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#47 心まではミンチンに屈しないセーラ。アーメンガードはセーラの下僕に
アルファがオメガの首筋 の腺を深く噛み破り、己のフェロモンを直接血肉に刻み込むこと。
それが、この世界において絶対的な所有と服従を意味する『番』の契りである。
それは一生消えることのない、魂と肉体の隷属を意味していた。
その夜。——密室のベッドの上で、セーラ・クルーはついにマリア・ミンチンの『番』にされた。
しかも、その残酷な儀式の『証人』として、アーメンガードとラビニアの二人がその場に立ち会わされていた。狂気と絶望の中でただ呆然と見つめるしかない彼らの目の前で、気高きダイヤモンドは泥に塗れ、悪魔の所有物へと成り果てたのだ。
新大陸のダイヤモンド鉱山という不確かな希望が入っていると信じていた手紙は、空っぽだった。
肉体は完全にミンチンに支配され、逃げ道はすべて絶たれた。
しかし——。
セーラ・クルーの『心』だけは、決して折れてはいなかった。肉体がどれほど汚され、快楽に作り変えられようとも、セーラの瞳の奥に宿る気高い光だけは、誰にも奪うことはできなかったのである。
ここから、セーラの真の反撃と学園の権力図が激しく入れ替わる『狂乱の第二幕』が幕を開ける。
◇
「……どうだい、セーラ。少しは自分の立場が理解できたかな?」
数日後。ミンチンの私室。
ふかふかのソファに深々と腰掛けたミンチンは、足元に侍らせたセーラの顎を指先で持ち上げ、満足げに微笑んだ。
セーラの白い首筋には、生々しい噛み跡が赤く残っている。
「私の番になった気分は? 」
「……」
セーラは無表情のまま、ミンチンの目を見据えて沈黙を貫いた。
その冷ややかな態度に、ミンチンは面白そうに目を細める。
「強がるのもいいが、そろそろ素直になったらどうだ? お前が心から私に屈し、私の気持ちを受け入れてくれるのなら……あんな氷室のような屋根裏部屋からは、すぐに出してやる。美味しい食事も、温かいベッドも、そして少々の自由も、すべてお前に与えよう」
「……お断りします」
セーラは静かに、だがはっきりと拒絶した。
「僕の身体はあなたのものになったかもしれませんが、心まで売り渡した覚えはありません。屋根裏部屋のネズミたちの方が、よほど気高く美しい魂を持っています」
「……ふん。相変わらず可愛げのないじゃじゃ馬だ。まあいい、いずれ泣いてすがりつくようになるさ」
ミンチンは余裕の笑みを浮かべ、セーラの髪を乱暴に撫で回した。物理的な支配を完了したミンチンにとって、セーラの反抗すらも心地よい戯れに過ぎなかった。
◇
その日の深夜。
冷え切った屋根裏部屋の重い扉が、ギィッと静かに開いた。
「……セーラ」
入ってきたのは、アーメンガードだった。首にはラビニアに嵌められた『アルファ用制御チョーカー』が重々しく光っている。チョーカーの効能によって完全に狂気から解放され、正気を取り戻した彼は、ひどくやつれ、憔悴しきっていた。
アーメンガードはセーラの姿を認めるなり、冷たい床に両膝をつき、深く頭を擦り付けた。
「……すまなかった。俺は、お前に……取り返しのつかないことをした」
震える声で、ただひたすらに懺悔を繰り返す。
空の封筒でセーラを絶望させ、あまつさえミンチンの前で見世物のように凌辱される姿を見殺しにしてしまった罪悪感に、アーメンガードの精神は押し潰されそうになっていた。
「この俺を許してくれとは言わない。……でも、せめて謝らせてほしかったんだ」
床に涙をこぼすアーメンガードを見下ろし、セーラは冷徹な声で告げた。
「……許してやってもいいよ、アーメンガード」
「え……?」
顔を上げたアーメンガードに、セーラは氷のような瞳で条件を突きつけた。
「ただし、その首のチョーカーは一生外さないこと。……そして以後、君は僕の『下僕』になること。僕が命じることすべてに従うなら、君の罪を許してもいい」
それは、かつて彼がセーラに放った言葉の意趣返しであり、同時に学園で生き抜くためのしたたかな計算だった。
正気に戻り、罪悪感に囚われた彼を『駒』として使う。気高きダイヤモンド◇プリンスは、ただ泣き寝入りするような弱者ではなかった。
「……ああ。わかった。僕は、君の下僕だ」
アーメンガードは再び深く頭を下げ、セーラへの絶対的な忠誠を誓った。
◇
翌日の昼休み。
中庭の隅で、ロッティが壁に手をついて激しくえずいていた。
「うっ……げほっ……」
「大丈夫か、ロッティ! ほら、水……」
ラビニアが背中をさすりながら、心配そうに水筒を差し出す。
ロッティのつわりは日に日に重くなっており、もはや隠し通すのが難しい状態にまで悪化していた。
「おいおい、なんだあれ。キモチワルイな」
不意に、下品な嘲笑が響いた。振り返ると、そこにはジェシーを引き連れた生徒会のメンバーたちが、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて立っていた。
「最近、よく吐いてるよな、ロッティのやつ」
「誰の子を孕んだんだか……汚らしいオメガ」
「おい見ろよ、ラビニアが介抱してるぜ、オメガ同士で慰め合ってんのかよ、傑作だな」
容赦なく浴びせられる蔑みの言葉。ラビニアはロッティを庇うように前に立ち、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「……やめろよ。お前らには関係ないだろ!」
「なんだと? オメガの分際で生意気な……」
ジェシーがラビニアに掴みかかろうと手を伸ばした、その時だった。
「やめろッ!!」
怒号と共に間に割って入ったのは、アーメンガードだった。
「お前たち、ロッティから離れろ! 生徒会長として命じる、そんな見苦しい真似は……!」
正気を取り戻したアーメンガードの凛とした声。かつてのカリスマ性を取り戻したかのようなその威圧感に、生徒会メンバーたちは一瞬怯んだ。
だが、ジェシーはすぐに冷笑を浮かべ、アーメンガードの胸ぐらを軽々と掴み上げた。
「……ハッ。何言ってんだ、お前?」
「ぐっ……!」
「寝ぼけてんのか? お前はもう生徒会長じゃない。……オメガの分際で、俺に命令すんな」
ジェシーはアーメンガードをゴミのように地面へ突き飛ばすと、生徒会メンバーたちに向かって大声で宣言した。
「よく聞け! 新しい生徒会長は、この俺、ジェシーだ! 役立たずの元会長もろとも、こいつらオメガどもにたっぷりと『指導』をしてやれ!!」
「「「おおーッ!!」」」
アーメンガードの完全なる失墜。
そして、ジェシー率いる新生徒会による、新たなる虐めの標的が定まった瞬間だった。
つづく
47話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8193
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かつて僕 たちがセーラにした陰湿な『指導』。今度はそれがラビニアに向けられ、すべてを失った僕はただ傍観することしかできなかった。絶望して逃げ出したラビニアに手を差し伸べたのは……セーラ、君だったんだね。
次回、A-Little-Prince 第48話。
君の気高く恐ろしい愛に囚われた僕たちは、もう一生もがき続けるしかないんだね……ッ!
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