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#41 偽りの手紙で誘き寄せるミンチンの罠
翌日、院長室。
ミンチンは冷ややかな目で、目の前に立つアーメンガードを見下ろした。昨夜の冷酷な尋問で身も心もボロボロにされたアーメンガードは、怯えたように肩を震わせ、すっかり萎縮している。
「あの空の封筒の中身……持ち去ったのは本当にお前ではないのだな」
「は、はい……! 本当に、僕は何も……」
「だが、学園の規則を破り、私に隠れてセーラの手引きをした罪は重いぞ。……本当にお前が手紙の内容を知らないというなら、本人に直接聞くしかないな。セーラをここに連れてこい」
「……はい、院長先生」
惨めさに打ちひしがれながら、アーメンガードは重い足取りで院長室を後にした。
◇
薄暗く冷え切ったセーラの屋根裏部屋。
ギシッ……、ギシッ……。
そこへ、古びた階段を重く軋ませながら、誰かが上がってくる。
ギィ、と扉が開き、ぬっと姿を現したその顔を見て、セーラは小さく息を呑んだ。
「アーメンガード……?」
振り返るセーラに対し、アーメンガードの瞳には暗い憎悪が渦巻いていた。昨夜、自分がミンチンからどれほど屈辱的な扱いを受けたか。その元凶は、すべて目の前にいるかつての『ダイヤモンド◇プリンス』なのだ。
「院長先生がお呼びだ。……すぐに行け」
冷たく吐き捨てるように告げると、セーラは不安そうに顔を曇らせながらも、無言で立ち上がり階下へと向かっていった。
誰もいなくなった、氷室のような屋根裏部屋。一人残されたアーメンガードは、ギリッと唇を噛み締めた。
「お前のせいだ……お前のせいで、俺は……」
ドロドロとした怒りのやり場を求めるように、アーメンガードの視線が、硬いベッドの上に置かれた『一枚だけの薄い毛布』に止まった。冷たい隙間風が吹き込むこの部屋で、セーラを少しでも温めていた唯一の布切れ。
アーメンガードは無言でその毛布を掴み取ると、憎悪を込めて一度、埃っぽい冷たい床にバンッと叩きつけた。
そして、アーメンガードはそれを抱え込むと、鬱憤を晴らすように屋根裏部屋から持ち去っていった。
◇
院長室に足を踏み入れたセーラは、張り詰めた空気の中で静かに頭を下げた。
革張りの椅子に深く腰掛けたミンチンは、獲物を値踏みするようなねっとりとした視線をセーラへと絡ませる。
「……アーメンガードからすべて聞いたぞ。お前があいつに託して、私に隠れて手紙を出したそうだな」
「……!」
セーラはハッとして顔を上げた。ミンチンの言葉に、背筋に冷たい汗が伝う。
デュファルジュが機転を利かせて宛先を変えてくれたことなど知る由もないセーラは、学園に届いた返事の手紙が、ミンチンの検閲に引っかかってしまったのだと思い込んでいた。
「その手紙の返事が……ここに来ているぞ」
ミンチンは、手元に手紙の中身などないことを微塵も悟らせず、余裕の笑みを浮かべてはったりをかました。
「っ……院長先生、どうか! その手紙を……!」
すがるように一歩を踏み出したセーラを見て、ミンチンは口角を吊り上げる。
「そんなに読みたいか? よかろう」
ミンチンは立ち上がり、ゆっくりとセーラに歩み寄ると、その耳元でひどく甘く、低い声を落とした。
「手紙の内容が見たければ、今夜私の部屋に来なさい。……お前の『心がけ』次第では、渡してやってもいいぞ」
それは、あまりにもあからさまで卑劣な要求だった。
セーラは血の気を失った顔で、ただ屈辱に震えながら立ち尽くすことしかできなかった。
◇
同じ頃、ミンチン学園と隣の屋敷を隔てる高いレンガ塀のそば。
デュファルジュは冷たい風にコートの襟を立てながら、学園の屋根裏部屋の小さな窓を暗い顔で見上げていた。
(……返事の手紙をロッティに託してしまったが、無事にアーメンガードへ、そしてセーラへ届いただろうか……)
どうにも嫌な胸騒ぎがして、居ても立っても居られず学園の周りをうろついていたのだ。
本来なら自分が直接手渡すべきだった。もしあの手紙がミンチンの手に渡るようなことになれば、セーラの身にどんな罰が下るか分からない。
「……随分と熱心に、見上げておいでですね」
ふいに、頭上から音もなく声が降ってきた。
「誰だ!」
デュファルジュが弾かれたように振り返り上を見上げると、高い塀の上に一人の男がしゃがみ込んでいる。薄暗い空模様の下、姿を現したその顔を見て、デュファルジュは息を呑んだ。
「君は……ラムダス? セーラくんの専属だった……」
かつて『ダイヤモンド◇プリンス』だったセーラに仕えていた、異国情緒漂う従者。学園でもひと際目立つ存在だったため、元教師のデュファルジュが見間違えるはずもなかった。
「なぜ君が塀の外にいる? セーラくんが没落した後も、君は学園にこき使われていたはずじゃ……」
ラムダスは猫のようにしなやかな動作で塀から飛び降りると、一切の足音を立てずにデュファルジュのそばへと降り立った。
「お久しぶりです、デュファルジュ先生。……あなたが学園を追放された後、馬小屋で火事が起きましてね。私はそのどさくさに紛れて、この塀を越えて逃げ出したのです」
「火事だと……?」
「ええ。そして運良く、隣の屋敷の主人であるクリスフォード様に拾われ、今は匿っていただいている身です」
「そうか……。それで君は、セーラくんのことを……」
「ええ、案じております」
ラムダスは静かに頷き、再び屋根裏の暗い窓へと視線を向けた。その横顔には、かつての主人を案じる深い憂いが滲んでいる。
「本当なら、今すぐにでもこの塀を越えてお救いしたい。……ですが、セーラ様ご自身が、亡きお父様の罪を償うために下働きとして残ることを選ばれた。私が無理に連れ出せば、あの方の誇りを傷つけることになってしまいます」
「……ああ。彼なら、そう考えるだろうな」
「だからこそ、こうして外から見守り、お救いできる『その時』を窺っているのです。……ですが」
ラムダスは目を細め、冷たい空気に沈む学園を静かに睨んだ。
「どうにも、嫌な予感が拭えないのです。分厚い壁の向こうで、セーラ様の身に何かよからぬことが起きているのではないかと……」
ラムダスの意味深な言葉に、デュファルジュはハッとした。
外から見守り、案じることしかできない大人たち。彼らの憂慮をよそに、氷室のような学園の内部で今まさに最悪の事態が進行していることなど、知る由もなかった。
つづく
41話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8181
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暗くて冷たい廊下の隅で、重い扉を見つめながら、俺 は立ち尽くしていた。……この扉の向こうで、今、何が行われているか。そんなこと、嫌でも分かってる。
院長先生が、セーラを……あのベッドで容赦なく蹂躙しているんだ。分厚い壁の向こう側を想像するだけで、頭がおかしくなりそうだ。
次回、A-Little-Prince 第42話。
ねえ、院長先生。もう俺のことは抱いてくれないの……?
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