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#20 「おめーの席ねぇから!」

無慈悲なほどに澄み切った朝陽。舞台の幕開け——ミンチン学院、その教室は静かな狂気に満ちていた。 ざわついていた生徒たちが、入り口に現れた人影を見て一斉に息を呑んだ。 「おい、嘘だろ……あれが元ダイヤモンド◇プリンスかよ」 「なんだあの内股……完全に後ろを壊されてビビり散らしてるじゃん」 「とても同じ人間とは思えねえな……」 かつての気高さは見る影もない。輝かしい王子からの転落、使用人としての酷使、そしてメイドとして陵辱を繰り返された苦渋の日々——それらがセーラの精神を根底から叩き折っていた。周囲の視線に怯えるように肩をすくめ、ビクビクと教室の隅に立ち尽くす姿は、もはや哀れな家畜のようだった。 そこへ、担任のアメリアが入ってきた。ミンチンの弟である彼は、兄の冷酷さとはまた違う、徹底的に他人の痛みに無頓着な性質を持っていた。 「はい、みんな席につけー。知っての通り、今日からセーラ君がまた君たちと同じ教室で学ぶことになった。まあ、いろいろあったみたいだけど、今日からはまたお友達だ。仲良くしてやってくれよな!」 屈託のない笑顔で放たれる配慮に欠けた言葉。セーラはギュッと唇を噛み締めた。 「えーっと、セーラ君の席は……あ、そこが空いてるね。アーメンガード君の隣だ。アーメンガード君、彼のお世話をよろしく頼むよ」 「はい、アメリア先生」 優等生の笑みを浮かべるアーメンガード。セーラは血の気の引いた顔で、その隣へと重い足取りで向かった。 最初の休憩時間が終わり、チャイムが鳴る直前のことだ。 トイレから戻ってきたセーラは、教室の真ん中で凍りついた。 自分の机と椅子、そしてカバンだけが跡形もなく消え、そこだけが不自然な空白になっていた。 戸惑い、視線を彷徨わせるセーラに、アーメンガードがゆっくりと歩み寄る。 「何探してんの?」 「ぼ、僕の……机が……」 「机?」 アーメンガードはニヤリと唇を吊り上げ、教室中に響き渡る声で言い放った。 「おめーの席ねぇから!」 その瞬間、クラス中から「ドッ」と嘲笑が爆発した。誰もが腹を抱え、セーラを娯楽として消費する。セーラはガタガタと震え出した。 チャイムと同時に、アメリアが教室に入ってくる。 彼は教室の真ん中で立ち尽くすセーラと、それを取り囲む嘲笑を一瞥した。だが、何も見ていないかのように視線を外した。 「はい、授業始めるぞ。みんな席につきなさい」 「あ、あの……、僕の机が……」 「先生! セーラ君が『こんな貧相な机は僕には合わない』って言って、自分で窓から投げ捨ててしまったんです」 アーメンガードの言葉に、セーラは絶句した。アメリアはチョークを手に取り、黒板に向き直る。 「はい、全員教科書の12ページを開いて」 教卓を叩く音。アメリアはセーラの訴えを完全に黙殺し、淡々と板書を始めた。 教室内にはアメリアのチョークが走る音だけが響くが、生徒たちの誰一人として授業など聞いていない。全員が、一人で固まっているセーラの動向をニヤニヤと伺っている。 セーラは、逃げ出すのではなく、ゆっくりと踵を返した。 「おい、どこ行くんだよ」 「耐えられなくて逃げんじゃね?」 「もう帰ってこないだろ、あんな奴」 背中に浴びせられる嘲笑を無視し、セーラは教室を出た。 やがて、窓側の席にいた生徒が叫んだ。 「あいつ、外に行ってるぞ! まじで机、取りに行ってる!」 その一言で、生徒たちは一斉に席を立ち、窓際に群がった。授業中であることなど構わず、鈴なりになって中庭を見下ろす。アメリアだけが、空虚な教室に向かって黙々と数学の公式を書き連ねていた。 中庭には、泥に塗れて転がっている机と椅子があった。 セーラは泥だらけの机の脚を掴み、必死に持ち上げようとする。 その姿を、窓から身を乗り出した生徒たちが嘲笑う。口々に指を差して罵った。 「マジ、ウケるんだけど」 「あいつ、本当に拾いに行ってるよ、あの机」 「うざっ」 その喧騒を完全に無視するかの如く、アメリアは淡々と授業を続ける。 セーラは泥と汗にまみれ、ようやく自分の机を両手で抱え上げた。 そして、その顔をゆっくりと上げ、自分を嘲笑う『特等席』の住人たちが並ぶ教室を、睨みつけた。 つづく 20話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8138 — 君が完全に限界を迎える最高のタイミングで、アメリア先生を開け放たれた扉の前に案内してあげたんだ。みんなの目の前で堪えきれずに粗相をするなんて……あははっ! 最高のショーだったよ、セーラ! 次回、A-Little-Prince 第21話。 用具室で漏らす異常者なんて……もう誰も、君のことダイヤモンド◇プリンスなんて呼ばないよ。

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