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#46 ミンチンの番となるセーラ
ガチャン、と重い鍵の音が響き、ミンチンの足音が遠ざかっていく。
密室となった豪奢な寝室。
広いベッドの上には、服を剥ぎ取られたまま身を縮め、「手紙……手紙を……」とうなされるように涙を流すセーラが取り残されていた。
その痛ましい姿を、ベッドの傍らに立つアーメンガードは、微動だにせず見下ろしていた。
優越感、嫉妬、ミンチンへの絶望、そしてセーラへの歪んだ愛情。様々な感情がどす黒く渦巻き、自分でも自分がどうしたいのか分からなくなっていた。
やがて、アーメンガードは無言のままポケットに手を入れると、ガサリと音を立てて『封筒』を取り出した。
「……お前の欲しがっている手紙って、これのことか?」
「え……?」
その言葉に、セーラの焦点の合っていなかった瞳がハッと見開かれた。
「言ってなかったかもしれないな。あの日、お前から手紙を出しに行ってくれと頼まれた時……偶然、デュファルジュ先生にお会いしたんだ。だから、手紙は先生に託した」
アーメンガードは、手元の封筒をヒラヒラと弄びながら冷酷に告げた。
「そして、その返信は、デュファルジュ先生からこの僕に預けられたんだよ」
「あ……! それを……それを僕に渡してくれるの……?」
セーラは藁にもすがる思いで、ベッドから身を乗り出した。
しかし、アーメンガードはスッと封筒を遠ざけ、薄暗い笑みを浮かべた。
「それはどうかな。……お前の心掛け次第じゃないか?」
その言葉の真意を悟り、セーラは絶望に顔を歪めた。
だが、もう抵抗する気力すら残っていなかった。セーラは静かに目を伏せ、シーツの上で力なく身を横たえた。
「……わかったよ。君も、ミンチン先生と同じなんだね。好きにするがいいよ」
死んだ魚のような目で、無抵抗に身体を差し出すセーラ。その態度は、アーメンガードの逆鱗に触れた。
「ふざけるなッ!!」
アーメンガードは激昂し、セーラの肩を乱暴に掴み上げた。
「そんな態度で僕が満足すると思うか! まるで僕が、あの院長と同じ薄汚い真似をしているみたいじゃないか! ……今、お前がミンチン先生にされていたようなことを、僕にもしろ! お前が僕に奉仕しろ!」
「っ……」
「そうすれば、この手紙はくれてやる」
その条件に、セーラは唇を噛み締めた。
だが、新大陸のダイヤモンド鉱山の秘密が書かれているかもしれないその手紙は、セーラにとってここから抜け出すための唯一の希望だ。
「……わかった。本当に、そしたら手紙はくれるんだね」
セーラは覚悟を決めたように震える息を吐くと、ゆっくりとアーメンガードの足元へと顔を近づけていった。
——と、その時だった。
「おい、アーメンガード。もう……いい加減にしろッ!!」
背後でずっと様子を窺っていたラビニアが、たまらずアーメンガードに飛びかかった。
「邪魔をするな、ラビニアッ!」
「いいから、大人しくしろ!!」
もみ合いになった瞬間、ラビニアは隠し持っていた冷たい金属の輪を、アーメンガードの首元にガチャン!と強引に嵌め込んだ。
「な……っ!? なんだ、これは……っ」
それは、発情や暴力的な衝動を強制的に鎮めるための『アルファ用制御チョーカー』だった。
カチリと錠が掛かった瞬間、首輪から特殊な薬効成分が皮膚を通して流れ込み、アーメンガードの身体を強制的にクールダウンさせていく。
「あーーーーーっ」
アーメンガードの瞳から、どす黒い狂気がスッと引いていく。
嵐が過ぎ去ったあとのような静寂。正気を取り戻したアーメンガードは、自分が今まで何をしてきたのか——セーラを虐げ、傷つけ、今まさに無理矢理犯そうとしていた——というおぞましい事実を、唐突に理解した。
「あ……あぁ……っ」
アーメンガードは封筒を取り落とし、両手で顔を覆ってその場に泣き崩れた。唐突に泣き叫び始めたアーメンガードを見て、セーラはポカーンと呆然とするしかなかった。
(今だ……!)
だが、セーラはすぐに我に返り、床に落ちた封筒を素早くひったくった。
しかし——
「え……?」
封筒の中には、何も入っていなかった。ただの『空っぽの封筒』だったのだ。
「……どういうことだ、アーメンガード! 手紙は……中身はどこだ!?」
セーラは泣き崩れるアーメンガードを問い詰めた。
しかし、完全に正気を取り戻し、自身の罪の重さに絶望したアーメンガードは、放心状態のまま虚空を見つめ、何も答えることができない。ラビニアもまた、急展開に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
——と、その時だった。
——ガチャッ。
扉が再び開く。そこには先ほど寝室を出て行ったミンチンの姿があった。
「——せっかくのプレゼントを放り出して、何をしているんだい? アーメンガードと、そのペット」
床で意気消沈するアーメンガードと、中身のない封筒を握りしめて青ざめるセーラ。その惨状を見たミンチンは、すべてを嘲笑うように冷たく言い放った。
「お前たちのような未熟者には、このじゃじゃ馬は乗りこなせないだろう?」
ミンチンはゆっくりと歩み寄ると、逃げようとしたセーラの背後から容赦なく髪を掴み、その白い首筋を無防備に露出させた。
「よく見ておけ!!」
ミンチンはアーメンガードたちに冷たい視線を向けたまま、セーラの白く柔らかな首筋のうなじへと、鋭い牙を立てて深く噛み付いた。
つづく
46話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8192
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首の冷たいチョーカーのおかげで、僕 はやっと正気を取り戻すことができた。これまでの非道を土下座して謝った僕を……セーラは『下僕になるなら』と許してくれたんだ。
これからは僕がセーラの『ナイト(騎士)』になって、今度こそあいつを守り抜いてみせる!
そう固く決意したはずだったのに……。「お前はもう生徒会長じゃないんだよ」
ジェシーにゴミのように突き飛ばされて、僕は残酷な現実に打ちのめされた。
次回、A-Little-Prince 第47話。
セーラの盾になるどころか……すべてを奪われた僕自身が、真っ先に血祭りにあうなんて……ッ!
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