけに、尊厳を失い、惨めな運命に従うしかなかった。
◇
同じ頃。アーメンガードは、重苦しい空気が漂う院長室に呼び出されていた。
「……さて、アーメンガード。自分がなぜここに呼ばれたか、分かってるな?」
「……っ」
優雅にティーカップを置いたミンチン院長の言葉に、アーメンガードの背中に冷や汗が伝う。
「昨夜の無断外出。そして、学園を追放されたデュファルジュとの密会。さらに、彼に怪しげな手紙を託したこと。……すべて、目撃者がいるんだよ」
「なっ……!?」
ラビニアとジェシーの監視網によって暴かれた密行。言い逃れなど到底できなかった。
「先日の、ラビニアに対して起こした暴力沙汰に続く、二度目の重罪。もはや看過できないな。おまえの父へ電報を打ち、退学処分を伝えるとするか」
「た、退学……っ! 待ってください、院長先生! 退学だけは……父に知られたら……!」
厳格な父の顔が脳裏をよぎり、アーメンガードは血の気を失って床に膝をついた。名家の恥として、家を追い出されることは火を見るより明らかだった。
床に這いつくばって許しを乞うアーメンガードを見下ろし、ミンチンは冷酷な笑みを深める。
「しかし……私も鬼ではない。特別に、一度チャンスをやることも……」
「え……?」
「そもそも、すべての元凶はあの生意気なセーラ。……あいつは昨夜、下働きのメイドとふしだらな情事にふけってやがった」
その言葉に、アーメンガードはハッと顔を上げた。
「私の耳には、すべて入っているんだ。夜更けに、下働きのベッキーにすがりつき、あられもない声で啼いていたとな」
(ベッキーと……?)
アーメンガードの胸の奥で、ドス黒い炎が渦を巻いた。
あの夜、アーメンガードはラムダスに淫らに啼かされ、蕩けきっているセーラの姿を、この目でハッキリと見ている。
(あの下人 とばかりか……ベッキーとも、やっていたのか、アイツ)
アーメンガードに驚きはなかった。あの下人 とあんなことをしていたのだから、同室のベッキーに身体を許していても何ら不思議ではないと……
自分が命懸けで守ろうとした気高い『ダイヤモンド◇プリンス』は、誰にでも発情し、身体を開く、ただの汚らしい獣だったのだ。純粋な信仰心が完全に裏切られた絶望が、アーメンガードの理性を黒く塗り潰していく。
脳裏にフラッシュバックするのは、バレンティヌスの祭日の記憶。勇気を振り絞って捧げた自分の愛の告白は、『ごめん……友達でいたい』という言葉で優しく、しかし残酷に拒絶された。自分には決して見せなかったその扉の向こう側を、アイツは誰にでも安々と明け渡していたというのか。
「アーメンガード。おまえが自らの手で、あのふしだらな獣を『躾 』るというのなら……今回の退学は見逃してやろう」
「オレが、セーラを……」
「そうだ。お前はただの薄汚い下僕なのだと、身体の底から分からせてやれ。……どうする?」
——悪魔の囁き。
アーメンガードは床を見つめたまま、言葉を詰まらせた。セーラへの失望と憎しみ、そして、あの淫らな姿を思い出すたびに湧き上がる、抑えきれない仄暗い欲情。その相反する感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、即答することができなかった。
煮え切らないアーメンガードの様子に、ミンチンは面白そうに目を細めた。
「……どうやら、まだ迷いがあるみたいだな。——明日、あいつがいかに汚らしい獣に成り下がったか、おまえに直接見せてやろう」
「見せる……?」
「ああ。明日の夜、馬小屋へ来い。——そこで、おまえが正しい決断をすることを期待してるよ」
逆らうことなど許されない、絶対の——命令。冷たい床に跪いたまま、アーメンガードはただ、生返事をして頷くことしかできなかった。
つづく
14話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8127
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信じたくなかった。馬小屋の壁の向こうで、オレ の気高き神様が、ただの下男 相手に自ら腰を振って啼いているなんて……。バレンティヌスの日、オレの純粋な告白をあんなに冷たく拒絶したくせに!砕け散った偶像とドス黒い絶望に、オレはただ泣き崩れることしかできなかった。
そんなオレの肩を、ミンチン先生が力強く、そして優しく抱き寄せてくれたんだ。
「辛かったな……。今日はうんと泣くんだな」
心の隙間を完全に抉られたオレは、その甘い罠のような温もりに、もう抗うことなんてできなくて……そのまま先生の部屋へと……。
次回、A-Little-Prince 第15話。
先生……っ、オレをもっと優しく慰めて……っ!
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