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#31 セーラへの虐め もう……漏れちゃう……っ!
「——セーラのしつけはどうなっている、アーメンガード」
ソファにふんぞり返るミンチン院長が、苛立たしげにカップを置いた。セーラの父親が残した莫大な借金やトラブルの余波が、ここに来て再び学園の運営に影を落とし始めていたのだ。
「生徒会がだらしないから、あのクソガキがいつまでも学園の空気を乱すんだ。……お前たちが役に立たないなら、今夜あたり私が直接あいつの部屋に行って、たっぷりと『教育』してやらなきゃならないな」
その言葉に含まれたねっとりとした毒気に、アーメンガードは背筋を凍らせながらも、深く頭を下げた。
「……申し訳ありません。早急に対処します」
口ではそう従順に答えながらも、アーメンガードの腹の底には別の熱が渦巻いていた。頭の中を支配しているのは、今朝ベッドのうえでラビニアが見せたあの「反抗的な瞳」だ。あいつの無駄なプライドをどうやってへし折ってやろうか。セーラの件など、今の彼にとってはひどく面倒でどうでもいいことだった。
◇
院長室を出たアーメンガードは、すぐさまジェシー、ガートルードをはじめとする面々を生徒会室に招集した。
「院長がセーラの躾けの件でお冠だ。お前ら、なんとかしろ」
アーメンガードが苛立たしげに丸投げすると、ジェシーがいやらしい笑みを浮かべてすり寄ってきた。
「じゃあ……『休み時間の排泄』を徹底的に妨害するのはどうでしょう?」
「ほう?」
「まずは1時間目後の休み時間に、全クラス分のプリント配りをあいつ一人に押し付けます。あれだけ走り回れば、用を足す暇なんてありませんよ。その後も、オレたちで手分けして学園中のトイレを封鎖してやるんです」
その陰湿な計画に、アーメンガードは興味なさげに頷いた。
「……悪くない。いい作戦だ。だが、俺は『別の重要な計画』を練らなきゃならない。ガートルード、実働部隊はお前に任せる。お前らでセーラを徹底的に追い詰めろ。——ジェシー、お前は残れ」
「えっ、あ、はい!」
急な大役の指名にガートルードは卑しい笑みを浮かべ、他のモブ役員たちを引き連れて足早に教室を出て行った。
その陰湿すぎるやり取りを傍らで聞かされていたラビニアが、たまらず口を開いた。
「……いくらなんでも、やりすぎだろ、アーメンガード」
だが、アーメンガードは氷のような視線をラビニアに向けると、冷酷に鼻で嗤った。
「お前、『ペット』の分際で、主人に意見するつもりか」
「……っ!」
圧倒的な威圧の前に、ラビニアは屈辱を噛み締め、力無く生徒会室を後にした。
◇
そうして、ガートルード主導による陰湿なイジメが幕を開けた。ジェシーの計画通り、1時間目後の休み時間。うず高く積まれたプリントの束を押し付けられたセーラは、息をつく暇もなく廊下を走り回る羽目になった。
そして2時間目後の休み時間。
朝から一度も用を足せていないセーラは、下腹部に重い圧迫感を覚え、足早にトイレへと向かっていた。しかし、様子がおかしい。
学園内のトイレというトイレに、ガートルード率いる生徒会の面々が陣取り、完全に封鎖していたのだ。
絶望的な思いで別の階のトイレへ向かったセーラだったが、そこには腕を組んだガートルードが立ち塞がっていた。そして、その傍らにはメイドのベッキーの姿もあった。
「おいメイド。お前、このトイレを占拠しろ。何人たりとも中に入れるなよ」
しかし、ベッキーは冷めた目でガートルードを見つめ返した。
「……そんなこと、私にはできません」
それは、絶対的な権力を持つ生徒会への、明らかな反抗だった。
「……ふん。お前、今の態度覚えておけよ」
ガートルードが低く凄むと、ベッキーは怯えたように目を伏せ、足早にその場から逃げ去っていった。
「……ふん、まあいい。ほらセーラ、ここは『使用中』だ。漏らしたくなかったら他を当たるんだな」
青ざめて股を擦り合わせるセーラを、取り囲んだモブ役員たちが下劣な笑い声で嘲った。
◇
3時間目後の休み時間。
いよいよ限界を迎え、涙目で内股になりながら小刻みに震えるセーラを、ガートルードが水飲み場に追い詰めた。
「お前もしぶといな。ほら、あんなに走り回ったんだ。喉が渇いてるんだろう?」
ガートルードはセーラの首根っこを掴むと、無理やり蛇口に顔を近づけ、バルブを全開にひねった。
「んぐっ……! むぐぅっ……! げほっ……!」
「あはは! もっと飲めよ!」
冷たい水が容赦なくセーラの口と鼻に流れ込む。下腹部がはち切れそうな状態でさらに大量の水を飲まされ、セーラは恥辱と生理的な限界でガクガクと膝を震わせた。
(ダメだ、もう……漏れちゃう……っ!)
「——おい、お前ら。何やってんだ」
その時、背後から冷ややかな声が響いた。ラビニアだった。
「ら、ラビニアさん……これはアーメンガード会長の命令で……」
ガートルードが怯んだ隙を突き、ラビニアは蛇口のバルブを捻って止めた。
「ジェシーが探してたぞ。次の作戦の打ち合わせだとか言ってな。ここは俺が見張っておくから早く行け」
「え、あ、はいっ!」
ラビニアが適当な嘘でガートルード追い払うと、その隙にセーラの腕を強く引いた。
「来い!」
ラビニアは限界寸前のセーラの腕を強く引き、あの「三人部屋」へと駆け込み、個室トイレに押し込んだ。
◇
その頃、生徒会室ではアーメンガードとジェシーが密談を交わしていた。
「……で、どうやってラビニアに最高の屈辱を与えるか、だが」
アーメンガードの問いに、ジェシーはニヤリと毒のある笑みを浮かべる。
「いつだったか、あいつが会長にやった『ティーカップと鞭』の罰……あれをそのまま、お返ししてやるのはどうでしょう?」
「……最高だな。お前、控えめに言って天才だな。それで行こう」
歪んだ笑い声を上げ、アーメンガードは立ち上がった。
「さて、そろそろ部屋に戻って、あの生意気な顔を拝んでくるか」
◇
「……っ、はぁっ……はぁっ……」
しばらくして、トイレから出てきたセーラは壁に手をつき、荒い息を吐いていた。
「……なんで、助けたりしたの」
セーラは俯いたまま、絞り出すような声で言った。
「僕のことなんか庇ったら、君がアーメンガードに目をつけられて、ひどい目に遭うんだよ……! もう、ほっといてくれよ……っ!」
強がる言葉とは裏腹に、極度の緊張から解放されたセーラの足からふっと力が抜ける。その身体が床に崩れ落ちる前に、ラビニアが力強く抱きとめた。
「……いいから、今は黙ってろ」
ラビニアの温かい体温に触れた瞬間、セーラの中で張り詰めていた糸がプツリと切れた。「うぅっ……、あぁぁっ……!」と、セーラはラビニアの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣き崩れた。
ラビニアもまた、愛おしそうにその華奢な背中を抱きしめ返した。
——と、その時だった。
——ガチャッ。
静寂を破り、部屋のドアが開いた。そこに立っていたのは、セーラを探してやってきたアーメンガードだった。
「……なるほど。そういうことか」
抱き合う二人を見て、アーメンガードの目が氷のように冷たく細められた。
空気が凍りついたその時、タイミングを計ったように、遠くから始業のベルが鳴り響いた。
「……まあいい。ベルが鳴ったぞ。教室へ戻るぞ」
アーメンガードはそれだけ言うと、忌々しげに踵を返した。ラビニアもセーラから体を離し、無言のまま三人で教室へと向かう廊下を歩き出す。
少しして、アーメンガードが後ろを歩くセーラの隣に並び、小声で、蛇のように囁いた。
「いいご身分だな、セーラ。あいつに庇ってもらって」
「……っ」
「いいか、よく聞け。今後またお前がラビニアから助けを受けたり、言葉を交わしたりしてみろ。……今度は、ラビニアがお前以上の『ひどい目』に遭うことになる。俺が必ずそうする」
「……!」
「分かるなセーラ。あいつに迷惑は掛けたくないだろ?」
遠ざかる足音が静寂に呑まれると、開け放たれた窓からひやりとした風が滑り込んできた。
むせ返るような夏の熱気は、とうに消え失せている。
いつの間にか秋の冷気を孕んでいたその風だけが、これから続く無慈悲な日々を、ただ静かに告げていた。
つづく
31話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8160
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院長先生に「次に逆らったらクビにして、実家への仕送りを止める」って脅されて……私 にはもう、どうすることもできなかったの。田舎にいる幼い弟や妹たちを、路頭に迷わせるわけにはいかないから……っ。
あんな卑劣なやり方でセーラを驚かせてカップを落とさせるなんて、いくらなんでもあんまりだよ……!
でも、私には生徒会に逆らうことなんてできなかった。目を閉じて、力任せに鞭を振り下ろすしか、道はなかったの……っ。
次回、A-Little-Prince 第32話。
ごめんなさい……。⚡️——ピシャァンッ 私を許して……
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