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#49 セーラ♡ベッキー やけぼっくりな情事

「……冬休みの間、しばらく会えないわね」 下働き用の狭く薄暗い部屋。ロッティの少し丸みを帯びてきた腹をそっと撫でながら、ベッキーは寂しそうにぽつりとこぼした。 最近、ロッティは時間を見つけてはベッキーの部屋に入り浸っていた。身重になり、心身ともに不安定になっている彼にとって、ベッキーの優しく包み込むような温もりだけが、唯一の安らぎだったのだ。 ベッドに身を横たえていたロッティは、ベッキーの手に自分の手を重ね、小さくため息をつく。 「……うん。でも、帰らないってわけにはね」 ラビニアやアーメンガード、そしてロッティをはじめとする生徒たちは、次々と馬車に乗り込み、実家へと帰っていく…… そして、冬休みがやってきた。 ミンチン院長も、ロンドンにいる有力な後援者への挨拶回りを理由に、長期間学園を留守にするという。一部の教師や使用人たちも休暇に入り、常に誰かの足音と冷たい視線が絶えなかった学園は、嘘のように静まり返る。 広大な建物にぽつんと取り残されたのは、下働きのベッキーと、ミンチンの『所有物』としてここに縛り付けられているセーラ。もはやこの冷たい城には、彼ら二人だけだった。 ◇ その日から、二人のささやかで大胆な冒険が始まった。 昼間は誰もいない厨房に忍び込む。戸棚の奥に隠されていた上質なチーズや甘いジャム、厨房長が隠し持っていた干し肉などを引っ張り出しては、二人で腹いっぱい食べた。 かつてセーラが下働きだった頃、ひもじさに耐えながら眺めることしかできなかったご馳走を、今は笑い合いながら分け合っている。 そして夜。 二人が向かったのは、冷え切った屋根裏部屋ではなく、最上階にあるミンチンの豪奢な私室だった。 「せ、セーラ様……本当にいいの? 私なんかが、こんなところに入って……」 「大丈夫。あの人は当分帰ってこないから……」 おずおずと足を踏み入れるベッキーの手を引き、セーラは悪びれもせず暖炉に火をくべた。さらに、飾り棚からミンチンが大切に保管していた年代物の高いワインを勝手に開けると、並べた二つのクリスタルグラスに注ぐ。 暖炉の赤い炎が、ワイングラスと二人の顔を優しく照らし出していた。 グラスの縁がそっと重なり合う澄んだ音が、静寂に包まれた部屋にひめやかに響く。 芳醇なワインを口に含むと、身体の芯から甘い熱が広がっていく。高級な絨毯の上に座り込み、炎の揺らめきを見つめながら、二人はぽつぽつと言葉を交わす。 やがて夜が深まるにつれ、酒のペースも早まっていった。 空になったボトルが二本、無造作に絨毯の上に転がる頃には、もうほとんど言葉は必要なくなっていた。 酔いが回ったベッキーの頬はほんのりと赤く染まり、その瞳は熱を帯びて潤んでいる。 セーラは無言でグラスを置くと、ベッキーの肩にそっと頭を乗せた。ミンチンから与えられた上質なシャツの襟元から、甘く熟れたようなオメガのフェロモンがふわりと立ち昇る。 身分は違う。運命の番でもない。けれど、この冷酷な学園で一番初めに出会い、一番底辺の痛みを共有した二人の間には、誰にも踏み込めない特別な引力があった。 セーラはゆっくりと顔を上げ、ベッキーの柔らかい唇に無言のまま自分の唇を重ねる。 ワインの香りと、ほんのりとした甘さが口内に広がる。ベッキーは一瞬、戸惑うように肩を震わせたが、やがて目を閉じ、セーラの細い腰にそっと腕を回した。 セーラはベッキーの指に自分の指を絡め、ゆっくりと立ち上がる。そしてそのまま手を引き、ミンチンが毎夜自分を抱き潰している、あの広くて豪奢な天蓋付きのベッドへと足を踏み入れた。 憎悪と苦痛の象徴だったその場所で、今夜だけは、互いの傷を慰め合うように甘く深く愛し合う。 ◇ ——事後。 激しい熱が引き、気怠い静寂が降りてくる『賢者の刻(タイム)』。 薄暗いベッドの上で、セーラの脳裏には、屋根裏部屋で自分に縋り付いてきたラビニアの姿が浮かんでいた。 一方、セーラの腕の中でまどろむベッキーの胸の奥にも、不安そうに自分を見つめていた身重のロッティの顔が焼き付いている。 それぞれが、別の相手に対する仄暗い『罪悪感』を抱えていた。 けれど、誰もいないこの魔法の国では、その罪悪感すらも夜の静寂に溶けて、甘い背徳のスパイスへと変わっていく。 学園の本当の主人が不在の冬休み。降りしきる雪に閉ざされた部屋で、二人のひめやかな共犯関係は、どこまでも深く堕ちていった。 つづく 49話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8196 — 冬休み、街でデュファルジュ先生と会って衝撃の事実を知った。セーラを救い出す希望となる『弁護士からの手紙』……それを、あのロッティが預かっているだって!? なんであいつ、(アーメンガード)のところに持ってこなかったんだよ! ……いや、完全に冷え切って壊れた今の俺たちの関係じゃ、それも無理もないか。 次回、A-Little-Prince 第50話。 でも、これがあの鳥籠からセーラを解放できる唯一の光なんだ。ロッティ……頼む、俺にその手紙を渡してくれ……ッ!

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