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#22 着替えを盗まれるセーラ
馬小屋の火事の一件で、長期間の反省室での罰を受けていた(実はミンチンの私室でペットにされていた)ロッティが、唐突に学園へと戻ってきた。かつての快活さはすっかり消え失せ、気怠そうに目を伏せる姿は、まるで誰にも言えない重たい何かを、その小さな身体の奥底に抱え込んでしまったかのようだった。
——壁を隔てた隣のクラス。夏の西日が長く影を落とし始める、5時間目の水泳の授業の終わり。この日の最後となる授業を終えた生徒たちが、足早に更衣室へと戻っていく。
シャワーを浴び終えた生徒たちがひしめく男子更衣室は、むせ返るような湿気と熱気に包まれていた。
セーラは自分のロッカーを開け、息を呑んだ。
もぬけの殻だった。制服、下着、タオル、そして上履きに至るまで、セーラが身につけるべきものがすべて跡形もなく消え去っていた。
クラスメイトたちは皆、薄ら笑いを浮かべて目を逸らし、そそくさと着替えを済ませて部活動や下校へと向かっていく。
終業を告げるチャイムが、遠くで物悲しく鳴り響いた。
誰もいなくなった冷たい更衣室に、セーラは一人ポツンと取り残された。濡れた水着だけが、今の彼に残された唯一の衣服だった。
◇
しばしその場に一人立ちすくんでいたセーラだったが、やがて意を決したように、濡れた水着のまま裸足で廊下へと足を踏み出した。
その姿は、嫌でも周囲の目を引いた。移動教室に向かう他クラスの生徒や上級生たちが、すれ違いざまにギョッと足を止める。
「うわ、何あいつ」
「裸? 水着?」
「あれ、ダイヤモンド◇プリンスじゃね」
「下働きだったんだろ、裸で何やってんだ」
「用具室で立ちションした奴だろ? 狂ったんじゃね?」
露骨な嘲笑と蔑みの視線が、無数の矢のように突き刺さる。
廊下にペタペタと濡れた足跡を残しながら歩く惨めな自分を、認めたくなかった。セーラはうつむき、両腕で顔を隠すようにして進むしかなかった。
教室へ向かうため、中庭のプール脇の通路に差し掛かった時のことだった。
「おや? セーラ君だよね?」
「……」
「なに顔、隠してんだよ?」
花壇の脇で、ジェシーたち生徒会メンバーが待ち構えていた。彼らの手には、蛇口に繋がれた太いホースが握られている。
「顔見せてよ、セーラ君!」
ジェシーがホースのノズルを全開にする。高水圧の冷水が、セーラの顔目掛けて勢いよく放たれた。
「ひっ……!」
「やっぱりセーラ君じゃん」
「用具室でのお漏らしの汚れ、まだ落ちてないんじゃない?」
ニヤニヤと嘲笑うジェシーの言葉に、セーラは反射的に顔を上げ、叫んだ。
「ちがうっ、漏らしてないっ!」
「あ、そうだったね! 用具室で堂々と『立ちション』してたんだっけ! こりゃ失礼、ごめんごめん!」
ジェシーがわざとらしく手を叩いて笑うと、取り巻きたちも一斉に下劣な笑い声を上げた。
「立ちションの後、手洗ってないだろ?」
強烈な水圧にバランスを崩し、セーラはコンクリートの地面に無様に這いつくばった。逃げようと這いずるが、ジェシーたちはゲラゲラと笑いながら四方から執拗に水を浴びせかける。
「ほらほら、ちゃんと洗えよ!」
「やめ……っ、やめろ……げほっ!」
息も絶え絶えに水浸しになり、泥水に塗れて地面を這い回るかつての学園の至宝——変わり果てたダイヤモンド◇プリンス。
その凄惨で滑稽な光景を、渡り廊下の2階の窓から、アーメンガードがネットリとした熱い視線で見下ろしていた。極上の嗜虐心を満たされ、彼の口から甘い溜息が漏れる。
◇
「はあ……っ、はあ……っ」
全身ずぶ濡れになり、泥だらけの足を引きずりながら、セーラはようやく職員室の重い扉の前へとたどり着いた。寒さと恐怖で、唇は紫色に変色し、全身の震えが止まらない。
そこへ、ちょうど職員室から出てきたアメリアが通りかかった。セーラはすがるような思いで、濡れた顔を上げた。
「あ、アメリア先生……っ、僕、服を隠されて……」
「……お前、なんだその格好は」
「あ……っ? その、これは……」
「いいから、早く着替えてこい。ちゃんと服を着るまで、戻ってくるなよ」
アメリアはセーラの話を遮ると、一度も振り返ることなく、足早に廊下の向こうへと去っていった。
濡れた水着姿のまま救済の希を失ったセーラは、冷え切って震える。その場に崩れ落ち、絶望の中、膝を抱えてうずくまることしかできなかった。
「……セーラ」
ふと、頭上から震える声が降ってきた。
「ロッティ……? 反省室から、出てこられたの……?」
驚きに顔を上げたセーラに、ロッティは小さく頷き、周囲の目を気にしながらも持っていたタオルをセーラの肩にバサリと掛けた。
「うん……。それより……早く更衣室に行こう」
孤立無援の地獄に差し伸べられた、唯一の救いの手。セーラは堪えきれずに涙を零し、ロッティの腕に縋りついた。
しかし、そのささやかな救済を、教室の中から冷ややかに見つめる目があった。
教室の窓がガラリと開き、アーメンガードが底冷えするような声を放った。
「……随分と優しいんだな、ロッティ。お前も、ターゲットになりたいのか?」
その氷のような脅しの言葉に、ロッティの顔からサッと血の気が引いていった。
つづく
22話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8142
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「!……セーラ…」
逆らえないほどの強い力で、乱暴にシーツに押さえつけられたかと思ったら……僕 の首筋に深く、容赦なく牙が突き立てられた。
「痛……っ!」
痛くて、息もできなくて……でも、頭の奥が真っ白になるくらい激しくて、奥のほうまで全部ぐちゃぐちゃにされちゃって……っ。
次回、A-Little-Prince 第23話。
ねえ、セーラ……噛まれたところがずっとチリチリ熱いんだけど。君、僕の身体に何をしたの……?
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