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#35 ラビニアからロッティの妊娠を知らされるセーラ
放課後の生徒会室。分厚いカーテンが引かれた薄暗い部屋で、アーメンガードが不機嫌そうに机の脚を蹴り上げた。
「また院長にチクチク言われちまったよ。セーラの躾けはどうなってるんだってな。何かいいアイデアはないのか、お前ら」
苛立つアーメンガードの機嫌を取るように、ジェシーが身を乗り出した。
「それなら、またどこかに閉じ込めるのはどうですか? この前(21話参照)の体育倉庫は警戒されるでしょうから……図書室の奥にある、古い資料室なんかいいと思います。あそこなら誰も寄り付きませんし」
「なるほど。悪くない」
アーメンガードは歪な笑みを浮かべると、部屋の隅で黙り込んでいるラビニアに視線を向けた。
「ラビニア、お前はどう思う?」
「……え?」
「ぼーっとしてんじゃねえよ」
「……すみません」
ラビニアは屈辱に目を伏せ、従順なフリをして謝罪する。
(いつか必ず、寝首を掻いてやる……)
しかし、今のラビニアの頭の中を支配しているのは、目の前のアーメンガードへの復讐心だけではなかった。ロッティの異変と——ひょっとすると、自分自身もあの日、セーラの子を妊娠してしまったかもしれないという恐怖だった。
◇
翌日の放課後。ジェシーの提案通り、セーラを図書室の奥の古い資料室へと誘い込む作戦が実行された。
人気のない薄暗い廊下で、ジェシーたち生徒会の面々にぐるりと退路を塞がれた。ジリジリと、追い詰められていく。
(……また、始まった)
半ば諦めのような冷めた思考で、セーラは事態を悟った。以前、体育倉庫に閉じ込められた時の記憶が嫌でも蘇る。これから何時間、あるいは一晩中、あの狭くて埃っぽい部屋に閉じ込めて——また、トイレに行かせないつもりだ。
ドンッ、と生徒会のモブが、セーラの肩を乱暴に小突く。
「ほら、さっさと入れよ元・プリンス!」
よろけたセーラが資料室の入り口まで押し込まれたのを確認すると、ジェシーは、部屋の隅でうつむいているラビニアへ視線を向けた。
「ラビニア、あとはお前がそいつを放り込んでおけよ。こっちは外で見張ってるからな」
ジェシーがニヤニヤと笑いながら持ち場を離れる。ラビニアは無言のままセーラの腕を掴み、資料室の中へと押し込んだ。だが、そのまま外から鍵をかけるかと思いきや、ラビニア自身も一緒に中に入り、内側からカチャリと鍵を下ろした。
狭く薄暗い密室。埃の匂いが立ち込める中、セーラは静かにラビニアを見つめ返した。
「僕のことは庇わなくていい。このままここに閉じ込めておけばいいよ」
「そうじゃない……答えろ。お前、今の自分は『アルファ』と『オメガ』、どっちだと思ってる?」
「急に何を……」
「いいか。お前は、この学園に入ってきた時は間違いなく『アルファ』だった。俺は院長の記録も見てるから知ってるんだ」
「僕が……アルファ……?」
「そう。でも……あの時はごめん。お前に、アルファ用の制御チョーカーをつけたこと」
気まずそうに視線を逸らしながら、ラビニアは過去の事件を振り返る。
「あの時、お前はヒートになってロッティの首を噛んだのに、番の刻印は出なかった。(7話参照)だから、お前が完全にオメガに転移したんだと思ってた。……でも、もしそれが不安定に揺らいで、一時的にアルファに戻っているとしたら?」
ラビニアのただならぬ剣幕に、セーラは言葉を失う。
「セーラ、ロッティのやつ……おそらく妊娠してる。お前の子じゃないのか?」
「そんな……?」
「もしお前が、アルファに戻っているなら……」
ラビニアは自身の腕を強く抱きしめた。恐怖だけではない。セーラに強引に組み敷かれたあの夜の、抗いがたいアルファの熱がフラッシュバックし、ラビニアの白い頬をみるみると朱に染めていく。
「あの日のお前……っ///// 」※27話参照
逃げ場を奪うように背後からのしかかってきた重み。オメガとして蹂躙された屈辱と、あの抗いがたい雄の熱を思い出しただけで、オメガの秘所がぐっしょりと濡れそぼり、情欲に膝から崩れ落ちそうになる……
「忘れられないんだ……あの日のこと……っ/////」
◇
その日の夜。
冷たい木枯らしが吹きすさぶ、屋根裏の自室。
セーラは一人、古びたベッドの隅に座り込んでいた。ラビニアからいっぺんに叩きつけられた言葉の数々が、頭の中でぐるぐると渦を巻いている。だが、元より温室で純粋培養されてきたセーラにとって、性のリアルな知識はひどく乏しかった。無防備に育ってきたセーラにとって、「アルファへの回帰」や「妊娠」という言葉の重みは、すぐには現実のものとして受け止めきれなかった。
傍らにあるのは、片腕のもげた人形・エミリー。それはロッティから預かっている大切なものだった。※17話参照
誰にも相談できない孤独なセーラにとって、この声を持たない人形だけが昔からの聞き手だった。
「……なあ、エミリー」
セーラは、エミリーのガラス玉の瞳を見つめながら、ぽつりと独り言をこぼした。
「僕はアルファで、ロッティが妊娠……。そんなことあるわけないよね……?」
無知ゆえの戸惑いが、冷え切った部屋に虚しく響く。もちろん、腕のもげた人形は何も答えてはくれない。静寂の屋根裏部屋で、セーラは迫り来る決定的な破滅の足音にまだ気づかないまま、ただ暗闇の中で膝を抱えていた。
つづく
35話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8164
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昨日の資料室の件、俺 (アーメンガード)が何も知らないとでも思ってたのか?きっちり問い詰めてやったら、ラビニアのやつ「俺へのクリスマスプレゼントを買いに行かせてほしい」なんて、殊勝なことを言い出しやがった。
……ふん。あのラビニアが素直にそんなことを言うなんて、何か裏で企んでる気もするが……まあいい。俺の『調教』も、随分と成果が出てきたってことだな。
生徒会室でさっそく可愛がってやろうとしたら、「続きは夜のお部屋で」なんて焦らしやがって。
次回、A-Little-Prince 第36話。
俺の可愛いペット……今夜はたっぷり泣かせてやるよ。
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