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#38 暴かれた秘密、ロッティの妊娠

その日の放課後、ホームルームが終わろうとした時だった。 教壇の前に立ったジェシーが、パンパンと手を叩いて教室中の視線を集めた。 「皆、そのまま聞いて! 今日は院長の号令で、急遽持ち物検査をします! 全員、カバンを机の上に置いてください!」 「えーっ、マジかよ」「急すぎないか?」と不満げな声が上がる中、ジェシーは風紀を正すという名目を隠れ蓑にして、取り巻きたちと共に前の席から順番にカバンの中身を調べ始めた。 その様子を後ろの席で見ていたロッティは、さあっと血の気を引かせた。 カバンの中には、昨夜ベッキーの部屋で使った『妊娠検査薬の空き箱』が入ったままになっている。見られるわけにはいかない。 ジェシーたちが列を後ろへと進め、ロッティの席が近づいてくる。 耐えきれなくなったロッティは、カバンを引ったくるように抱え込むと、脱兎のごとく教室の出口へと走り出した。 「あっ! おい、ロッティが逃げたぞ! 捕まえろ!」 ジェシーの叫び声に、ガートルードや他の生徒たちが反射的に動き、教室の入り口でロッティを羽交い締めにして取り押さえた。 「離してっ! 触らないでっ!」 「大人しくしろよ! お前、何かやましいものでも隠してんのか?」 ジェシーがロッティの手から強引にカバンを奪い取り、机の上に中身を逆さまにしてぶちまけた。教科書やノートと共に、見慣れない物が転がり落ちる。 「……ははっ、やっぱりな。最近様子がおかしいから、怪しいと思ったんだよ」 ジェシーは空き箱をつまみ上げ、教室中に見せびらかすように嘲笑った。「お前ら、ロッティのやつ妊娠検査薬なんて持ち歩いてるぞ!」 教室が下卑たざわめきに包まれる。 「ねえ、こっちは何?」 ガートルードが、手にしたのは、ムッシュ・デュファルジュから預かった手紙、その封筒だった。※27話参照 「こ、これは何? 誰かからのラブレターじゃないの?」 「何々? 見せろよ」 ジェシーが横から覗き込み、ガートルードから封筒を奪い取った。 「なんだ、中身は空じゃないか」 ——と、その時だった。 「返してよッ!!」 ロッティがこれまでにない凄まじい剣幕で叫び、押さえつけていた生徒たちを振り解いてジェシーに飛びかかった。 「うわっ、なんだよ急に!」 「こんなゴミが大切か? ほらよ」 そう言うと、開いていた窓の外へ向かって思い切り放り投げてしまった。 「ああっ……!」 ヒラヒラと風に舞いながら落ちていく封筒を見て、ロッティは悲鳴のような声を上げた。ジェシーたちの冷たい嘲笑を背に受けながら、ロッティは慌てて教室を飛び出し、フラフラとした足取りで中庭へと駆け出していった。 ◇ 冬の冷たい風が吹き抜ける中庭の植え込みを、ロッティは半泣きになりながら必死に這いつくばって探していた。 「どこ……どこにいっちゃったの……」 どれほど探しただろうか。見つからない焦りと寒さで、ロッティの息は白く荒くなっていく。途方に暮れて力なく俯いた、その時だった。 「こんな所で何をしているんだ?」 ふいに頭上から声をかけられ、ロッティはビクッと肩を震わせた。見上げると、腕を組んだラビニアが冷ややかな視線で見下ろしていた。 「ラビニア……」 「ジェシーたちに勘づかれたようだな。……もう、隠しきれなくなるぞ」 ラビニアは小さくため息を吐くと、少し声を潜めて尋ねた。 「……妊娠検査薬の結果はどうだった?」 ロッティは何も答えられず、ただギュッと唇を噛み締めて震えていた。その態度だけで、陽性だったのだという結果は明白だった。 「……そうか」 ラビニアは低く呟き、ロッティの顔を覗き込んだ。 「心当たりは? ……やっぱり、セーラなのか?」 「……わからない」 ロッティが消え入るような声で絞り出すと、ラビニアの眉がピクリと動いた。 「わからない? ……もしかして、他に心当たりがあるのか?」 ロッティは真っ青な顔のまま、固く口を噤んでしまった。その沈黙に、ラビニアはそれ以上踏み込む言葉を見つけられなかった。 ◇ 放課後。 生徒たちが帰り、誰もいなくなった静かな中庭に、硬い革靴の足音がコツ、コツと響き渡った。 乾いた冬の風が吹き抜け、地面をカサカサと滑ってきた古い封筒が、その革靴の足元でピタリと止まる。 「……おや?」 ミンチン院長は立ち止まり、足元に落ちていたその封筒をゆっくりと拾い上げた。 裏返して宛名を見た瞬間、院長の細い目がスッと見開かれる。 差出人は『デュファルジュ』。かつて、セーラとアーメンガードを庇って自分に盾突いた、あの忌々しい元フランス語教師。学園を叩き出したはず(12話参照)の男の名前が、なぜ今ここにあるのか。そして宛名には、『アーメンガード・セントジョン』の名前…… (……なるほど。あの時から、裏で繋がっていたというわけか) ミンチンは空の封筒を指先でなぞりながら、獲物を見つけた捕食者のように、口元に怪しく歪んだ笑みを浮かべた。 つづく 38話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8167 — 院長に(アーメンガード)の力を誇示してやりたかっただけなんだ。かつてのお気に入りだったラビニアが、今は俺の『ペット』なんだって見せびらかしたかっただけなのに。……なんでお前は、あんな大泣きして逃げ出していくんだよ。 でも、今はそれどころじゃないんだ!院長が突きつけてきた、デュファルジュから俺宛の『空の封筒』。 俺は本当に手紙の中身なんて知らない! なのに、あの氷のような目は、俺の言葉を微塵も信じちゃいない。 次回、A-Little-Prince 第39話。 俺は本当に何も知らないんだ……そんな手紙、見たことも聞いたことも無いんだ!

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