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#18 悪魔の口移しチョコレート❤︎ゲーム
馬小屋のボヤ騒ぎが鎮火した、その日の朝。
焦げた匂いと煤にまみれたセーラと、怯えて泣きじゃくるロッティは、重苦しい空気が漂う院長室に立たされていた。
二人の前に立つ院長ミンチンは、冷酷な光を宿した瞳で見下ろすと、嘲るように鼻を鳴らした。
「お前のあの下男——ラムダスだったか。昨夜の火事のどさくさに紛れて、逃げやがったよ」
セーラが小さく息を呑むと、ミンチンはさらに釘を刺すように言葉を続けた。
「だが安心しろ。絶対にとっ捕まえて、二度と歩けなくなるほど酷い目に遭わせてやるからな。……お前もまさか、共犯者が消えたからといって、逃げようなんて無駄なことは考えるんじゃないぞ」
「……」
セーラが静かに頷くと、ミンチンは「ふん」と吐き捨て、話題を変えた。
「馬小屋が丸焼けになった以上、お前の寝床をどうするかという問題だが……ベッキーの部屋に同室させるわけにはいかないからな。あいつと一緒では、また『不健全で不謹慎な真似』に溺れるだけだろう」
ミンチンはわざとらしく顔をしかめ、残酷な恩赦を告げた。
「お前は今日からメイドの服を脱げ。一般生徒の身分に戻してやる。これからは『再教育生』として、ラムダスが消えて空室になったあの屋根裏部屋を使え」
「生徒に……」
過酷な重労働と、底冷えのする馬小屋の生活からの解放。その言葉に、セーラは思わず「……ありがとうございます、院長先生」と深く頭を下げてしまった。
それが、さらなる精神的虐待の始まりとも知らずに。
ミンチンはセーラの悲劇的な感謝を満足げに受け取ると、傍らでふんぞり返っているアーメンガードに視線を移した。
「だが、私はもうお前たちにかまうのは疲れた。アーメンガード、今日からお前が私に代わって、この出来損ないを徹底的にしつけろ。放火の件の処分も含めて、すべてお前に一任する」
「はい。院長先生。お任せください」
アーメンガードが恭しく一礼すると、ミンチンは「好きにしろ」と言い残し、院長室の奥にある私室へと消えていった。
◇
——カチャッ。
扉の鍵が閉まったのを確認するや否や、アーメンガードの態度が豹変する。彼はまるで自分が新たな院長にでもなったかのように、ミンチンの豪奢なデスクチェアにドカッと深く腰掛けた。そして、磨き上げられた机の上に土足のまま両足を乱暴に投げ出す。
「さて……」
アーメンガードは机の上に置かれていたチョコレートの箱を引き寄せると、我が物顔で一つを口に放り込んだ。
「院長先生の言う通り、馬小屋に火をつけたロッティは放火犯だな。警察送りにするしかない」
「えっ……やだ、やだぁっ!」
ロッティが泣き叫ぶと、セーラはすかさずロッティを背中に庇い、アーメンガードを真っ直ぐに見据えた。
「ロッティは悪くありません! 全部、私のせいです」
「ふーん……お前のせい、ね」
アーメンガードの口角が、意地悪く吊り上がる。彼はニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、幾度となく繰り返されてきた「お約束」の提案をした。
「なら、許しを乞うチャンスをやろう。お前の誠意を見せてみろ」
アーメンガードは机の上から、もう一つチョコレートをつまみ上げると、それをセーラの目の前にある小さなテーブルの上にコトリと置いた。
「手を使わずに、そのチョコレートをロッティに食べさせろ。もし床に落としたら、即警察送りだ」
「手を使わずに……?」
セーラは一瞬きょとんとしたが、机の上でふんぞり返るアーメンガードの歪んだ笑みを見て、すぐにその要求の『本質』を悟った。わざと卑しい真似をさせ、自分たちを辱めようとしているのだと。
「……どうした? できないなら、とっとと警察を呼ぶぞ」
「……わかりました。手を使わなければ、いいんですね」
セーラは静かに、だが決して屈しない瞳でアーメンガードを見据え返した。そしてゆっくりと膝をつくと、テーブルの上のチョコレートに顔を近づけ、自らの唇でそっと咥え上げた。
それは、あまりにも屈辱的で理不尽な命令だった。
しかし、セーラに選択肢はない。セーラはギュッと目を閉じて屈辱を飲み込むと、膝をつき、テーブルの上のチョコレートを自らの唇でそっと咥え上げた。
「……ロッティ」
セーラは口にチョコレートを含んだまま、泣き震えるロッティの顔に近づく。そして、ためらうロッティの唇に、自分の唇をそっと重ね合わせた。
甘いチョコレートが、二人の唇の間で溶け合う。
手を使わずに食べさせるための、必然的な口移し(キス)だった。
「…………あっ」
その光景を玉座から見下ろしていたアーメンガードの脳内に、けたたましいノイズが走った。
——フラッシュバック。
かつて、セーラの誕生パーティで行われた『王様ゲーム』。自分が指をくわえて見ている前で、セーラとロッティが楽しげに口づけを交わした、あの地獄のような光景。アーメンガードの心を壊し、狂気へと走らせた最大のトラウマが、今、目の前で完璧に再現されていた。
自分で命令したにもかかわらず、目の前で重なり合う二人の唇を見た瞬間、アーメンガードの心は完全に耐えきれなくなった。
「あ、ああぁぁぁっ……!!」
激しい嫉妬と絶望が胸をかきむしり、アーメンガードは頭を抱えて椅子から転げ落ちた。
「やめろ……もうやめろぉっ! もういい、勝手にしろっ!!」
顔を真っ赤にして号泣しながら、アーメンガードは自ら引き金を引いたトラウマに耐えきれず、大声で泣き喚きながら院長室を飛び出していった。 ——バタン!
——と、その時だった。
「……馬鹿な犬だ。己のトラウマに勝てずに逃げ出すとはな」
奥の私室の扉が開き、冷酷な拍手と共に院長のミンチンが姿を現した。一部始終をその奥で聞いていたのだった。
「セーラ、お前はもう下がれ」
セーラを冷たく追い払うと、ミンチンはロッティへと氷のような視線を移した。
「ロッティ。お前は地下の反省室で頭を冷やせ。馬小屋を燃やした罪がこれで消えると思うなよ」
反論すら許されない絶対の宣告。結果としてセーラは一般生徒の身分を取り戻したが、それは決して救いではない。大切な友人を奪われた無力感と、暗く冷たい孤独な屋根裏部屋、そして生徒会による陰湿な「しつけ」の日々が彼女を待ち受けているのだ。
つづく
18話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8132
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「僕 はやってない……火をつけたのは僕じゃないのに……っ!」凍てつくような地下の反省室。寒さと飢えで完全に限界だった。いけないって分かってる。でも、あの暗くて冷たい地獄に一人で戻されるくらいなら……先生の言いなりになって『ペット』として飼われる方が、ずっとマシだと思ってしまったんだ。
だけど、本当の絶望はそこからだった。
言われるがまま押し込められた暗いクローゼット。すぐ外から聞こえてきたのは、大好きな僕の恋人……アーメンガードくんが、先生に淫らに抱かれて喘ぐ声だったんだ。
次回、A-Little-Prince 第19話。
いやだ、聞きたくない……っ! なのに、どうして僕の身体まで熱く疼いちゃうの……っ!?
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